episode9-1 ジューン・レボリューション
魔空間を脱出した翌日。シェリル達は、倭国にいた。
「なんでこんな所に来たんだ?」
「ここなら何を話してもマルクセングには漏れないからね・・・セントラルトルムに乗り込むのよ?堂々とコールで話す自信はないわ。」
そして、シェリル、クレイバー、セレンの三人でMZBの本拠地、セントラルトルムに乗り込みダクトナーレを打ち倒す算段の話し合いが始まる。進入手段の話し合いはすぐ終わった。問題なのは、どうやってMZBの権利を掌握するかだった。・・・それをどうするかも、シェリルの知恵で三人は合意した。
「もし、これが成功したらスキンの復権を約束するわ。絶対に、スキンを蘇らせてみせる。」
「・・・ありがとう、シェリル。」
「しかし、そんな上手くいくか?」
「クレイバー、上手くいくかどうかじゃないの。やらなきゃいけないのよ。・・・それに私達、どんな理由があろうとももうMZBの局員3人も殺している事実を忘れちゃいけないわ。もう引き下がれないのよ。」
そして、三人は話し合いが終わると倭国を後にし、コールへと渡った。コールではアラフォースが待っていた。今まで見たことのない大きな鎌を携えて、だ。
「アラフォース、どうしたの?そんな大きな鎌持って。」
「・・・今まで貴女達にやらせっぱなしでしたからね・・・。最後くらいは、協力しましょうか。」
そして、武器を持ったアラフォースと共にフィエロ坂を下りる。降り切ったところで見えたのは、MZB本社ビルセントラルトルム。四人ともアラフォースからフードを借り、目深く被っている。セレンは殊更だ。
「・・・まさか、俺があんなに憎んでたセレンと一緒にこんなことをすることになるなんてな。」
「クレイバー、怖気づいたの?」
「まさか、そんなことないさ。」
そして一行は、セントラルトルムに入る。銀行業務を請け負っているフロントを完全に無視し、奥へ立ち入る。
「お客様、そちらは本社になりますので立ち入りは・・・」
「お客様ァ?」
「残念だけど私たちは」
「クロスケーションとテロリストよッ!!」
そして、四人とも一斉にフードを投げ捨てる。テロリストという言葉に似つかわしくない一行は、引き留めに来た警備兵をあっという間に昏倒させ、なぎ倒す。
「警備兵じゃお話にならないわね。存在自体が魔硝石みたいな人間が二人もいるものね」
「ただ、ダクトナーレと戦うときに魔術が使えないんじゃ話にならないわ。できるだけ魔術は使わないで行って」
「わかったわ・・・前衛のお二人さん、任せたわよ。」
・・・そして、五階の大広間にたどり着き。
「来たぞ。クローン・シェリルだ。」
「奴らが持っている魔硝石は3つだ。叩き潰してやろうじゃないか!」
「心配するまでもない。我々の手にかかれば簡単に叩き潰せるだろう。」
三人の声が聞こえてきた。サンレイズとジェクター、それにリトラート。
MZB軍の首脳三人が勢揃いした体だ。
「サンレイズ!ジェクター!リトラート!どこだ・・・どこにいる!出てこい!!」
「言われなくても出てきてやるさ。」
そう言い、サンレイズが出てくる。
「サンレイズね。とりあえず、そこを退いてもらえるかしら。」
サンレイズは、四人を前にしてもなお笑みを浮かべている。魔硝石をより多く持っていること、MZB軍元帥三人が勢揃いしていることを踏まえても、その笑みは不気味であった。
「まぁ待て。こちらは三人、そちらは四人だ。・・・僕たちMZBが、何の対策も無しに君達魔硝石保持者と戦うとでも思っているのかい?」
そう言うと、サンレイズは指を鳴らす。それに呼応するように床が沈み、シェリル、アラフォースとクレイバー、セレンとが分かたれた。
「!!クレイバー!セレン!」
「汚いぞ!堂々と戦え!」
「モラルを持って戦うことによる利益は今のところないのでね。君とセレンを倒してから位でないとシェリルを倒せるかがわからないからな。」
そして、クレイバーは言う。
「・・・成程な。そっちがその気なら・・・まとめて片づけてやるよ!!」
・・・と言ったものの。
クレイバーには、セレンと戦ったところでこの時点では一人を倒せるのがいい所だろうと言うのはわかっていた。
セレンは月光石を持っており、クレイバー当人も現在でこそリトラートと張り合う能力はあるものの三人同時でしかも相手の保持する魔硝石は少なくとも四個、となると明らかに実力が足りない。
そうすると、彼らにできることはただ一つ。圧倒的な魔力を誇るシェリルが出てきた瞬間に一斉に魔術を放てるだけの時間を稼ぐ事だ。彼らの様子を見る限り、彼らはシェリルが魔術を発動直前に数個ストックして一斉に放つことができることを知らない。となれば、後手に回ったシェリルが一斉に攻撃をかければ、いくら彼らであろうと甚大な被害は避けられないだろう。
勿論、シェリルもそれを理解している。そのため、下に沈んでいる間、シェリルは集中を続ける。
クレイバーは攻撃を仕掛ける。しかし、三人対二人で、しかも相手は魔硝石を四つ保持している。
攻撃は、無情に弾き返されクレイバーは三人から一斉に攻撃を受ける。
クレイバーは、血を流しても倒れなかった。セレンも、時間を稼ぐために攻撃を仕掛け続ける。たとえ攻撃ができなくなり、仁王立ちを続けるだけになっても。
「・・・何故だ!何故倒れない!」
「・・・クククッ。お前ら、一番の失敗をしたことに何時気づくかな。」
「はいはーい、無駄に意地張ってないで倒れて。どうせ、もう攻撃できないでしょう?」
その言葉に気が抜けたのか、クレイバーはいきなり膝をつく。セレンも力が抜けたのか倒れる。倒れた二人のその顔には笑みが浮かんでおり、その顔でサンレイズ達は不穏な様子を察知する。
「・・・!しまった!!」
「アハハハハハ!!そうよ!!私達を後回しにしたのは失敗だったわね!!」
シェリル達の立っていた床が競り上がってサンレイズ達に認識できる状態になり、アラフォースが自身の魔力をある程度シェリルに送ったことによりシェリルの髪が高すぎる魔力で逆立っているのを確認できたとき、サンレイズ達は失敗を悟った。しかし、それはもう手遅れ。シェリルの周囲の魔力が完全に消滅した時には、サンレイズ達は一気に放たれたシャドウサーベルによって嬲られ、血を吐き倒れていた。
甚大な被害、などというものですらなかった。あれだけの苦戦を今のクレイバーとセレンに強いた元帥たちを、僅かな抵抗も許さず圧倒的な勢いで屠り去ったシェリルの破壊的な魔力。その圧倒的な力に、クレイバーはシェリルが味方であるにも関わらず、怖れを覚える。
「シェリル・・・強くなったな。」
「お褒めにいただき光栄です。・・・さてと。魔硝石は全部貰うわね。火炎石、疾風石、黄金石、氷河石と。社長室は上ね。・・・で。」
そしてそのまま、シェリルは既に戦える状態ではなくなっている三人を、これでもかというほどにボロボロに蹴りを加えていく。傷口をこれでもかと抉り、三人の生気を奪い去る。
「本当だったら今すぐ全員この場で殺してあげてもいいんだけど。貴方達には利用価値があるから半殺しで勘弁してあげる。・・・まぁ、今死ぬか近いうちに死ぬかの違いだけどね。」
凄むシェリルの眼光は、恐ろしく冷徹なものだった。




