episode8-2 矛盾
ゲートを超えた先の空間。魔空間と呼ばれるその空間には暗黒石の魔力によって作り出された影の兵士とも呼べる幻影がシェリル達に襲い掛かる。セレンとシェリルの二人からライトクロスの魔術が放たれ、一瞬で霧散する。
「なんていうか、ファンタジーの世界ね」
「つい三ヶ月だか前まで魔術の存在も知らなかった俺からしたらもうこんなの不思議でもないけどな」
幸い、シェリルの魔術が封じられるなどもなく進み続ける。その間、セレンから魔硝石崩壊事件の詳細を聞き出す。
そうすると、真相はこうだという。
シェリル=コンスタンティウスとおぼしき女性が次元石を破壊した。それは、シェリルもクレイバーも知ってる共通の知識。ただ、詳細を聞くとセレンがどうしても突き止められなかった矛盾点がいくつかあったのだという。
その時来たシェリルは『何故か』どの様に入手したのかが全く分からない暗黒石を保持し、『何故か』魔硝石の使い方を完璧に理解しており、『何故か』銃火器の知識を一切持ってないはずなのにライフルを使用し次元石を破壊したのだという。
二点は調べようのないことであったが、一点は『クロスケーションが逮捕した』シェリルが魔硝石が使えないのはほぼ大多数の人間からの証言であり、確実な事実であった。
「・・・やっぱりね。メルヴィーネスは多分マルクセングじゃなくてコールから捜査が始まることもわかってたんだ。そんな矛盾点もDNAみたいな確定的な情報の前じゃ揺るぐようなことでもないしね。」
「まだ決まったわけじゃないけど・・・ってことは私は本当に無実だった貴女を裁こうとしてしまったのね・・・。」
「仕方ないわ。こんな事、普通思いつくことじゃないですもの。・・・もう過ぎたことよ。そんな確執、なかったことにしましょう?」
そして、さらに進む。その奥に、メルヴィーネスはいた。
「メルヴィーネス。お前のことはマーティから聞いた。」
「マーティね。またえらく懐かしい名前だね。それで、マーティがどうしたって?」
「お前はマーティを利用した。違うか?」
「利用したとは人聞きが悪いね。頼みを聞いてやっただけだよ。」
「頼み・・・だと?」
「あいつ、どうしてもあんたへの優越を証明したかったみたいだからね。」
「・・・それが、ルレノへの攻撃か?」
「当然でしょ。力の証明のためには実際の力を証明しなければ意味がないからね。」
「ふざけるな!」「ふざけないで!」
セレンとクレイバーが同時に叫ぶ。怒りの内容は双方違うが、理不尽なものには変わりない。この目の前の赤髪の女にクレイバーは故郷を奪われ、セレンは自らの生まれ育った祖国に言われもない汚名を押し付けられたのだ。個人の理由で我慢できるものでは、到底ない。
「ルレノの仲間は関係ねぇだろうが!なんで関係のない人間を巻き込む!?」
「それにスキンも何も関係ないじゃない!貴女の気まぐれのためにスキンは・・・!」
しかし、その二人の怒りを受け止める気はこの女にはない。
「最初はマーティもそんなこと言ってたっけね。スキンもルレノも関係ないとかなんとか。なんでこうなったかって勿論マーティが私の考えを受け入れたから。説得には時間がかかったけどね。」
「・・・なるほどね。あんたには自分に関係ない人間はどうなろうと関係ないと。随分とご勝手なことじゃない。」
「誰が勝手だって?勝手にあたしと同じ細胞を持って生まれたあんたが一番勝手なんだよ。わかる?」
打って変わって、メルヴィーネスは怒りを示す。目の前の、自分と全く同じ風貌を持つ女に。
「・・・やはりメルヴィーネスは気付いていたようですね。」
「あたしはMZB中央情報調査局長。今までこいつの情報が入ってこないと本気で考えていたわけ?」
「成程成程。ところで貴女はどこまで知っているのです?」
「さてね。この問題を起こした張本人が何を言ってるの?あんたがこのクローンを作ったからこの問題が起きたんじゃないか。」
自分がクローンであることはサンレイズから聞いていた。だがしかし、作った人間については初耳。それが目の前の、紫髪の男。
シェリルが詰め寄る。
「アラフォース、今の話は本当?」
「・・・事実です。私は元々、貴女に次元石を破壊してもらうつもりで貴女を作りました。次元石からの操作から離れた人間を作るには、それしかなかったのです。」
「操作・・・魔硝石に人を操作するような機能はない・・・ひょっとして次元石って最初から魔硝石じゃなかった・・・?」
シェリルが小さく漏らすと、メルヴィーネスは暗黒石に弾丸を放つ。狙撃対象となった暗黒石が壊れるようなことはなく、傷一つなく闇の魔力を湛えたその石は存在する。
「そうだ。本物の魔硝石はライフルで撃ったところで割れなどしない。次元石は運命を司る魔硝石なんかじゃなくて人の思考を操る機械だったんだよ。それをスキンエンパイアは誤って魔硝石として管理していた・・・違うな。次元石そのものが魔硝石として管理させるように仕向けていた。今冷静になって考えてみればわかるだろう?属性のない魔術などないのに無属性の魔硝石が存在するということがいかにして異常か」
セレンにとっては言われてみれば確かに、というか言われなければ気付かなかったことそのものがおかしかったことだ。魔術の知識があれば、どのような魔術でも属性があり無属性の魔術などないというのは常識中の常識。ない魔術を使えるようにする魔硝石があること自体、不自然極まりない。それさえ疑問に思わせなくするほど、次元石の力は強かったのだ。
「だけど、そんなことはどうでもいいことだ。クローン、あんたの存在自体があたしにとって迷惑なんだよ。死んでくれないかな?」
そう言い、メルヴィーネスはシェリルに向けて暗黒石に向いていたライフルの銃口を向ける。そこから放たれた弾丸はシェリルに当たることはない。アラフォースが寸での所に割って入り、その銃口を跳ね上げたからだ。
「シェリル、下がってください!メルヴィーネスは私が片付けます。」
「シェリルは私の名前だ!そのクローンをシェリルと呼ぶな!!」
「・・・アラフォース、下がって。」
その後ろから、シェリルが現れる。これ以上目の前でこの女に身勝手なことは、言わせない。
「メルヴィーネス。あんたにとって私はあんたの姿を借りた不愉快な存在かもしれないね。・・・でもね。私は今こうして生きてる。喋ってる。あんたと違う考えを持ってここに立ってる!その人間を・・・あんたの身勝手な理由で否定はさせない!!あんたの身勝手に私の存在を否定されてたまるものか!!偽物だとかあんたのそんな言葉に意味はない。だって私は・・・自分の意志で動いてるんだからッ!!」
シェリルがかつてないほど感情をむき出しにし、メルヴィーネスに立ち向かっていくのには一秒とかかることはなかった。




