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銀河騒乱   作者: 村山龍香
第一章 ガイア編
19/63

episode6-2 出生

ステルスベースと呼ばれるその基地をシェリル達はひたすら進む・・・のではなく多少時間がかかってもいいのでMZBの内部情報を集めようとシェリルが提案した。スキンエンパイア脱出の時から抱いていた彼女のMZBに対する不信感は最早頂点に達していた。MZBが何の目的を持ち、何をしたいのかが気になって仕方がないためだった。ファルクは当初この事件の解決を優先させるべき、と急いでサンレイズを探し出すように求めたがリメルも危機感を覚えたことを示唆したため結局とりあえずくまなくステルスベースを調査することにした。

そしてその結果、資料室が見つかったのだった。

「やっぱりね・・・極秘に作った施設ならこんな場所があるとは思った。とりあえずみんなで手分けして見ていきましょう。バレたらすぐ戦えるよう魔硝石は疾風石と火炎石を渡しておく。私は一人でいいから、二人で見ていって」

こうしてMZBの極秘資料に一つずつ目を通していくことになった。シェリルが目を通したのは、MZBの人事に関する資料であった。ただそれは表面の人事、つまりは世間一般に公表されている海軍空軍陸軍の人事ではなく情報工作部隊等の裏の人事である。

「情報工作部長マーティ・・・?」

情報工作部の部隊長はマーティ、あのクレイバーの姉であることをまず先に情報として得た。ただ、そんなものよりも彼女にとっては大変なものを見たのである。

「MZB中央情報局・・・局長・・・シェリル=メルヴィーネス・・・!?」

彼女が驚いたのは名前ではない。そこに載っていた自分と同じ名前の女性の顔だった。

髪型は違うものの、輪郭、瞳の色、髪の色、顔立ち全てが自分と同じだったのだ。勿論、そのシェリルとは双子でなければ親戚ですらない。ルサナが片方だけ捨てる、などと言う行動をする等ルサナの人格を完全に理解してるシェリルからすればあり得ない話であったからだ。ただ、その女性に気を取られている時間はそんなにはなかった。リメルがもっととんでもないことを書いてある資料を見つけ、シェリルが呼び出されたからだった。

「魔硝石兵器・・・?ジェクターがそんなことを言ってたけど・・・!?」

シェリルは遠く彼方の記憶からその兵器についての話を思い出していたが、そんなことに驚いたのではない。彼女は、そのジェクターが言っていた兵器を『クロスケーションに対抗するため』の兵器だと思っていた。しかし、その資料に書かれていた試射値及びサンレイズの計算によって導き出されていた理論値では完全にそんなレベルではない。『スキンエンパイアを完膚なきまでに破壊するため』としか到底思えないようなエネルギー量であった。よくよく考えればそうだ。当人の魔術の知識や魔力などをすべて無視し、中身の魔力のみで人を殺傷できるほどの力を秘めた魔硝石を5つも発動源、いわば燃料として使う兵器が、そんな中途半端な威力であるはずがない。勿論、ただものではないとないとすぐさま理解したシェリルはファルクに全て話す。ジェクターから聞いた、魔硝石破壊兵器の話のことを全て。

「・・・どうやらMZBはクロスケーションを潰すためにこれを使ってスキンエンパイアごと叩き潰すつもりらしいな。恐らく、MZBはクロスケーションを潰すことが目的でスキンの人民がどうなろうと関係ないんだろう。」

「でも・・・そんな人権を踏みにじるような真似をしたら・・・MZBに対する信頼がなくなるに決まってるじゃない!」

「・・・もしかしてだよ。もしMZBに反抗する勢力がこれで消えて、コールの人が全員いなくなれば・・・」

そう、シェリルが言いたいこと、ファルクの考えていることは同じ。

MZBが『クロスケーションを潰すためだけ』にスキンエンパイアを壊滅させれば、基本的に中立の立場であるコールからの反発は避けられない。ただ、そのコールの人民さえもが一人もいなかったら?

そうすれば、他国の事は何があっても一切の交流を持たない倭国とMZBになど反発しようのないマルクセング、後に残るのはとっくのとうに滅びたルレノとスキン、人民のいないコール。MZBによる独裁体制が、完全に完成する。

「・・・MZBを止めたほうが良いな。敵に回したら厄介だなんて言ってられるレベルを超えてやがる。サンレイズを急いで探し出そう。」


そうして、なぜか人の全くいない基地の一番奥に、その男サンレイズはいた。

「やあシェリル。久しぶりだね。」

この男も、ジェクターと同じようにシェリルと会ったことがあるかのように話しかける。

「・・・私はあんたと会ったことなんてない。」

「そうだろうな。君は僕の事なんて知らない。だが僕は君の事を知っている。恐らく君は混乱しているだろう。犯したはずのない犯罪、君は誰の事も知らない、だがそんなことはお構いなしに君の事を知っているかのように話しかけるのだから。我々はこんな簡単なことにも気が付かなかった。何せスキンエンパイアの指名手配書には姓名すら書いていなかったのだからな。」

サンレイズが何を言いたいのか、ファルクとリメルには見当がつかない。だがシェリルは何が言いたいのか、はっきりと分かった。

「・・・生憎様、わかりたくもないけど私はそんなに間抜けじゃないわ・・・シェリル=メルヴィーネスの事ならある程度は知ってる。教えなさい。顔が似てて名前が同じな程度で、あんな疑われるはずないもの」

「・・・意外と頭はよくできてるみたいだね。そうだ、その通りだ。顔と名前が同じ程度で疑われる筈がない。というかクロスケーションがそんな間抜けなミスをする筈もない。君が考えてる通り、シェリル=メルヴィーネスと君、シェリル=コンスタンティウスは名前と顔だけじゃなく声、髪の色、剰えはDNAや指紋までもが完全に一致してたのだから」

「・・・そういうことか。だからこそ、シェリルは疑われ続けることになったんだな。」

そう、だからこそシェリル=コンスタンティウスにかかった次元石破壊の罪は揺るぎないもの、疑いようのない事実になったのだ。シェリル=コンスタンティウスは本当に次元石を破壊しておらず、真犯人はシェリル=メルヴィーネスであった。勿論、クロスケーションがまともに捜査ができればシェリル=メルヴィーネスが犯人であることを突き止めるなど造作もないことであったのだろう。しかし、マルクセングより先にコールルピックの人民の捜査が行われ、指紋DNA共に完全に一致したシェリル=コンスタンティウスが犯人であると断定した。一卵性の瓜二つの双子であろうとも指紋が完全に一致することなどないのは捜査の常識である。だからこそ、目の前にいる赤髪の少女が犯人であることに疑いの余地はなかった。ただ、前提条件として同じ指紋の人間が二人いないということがあったこと、そしてスキンエンパイアに姓名というものが存在しなかったことにより誰も気づきようのない捜査ミスが生じた。クローン人間であれば、指紋から何から完全に一致する。しかし、クローン人間の事などいくらクロスケーションでも考えようがないし通常の思考の範疇をはるかに超えている。そして、シェリルは冤罪だと証明しようのない冤罪により追われる身となったのだ。

「そして、MZBはシェリルの救出へと向かった。勿論、当初は君のことなど知らなかったから君の事をシェリル=メルヴィーネスだと断定し救出に向かった。君がシェリル=メルヴィーネスのクローンだと気付いたのは、スキンエンパイアから手を引き上げてフィルノアがマルクセングに戻ってきて調べてからだったからね。君がシェリル=メルヴィーネスではないと最初からわかっていたのだったら社長は君達を救出しようだなどとは考えもしなかっただろう。運だけは君たちもいいようだね」

思いもよらぬ形で自らの本当の出生のことを知ったシェリルだったが、彼女にとっての本題はそれではない。

「・・・それで?私がシェリル=メルヴィーネスのクローンだからコールの人を拘束したりしたの?」

「ああ、それは違う。月光石の応用によって発現可能な光の屈折や分散によるステルステクノロジーの実験にコールの人を使っているだけだ。まぁ彼らに恨みがあるわけではないから気長に待っていてくれ。」

「実験・・・?そんなくだらないことのためにコールの人たちにこんな事をしたって言うの・・・!?ふざけないで!貴方達は勝手に人々の理想みたいに行動してるみたいだけど私達にとっては理想でも何でもない!あんたの言う人々の夢だってどうでもいい!コールの人達をすぐに解放して!クレイバーも!今すぐにッ!!」

シェリルの声は凄まじい勢いで荒げられ、シェリルの紫色の瞳は凶悪とも言える眼光を放ちサンレイズを睨み付けていた。彼女のことをよく知るファルクとリメルでさえも、その怒り狂ったシェリルを見てたじろぐ。しかしサンレイズだけは涼しい目をし、その場に立っていた。

「・・・やれやれ、僕に歯向かおうっていうのか・・・まぁいいさ。MZB空軍元帥の力と月光石の使い方を見せてやるよ。」

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