episode9-4 革命
シェリル=メルヴィーネスを名乗る女性局員がMZB社社長ダクトナーレ=グローレンスの不祥事、ルレノ崩壊事変の真相を国営放送で資料を添えて内部告発を大々的に行ったニュースは一日でマルクセング中に伝わった。コールの第三者調査委員会がすぐさま介入。彼女の告発が事実であることも、すぐに立証された。
「これより、MZBの緊急人事会議を行います。」
ダクトナーレ=グローレンスは逃走し行方不明。MZB3軍隊の元帥三人の発言能力はこの一件のせいで消失。シェリル=メルヴィーネスを名乗る幹部局員は、あっさりとMZBの全権を借りの立場とは言え掌握した。この人事会議で話し合われたことは、三元帥の罷免の会議。・・・しかし、信頼問題にまで発展し、議長を務める女によってクビを飛ばされる可能性があると思った兵士達の忠誠心など、あってないようなもの。全会一致で三名の不祥事の責任を取らせる形での罷免が確定。行方不明のダクトナーレに変わり、その女はMZBを本当の意味ででも掌握した。
そして一週間後。元元帥三人の非公開の軍事裁判が行われた。
「久しぶりね、お三方。」
「クローン、貴様・・・!」
「クローン?貴方達、自分の立場わかってて言ってるの?・・・まぁわかってて貰わなくてもいいわ。このために生かしておいたんですもの。見せしめのために処刑台に立ってもらわないとね。」
そして、判決は一週間以内の三名の処刑、ルレノ崩壊事変に関わった兵士全員の終身刑、スキンエンパイア代表セレンへの賠償金の支払いを行うという内容になった。・・・その後、セレンはその賠償金を元にルレノを再建。三か月後にはスキン公国と名を改め、再び政府機関クロスケーションを立ち上げ国家総司令官に就任。副司令官にはスズが就任、外部派遣になった国家軍事長にはクレイバーが就任した。
その二か月後、シェリル=メルヴィーネスは姓名変更を行い、シェリル=コンスタンティウスを名乗るようになった。二重国籍問題が起きないようにコールルピックの戸籍は抹消し、後に帰化という形でコールルピック人に戻った。そしてもう一つは、行方不明になっていたダクトナーレ=グローレンス社長の捜索の打ち切りを打診した。
(二ヵ月も捜索させちゃったけど、私が殺して絶対に見つからない魔空間に死体を放置したのよ?絶対に見つかるわけないじゃない、馬鹿らしい。)
見つかるわけがないという確証が、シェリル=コンスタンティウスにはあったからだ。実際、二ヵ月捜索を行っていた兵士達もこれ以上の捜索は困難だと一ヵ月前から思っていたらしく賛成も多く終了。ダクトナーレ=グローレンス社長は不祥事の発覚を恐れ逃亡、行方不明のまま死亡した、と報道された。
その三日後、役員会議が行われ、後任の社長を誰にするか、と言った旨の会議が行われた。莫大な資産と権力を持つMZBの社長であるため、揉めるかと思いきやほぼ揉めることはなくシェリル=コンスタンティウスの社長就任が妥当であろうと決まった。MZBの内部の不祥事を吐き出し、その後の後始末もきっちり行ったことが評価されての指名だった。
この大革命は、六月革命と呼ばれた。
そして。
赤いポニーテールに黒いスーツ。MZB社の新社長シェリルは、社長室で雑務をこなしていた。定時には仕事を終えるようにしている。凄まじい勢いでこなさねば終わらないその仕事の量は、流石一国を支配している大企業であるなと思わされた。
「ふぅ。・・・まさか本当にこれまで押し付けられるとはねぇ・・・。」
「メルヴィーネスの戸籍を使う?」
「そうよ。メルヴィーネスの戸籍は生きてるはずだわ。彼女、MZBの幹部職だった。指紋も顔も声も同じ私よ、絶対バレないわ。」
「・・・成程。でもそのあとは?多分後処理全部押し付けられるわよ?」
本当に押し付けられるとは思っていなかった。しかも社長の地位まで押し付けられてしまった。ほったらかして逃げ帰れる性分でもなかった彼女は、こうしてMZB社の女社長として仕事をしている。魔硝石は、スキン公国国家総司令官セレンとの連名ですべて管理している。友好の証として、スキンとの冷戦関係の終結を宣言しセレンとシェリルは同盟を結ぶことを公表していた。スキン公国と名を変え、現在もともとスキンであった場所の再建を目指し、セレンとスズは人員を募集している。その整地も進んでいき、5年ほど経てばこちらも再建できるであろう、とセレンは楽しそうに語っていた。一方で、もう一人更なる激務に追われている人間がいた。
「社長。スキンの書類と軍部の書類の確認終了しました。」
「お疲れ様、クレイバー。・・・二人の時はシェリルでいいって言ってるのに。いつもみんなに見られてるわけじゃないんだから。」
クレイバーは、MZBの陸軍元帥、副社長としての業務とスキン公国の国家軍事長としての業務を同時に行っている。シェリルの協力の元だ。
二人は、現在交際している。どちらか片方が言い出したわけではないが、プライベートな時間も共にするようになった。仕事中は、特に社員の前では上司と部下の立場を崩せないためにクレイバーは堅い口調になってしまっていた。
こうして、ガイアの魔硝石を巡る戦いには終止符が打たれた・・・が。
そう、シェリルはまだ戦いと騒乱は終わってないと感づいていた。
明朝、シェリルはスキン公国にクレイバーを伴い発った。
「ようこそシェリル。」
「外交辞令はいいわ。今日は前もって連絡した通りの話だから。」
「わかったわ。マルクセングの事はスズや新しいクロスケーションの幹部で貴女達のいない間見ててあげる。スキンの事で礼もあるし、貴女には色々したからその借りもあるし。にしても失踪したアイツの行方を追うなんてどういうつもり?」
「色々と事情があるのよ。…次元石を持ち込んだ理由も問いただしたいし。」
・・・ところ変わって、第一銀河エレデアス。
突如失踪したクロスケーション元国家軍事長アルゴンは、ここにいた。
「・・・シェリルが全ての魔硝石を集めたか。」
アルゴンが、紫色の髪の女からの報告に答える。
「はい。恐らく、アラフォースらは此方へ来るかと」
「成程な。70年前の奴ならともかく今ではいくら奴でも魔硝石を全て持っているくらいでなければ俺に勝てる見込みはないからな。」
「どうしましょうか。私からガイアに赴いて始末を。」
「いや、必要ない。俺一人で迎え討てば充分だ。お前を失うわけにはいかないからな。」
その金髪の男からの言葉に、紫髪の女は笑みを浮かべる。そして、答える。
「了解しました。仰せのままに、アルゴン・・・いや、エスカフローラ=ヴァレンス様。」
~銀河騒乱第一部 完~




