episode6-1 消えゆく街の人々
そうして、黄金石を回収し一週間後。シェリル達は暗黒石があると予想されるコールルピックヘ向かうことにした。勿論、帰るので元の服に着替えてだ。
「やっぱり着慣れた服が一番だな」
「結構悪くない気もしたんだけどね。まぁ動きづらいし仕方ないか。」
そうして、しばらく滞在した民泊にもう出ていくと言ったことを伝え倭国を去った。そうしてコールへ向かおうかという道中に、それは起きた。寒くて倒れたのではない。クレイバーが、シェリルの目の前で当然普段あげることのない悲鳴をあげ、スッと消えてしまったのだ。スッと消えた、というのは比喩ではない。本当に目の前から消えてしまったのだ。
「クレイバー?クレイバー!クレイバー!!・・・おかしいな。」
ただ、そのまま立ち止まるわけにもいかずそのままコールへ向かう。クレイバーが消えた時点で何かがおかしいと思った彼女の疑念はコールタウンに到着した瞬間へ確信に変わる。クレイバーが突然消えるという異常事態、そしてシェリルがコールから連れ出される前とは打って変わった街に漂う陰鬱な雰囲気を見れば何も起きていないと思う方が難しい話であった。取りあえず話を聞こうと、街に戻ってきて一番最初に見かけた知人に話を聞くことにした。
「ミーザ!ただいま・・・って言いたいところだけどこれはいったい何なの?何が起こってるの?」
「あっ、シェリル・・・悪い時に帰って来たね。今コールでは神隠しみたいにどんどん人が消えていってるの。」
「・・・成程。それでこんなどんよりした感じなわけね。」
「そう言えば、マルクセングの方から来た眼鏡かけた声の大きい緑色の髪の人が同じ事聞いてきたよ。金髪で凄い可愛い女の子が一緒にいたから覚えてるんだけど」
「・・・その人、どこにいる?」
「酒場に行ったかな?坂が長くてお腹空いたとか言ってたし。」
「わかった。ミーザ、ありがと」
『眼鏡をかけた緑髪の髪の男』と『金髪の可愛い女の子』の組み合わせで誰かすぐに察しのついたシェリルは、あんなに体力があったか、と目を丸くしたミーザの前から物凄い勢いで走り去り、酒場へ向かった。やはりその二人組はファルクとリメルだった。
「よーシェリル。久しぶりだな。ところでなんだが」
「神隠しの事?」
「その話か?とりあえずそれは置いといて俺らをお前の家に泊めろ。というか泊まる。確定事項だ。」
相変わらず強引なファルクに呆れ果て、シェリルは返す。
「・・・あんた相変わらずそうね。取りあえず言っておくけど私の家のベッドは三つだから。あんたが寝るベッドはないわよ」
「すみません、シェリルさん。私がどうしてもマルクセングが嫌だったのでちょっと無理してコールまで来てもらったんです。」
「・・・大丈夫よ。リメルが寝る分はあるから。」
「別に俺はリメルと同じベッドで構わんぞ」
「そんなことさせたら何するかわかんないから許可もできないし黙って。というか私がしに来た本題は神隠しの事なんだけど」
話題をそちらに持ってくと、ファルクの顔は真剣身を帯びた。この男、傍若無人に見えて意外と雰囲気は読めるらしい。
「ああ、そうだったな。何だか神隠しみたいにポッと人が消えちまうらしいな。雰囲気が重いし何か起きてるとは思うんだがどうにも信じられなくてな」
「・・・私の目の前でクレイバーが消えたわ。多分、雰囲気からしてずっと前からじゃないかしら。」
「成程、シェリルも人が消える所を見たってことか・・・ってことは現実に起こってるみたいだな。あともう一つはな・・・この町から出れねぇんだわ。どうやっても」
「不審に思って戻ろうとしたんですよね。そしたら何か幻覚が出てきて・・・どう歩いても気が付いたら入り口に戻ってきてしまうんです。」
「・・・犯人は恐らく月光石を持ってるわね。暗黒石で視界を・・・ってより月光石で光の屈折や分散を駆使してるんじゃないかしら。幻覚とかを見せるのも、光を弄って相手に認識させるほうが簡単でしょうし」
「なるほどな。・・・まぁ、調べてみなきゃわからんが。俺は犯人は単独犯だと思ってる。こんな場所で組織的運営をするのは厳しいからな。」
「どちらにせよ、私達ここから出られないことですし少し調べてみませんか?」
「そうね。ほっとけないわ。でもちょっと待って」
そう言って、再びシェリルは酒場から出た。
そうして、シェリルの頼みによりミーザの家の一階にファルクを泊めてもらい、シェリルとリメルは実家へ向かった。
「おばあちゃん、ただいま」
「シェリルかい、随分長い間家を空けたね。まぁ年頃だしそこまで強くは言わないけど・・・それよりも随分と悪い時に帰って来たね。」
「うん、聞いてる・・・。それはそうと、この子泊めてもいいかな?」
「いいよ、部屋に案内してあげな。」
シェリル達は実家であるルサナの家、ファルクはミーザの家に泊まることにしたのだ。ミーザはこの異常事態もあり、この状態を解決してくれるならという条件で物置にしている部屋でいいならと部屋を貸してくれたのだ。
「シェリルさん・・・」
「何?リメル、寝れないの?」
「シェリルさんは、怖くないんですか?もしかしたら自分が消えてしまう事になるかもって、思いませんか?」
「前向きに考えていくのがいいんじゃないかな。もし自分が選ばれたら相手の事がわかるし、怖くないよ。・・・もう休みな。疲れてるでしょ?」
「そうですね・・・」
シェリルはリメルには怖くないといった。勿論嘘だ。クレイバーがあんなにあっさりと自分の目の前から消えてしまった。それなのに、自分一人で解決できる筈など勿論ない。しかし、そんなことを正直に言ってしまえばリメルはきっと勇気を失くしてしまうだろう。シェリルの優しさから生まれた、優しい嘘だった。
そして、翌日。
「・・・ミーザちゃんが消えた。あとお前のおばあさんも姿が見えないって聞いてる。」
「調べる方法はあるの?」
「実はミーザちゃんの家に行く前にコールの人に頼んである程度の人に発信機を着けさせてもらった。勿論お前らにも着けてるが、この発信機で位置がわかる。電源は生体反応が切れたら切れるようにしてるから、位置がわかるってことは生きてるってことにもなる。全員同じ位置につけてるから位置を教えてやるよ、リメル、まずは服を脱いでくれ」
「そういうのいいから、場所だけ教えて。さっさとそこに向かうわよ」
「人の優しさを突っぱねる気かよ」
「そういうのは優しさって言わないから」
文句を垂れつつ、発信機の場所をファルクは口だけで教えてくれた。そして三人が向かった場所は、街の裏の崖。その場所に、反応があるという。
「・・・ただの雪じゃないの?」
「・・・ホログラムだな。本当はここがなんかの入り口になってる。セキュリティーがやっぱりかかってんな・・・よし、開いた。行くぞ。」
そうしてそこに入ったシェリル達を出迎えたのは、マルクセングの空軍兵達だった。
「???なぜここがバレた!?とにかく至急侵入者を排除せよ!!」
と言って空軍兵たちが襲い掛かってきたが、最早卓越した精神力を持ったシェリルにとって魔術の使えない兵士など相手になろうはずもない。氷河石から読み込める魔術、アイシクルレインを発展させたアイシクルファイトと言う魔術を放ち一気に無力化する。
「・・・これは・・・MZB!?」
シェリルは最早何一つとして驚かなかった。犯人は月光石を使ってる、と断じた時点でMZBが組織ぐるみでやってるのだろうと確信していたからだ。それにより、益々シェリルのMZBへの疑念は深まった。リメルは驚きを隠せない。ファルクは驚きこそしなかったものの、顔を渋らせた。
「・・・チッ、よりによってMZBかよ。敵に回したら厄介なんてレベルじゃねえぞ。」
MZBを敵に回したくない、という思いとただやっぱり腑に落ちない、という思いが入り交じりファルクは苦虫を十匹位まとめて噛み潰したような顔をする。ただやはり、看過することはできないという思いが優先され話を始める。
「・・・白の軍服の空軍兵がいたってことは空軍の所有物だろう。一応極秘事項ではあるんだがここは恐らくステルスベースってMZBの基地だ。犯人は恐らくここの奥にいるMZBの空軍元帥だろう。」
「空軍元帥っていうと、サンレイズですよね?」
「ああ、サンレイズ=グレジニアだ。変な奴だ。」