episode8-3 過去
メルヴィーネスの護衛となる影の兵士がシェリル達に襲い掛かる。それをシェリルは、月光石の力で薙ぎ払って行った。
「チッ、役立たずどもが!」
それを見て影の兵士の召喚をやめたメルヴィーネスが暗黒石から魔術を放つ。シャドウサーベルと呼ばれる魔術は、シェリルの服をこそぎ取る。寸でのところで回避したが、まともに食らえば致命傷になりかねない。メルヴィーネスの持つ魔硝石、暗黒石は闇属性の魔硝石。屍術と呼ばれる強力な魔術ばかりを使えるようになるその魔硝石は直接的な脅威となりうる。セレンも暗黒石を持つメルヴィーネスには太刀打ちすることができずその場で捕まえることはできなかったのだ。
「あんたが消えれば私にとっての平和が戻る。世界がどうなろうが知ったこっちゃないよ。ただあんたの存在だけは認められないんだよ!」
「・・・そんな自分勝手な理由で消されてたまるものかッ!」
再び来たシャドウサーベルを、シェリルはライトクロスで打ち消す。メルヴィーネスの魔力さえもを上回るシェリルだからこそできる技だ。
しかし、詠唱後放たれたライフルの弾丸をも避けることは叶わず、シェリルの脇腹を抉りぬく。銃創から血が大量に流血してもなお、シェリルは倒れなかった。
「この世にシェリルは私一人でいい・・・お前なんていらないんだ・・・なんで、なんでッ!!」
「例えどんな理由で生まれたとしても私は私という個人よ・・・貴女とは違う別の人間よ。だから、否定されるいわれはない!」
そして、守勢から攻勢に転じたシェリルは暗黒石を利用する。シャドウサーベルをそっくりそのままメルヴィーネスに打ち返す。
自らの援護をする筈の魔剣が自分に襲い掛かり、メルヴィーネスは避けることもできずそのまま攻撃を食らう。こちらもまた倒れなかった。
「ふざけるな!!たとえ何をどう言おうがあんたは私の偽物だ!!」
そう怒鳴り散らすと、さらにメルヴィーネスの魔力は増幅する。ダークチャージと呼ばれる、自らの体力を犠牲にし魔力を上げる魔術だ。
だがしかし、それが仇となってしまった。シェリルに注意が行き過ぎるばかりに、クレイバーとセレンに目が行ってなかったのだ。
次に放ったシャドウサーベルをシェリルがライトクロスで弾き返しきれず両腕に傷をつくり膝をついたと同時に、クレイバーの銃剣による一閃で脹脛から大量に流血をするとともに、傷口を容赦なく抉るセレンの蹴りが足に入ったことで失敗を悟る。
元々体力が特別優れるわけではないメルヴィーネスが、ただえさえ少ない身体能力を抉ってまでその力を魔力に回してしまえば、最初から力技で押してくる二人に勝てるはずがない。隙を見て回復魔術を放ったシェリルが、すぐさま立ち上がる。
そのまま無慈悲にライトクロスを更に浴びせかけ、メルヴィーネスを打倒した。
「クローン・・・あんたはいったいどこまで私の人生を狂わせるつもり!?」
「次元石を破壊する必要がありました。そのためにはどうしてもシェリルが必要でした。」
「私なら自分で破壊したね。そんなことせずとも・・・!」
「次元石は一人に対し一つの操作を割り当てます。それから逃れるには、どうしてもシェリルの力が必要だったのです。」
・・・今から16年前。
老魔術師ルサナの前に、アラフォースが現れた。赤髪の、不思議な眼の光を湛えた少女を連れて。
「ルサナ。50年ぶりですね。」
「アラフォースかい。あんたと話すようなことはないよ。帰ってくれないか?」
ルサナのその台詞からは露骨な嫌悪感が露わになっていた。しかし、それを気にすることもなくアラフォースが続ける。
「貴女に頼みがあって来たのですよ。」
「相変わらず話を聞かない男だね。それで?頼みって何だい?」
「この子を育ててもらおうと思いまして。私が育てると、ひねくれた子供になりかねないでしょう?」
「確かに、あんたが育てたらろくでもない育ち方をしそうだね。でもそれだけの理由じゃないでしょう。その程度の理由でそんなことを頼みに来るとは思えないんだけれど」
ルサナの推察はよく当たるとコールタウンの住人の間では評判だった。その通りその推察は当たりで、アラフォースは本題を切り出す。
「そうですね。本題を出しましょうか。本題とは次元石の話なんですが。」
次元石。それは国家単位の機密事項として扱われている、魔硝石の保持者及び各国の首脳にしか知らされていない魔術の行使を簡単に可能とさせる石の内の一つで数年前にアルゴンと名乗る謎の金髪の男が持ちこんだ無属性の魔硝石だ。しかし、その存在を疑う人間が一人いた。
「次元石か。確かスキンにある何の属性も持たない魔硝石だったね。でもあれ、本当に魔硝石なの?」
そして、この紫髪の男は確信をもって言う。
「そうです。次元石は魔硝石などではありません。次元石は魔硝石ではなく人の思考を操る機械です。本来死んでいる筈の私、本来この世界にいない筈の貴女は操作の対象外になっているのでしょう。だからこそこの存在を疑えるわけです。」
「成程ね。ところでその子はどうなんだい?」
「シェリルですか。シェリルも操作の対象外ですね。」
「シェリルっていうんだね。どうしてだい?この子はどちらにも当てはまってないと思うんだけど」
「簡単な話ですよ。一人しかいない筈の人間を二人にしてしまえば演算処理の大前提である一人に対し一つの思考を割り当て、という段階でエラーを引き起こせます。」
要するにこういうことだ。
次元石にはガイアにいる筈の人間一人一人に対し、一つ一定の思考になるように計算をし、割り当てている。
それをアラフォースはクローン人間を作ることにより妨害したのだ。彼の目的である、次元石の破壊のために。
次元石の破壊にまでは考えが及ぶことはなかったが、ルサナはその話を聞き、穏やかな態度ではなくなっていった。
「・・・アラフォース、あんた自分が何を言ってるのかわかっているの?人様のクローンを勝手に作ってそれを他人に育てさせようって言ってるのよ、あんた!!」
「・・・本来ならば私もシェリルを育てる気でした。そのためにこの子に魔力を与えたり色々しましたし、他人に任せたくもありません。ですが私にはもう時間が無くなってしまったのです。ご存知の通り、今の私は自分の魔力によってこの世界にとどめられています。つまり私の魔力がなくなったとき、私は死ぬことを意味しています。」
「・・・何が言いたいの?」
「私自身の魔力が不足しているため、シェリルの面倒を見るのも難しいのです。・・・シェリルの事、任せましたよ」
そう言って、アラフォースはさっさと立ち去ってしまう。
「待て!アラフォース!」
ルサナはその勝手に立ち去ろうとした身勝手な男を追おうとした。しかし、追いかけることはできなかった。何の力も持たないと思っていた少女が、炎の球を放ったからだ。
「言い忘れましたが、その子は魔術を使えますので。」
「・・・おばあちゃん・・・。」
「・・・あんたの過去もそのクローンの過去も関係ないね。」
「・・・態度を改めるなら、このまま助けてあげるわ。」
「態度を改める・・・?はっ、そんなものあるかよ!あんたの存在なんか認められるか!あんたみたいな後から湧いて出たようなクローンに・・・!!」
そう言い放ち、銃口を向けるメルヴィーネスをシェリルは軽蔑の目線で見下げた。そのまま後ろを見たシェリルに、銃弾が襲い掛かるようなことはなかった。メルヴィーネスの胸に見舞われた銃剣の刃が、それを妨害していたからだ。致命傷に確実になりうるその一撃で、メルヴィーネスは完全に力なく崩れ落ちた。血を吹き倒れ、そのまま動かない。
「・・・シェリル。世の中、お前みたいに優しい奴ばっかりじゃない。」
「私が優しい?優しくなんてないわよ・・・私はただ、甘いだけ。貴方が殺すってわかっててあんなこと言ったんだもの。」
「早く魔硝石を取れ。」
「・・・ええ。」
シェリルの澄んだ瞳が、その時だけは曇って見えた。




