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銀河騒乱   作者: 村山龍香
第一章 ガイア編
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episode7-3 後悔

また時を遡りシェリルがルレノ王城に進入した時。

スキンエンパイアのデーロック議事堂の国家総司令官室、クロムの部屋に血相を変えてセレンが駆け込んだ。

「クロム・・・マルクセングの魔硝石兵器が・・・!!」

「・・・早いな。もう出来上がったのか。間違いはないのか?」

「・・・スズからの伝令よ。間違いないと思うわ・・・。」

「・・・発動までの時間を見積もれるか?」

「・・・恐らく・・・短く見積もって5時間、かかって6時間ってところで・・・」

「・・・そうか。セレン、緊急回線を全国民に繋げて避難命令を出せ。コールルピックヘの避難民の受け入れ要請はこちらでやる。」

そうして、受け入れ要請をコールルピックヘ送信した後クロムは重い腰を上げる。

「セレン、すまない。私は約束を守れそうにないようだ。」

そしてクロムは、司令官室を出ようとする。セレンが指示する階下へ向かう階段とは逆の方に行く気であることには、すぐにわかった。

「クロム!?どこへ行くの!?」

「・・・屋上だ。」

滅びゆくスキンを、逃げようのない場所で見届ける。死を意味するその言葉を口にしたクロムの声音は、心なしか上ずっていた。

「何言ってるの!?今なら間に合うわ!早く逃げるわよ!」

そうセレンは叫ぶ。その言葉に足を止めるが、彼の決意が変わることはない。

「私には、スキンの最期を見守る義務がある。私はこの国の腐った皇族による政治を止め、国家と世界に安定と平和をもたらす・・・と言うのが私の10年前の施政演説だ。覚えているか?」

彼女が、勿論その言葉を忘れている筈がない。彼女はクロスケーションをクロムが引継ぎトップとなる国家総司令官に就任した時からクロムと共に活動し、クロムの右腕として彼女として全力で彼を支え続けてきた。クロスケーションに所属する、誰よりも長く強く。

「・・・私はこの言葉を実現させることはとうとう叶わなかった。しかし、形だけでも示したいのだ。私が民を、国を愛していたということを。」

「でも・・・貴方がいなくなったら・・・私は・・・!」

涙を堪え言葉を繋ぐセレンをクロムは優しく抱き寄せる。そして、震える口で、こう囁いた。

「セレン・・・これは命令ではなく約束だ。月光石を、私が守れなかった民を、頼む・・・ッ!」

クロムは、泣いていた。スキンの事をセレンの事を誰よりも案じ、数々の困難に立ち向かい戦ってきたクロム。しかし、現実はこうも無情だ。彼は、国民以上にセレンを守り抜けなかった自分への情けなさで、セレンの前で涙を流していた。そして優しく髪を撫で、クロムは滅びゆくスキンを一番高くから見守れるデーロック議事堂の屋上へと向かった。もう、セレンが止めることはない。止められなかった。

「クロムッ・・・うわあああああああああああああ!!」

クロムが立ち去ったその司令官室で、セレンは堪え切れず大粒の涙を零した。

そして避難命令を受け、一斉にコールへと渡っていった民衆は共に逃げるセレンの異変にすぐ気づいたことであろう。

涙を零しながらスキンを去る彼女の傍に、本来指示を出している筈であり彼女の一番近くにいる筈のスキンの国民の誰からも愛されていた、あの緑髪の男がいないことに。


そしてルレノの王城跡。ただ茫然とするクレイバーと、苦虫を百万匹程一気に噛み潰したような苦い顔をしたシェリルがそこにはいた。何も知らなかったクレイバーと、薄々実態に気付きながらも声に出せなかったシェリル。双方に、深い後悔の念が渦巻いていた。クレイバーは今までのクロムやリメルに対しての態度に、シェリルは臆病だった自分自身に。そして二人に共通するのは・・・MZBに対しての怒り。

「何だったんだろうな、俺。マルクセングに都合のいいように踊らされて、バカみたいに仇討ちだ仇討ちだ言って」

その言葉に、シェリルは今はもういないあの軽薄な男がクレイバーに言い放った台詞が蘇る。


『・・・どうせ、戻って来やしねえんだ。』


確かに、MZBを、ダクトナーレを潰してもファルクやリメル、クロムと死んでいった人間は戻って来はしない。

それでも。

シェリルは許せなかった。スキンを貶め、コールを迫害したMZBを。クレイバーから全てを奪い去ったメルヴィーネスを。クレイバーとの関係が壊れることを恐れ、推論を言い出すことをできなかった自分自身を。そして、シェリルは決意する。この男と共に、マルクセングを止めることに。MZBを乗っ取り、組織ごと乗っ取ることに。スキンとルレノがやられた以上、コールや自分達が無事だなどと言う保証は、もうないのだ。それならば、自分達が変えてしまうしかない。自分が正しいとは思わない。人から見れば、ただ勝手に燃え上がってマルクセングを乗っ取ろうとしているテロリストと変わらないのだから。それでも、シェリルは自らの手を血に染めてでもマルクセングを止める決意ができていた。それが、永遠の十字架になるとわかっていても。

「・・・クレイバー。なら、これから起こることを阻止することが私たちにできることじゃないかしら?」

そう言って、胡坐を組むクレイバーの背中からクレイバーの身体に腕をかける。そして、こう囁く。

「・・・細かいことを考える必要はない。私と一緒に来てほしいの。魔硝石を持った私たちがやらないで、誰がMZBを打倒できる?今ルレノ崩壊事変の事実を知った私達以外、誰がMZBが悪だと主張できる?・・・真の復讐を果たしましょう?」

こう優しく囁き、クレイバーの復讐心に火をつける。

「・・・わかった。俺もやろう。とことん、付き合ってやる。魔硝石集めも、MZBの破壊も。」

「そう。とりあえず暗黒石を探し出してからMZBに乗り込むのが得策だと思うから、まずは暗黒石を探しましょう。」

「・・・そうだな。とりあえずマルクセングに戻るだろ、その前に持っていきたい物があるからそれを俺の家だったところから取ってきていいか?」

「別にそのくらいの時間ならいいわよ。」

「ありがとう。それと、俺が物を持って出てきたら俺の家の跡は柱一本たりとも残らない様に焼き払ってくれ」


そしてクレイバーの家の跡の前。数分でクレイバーは豪勢な銃剣を持って家から出てきた。それを見て、シェリルは火球をクレイバーの家であったものに放つ。通常の火とは比べ物にならない高い熱を帯びたその火はあっという間に、それを焼き払う。これが、クレイバーの不退転の決意だった。

「もう戻れないわよ。私達は今から、復讐と反逆のために手を血に染める。」

「ああ。」

柱の一本も残さず朽ち果てた建物を焼き尽くすであろうその天を赤く染める業火を背に、シェリルとクレイバーはマルクセングへと向かう。

シェリルはファルク達、死んでいった仲間の復讐のため。

クレイバーはマルクセングの横暴によって失った物のため。

二人に共通するのは、自らが掲げる正義のため。

MZBに、反旗を翻す。この悪夢のような現実を、自分たちの手で変えるために。


「・・・メルヴィーネス、か。」

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