episode5-3 蹂躙
そうして、崖にシェリルとクレイバーは行った。宣言通り、アルゴンはそこにいた。
「命知らずな奴らだ。己の信じた正義のためにこの俺でさえもを敵に回すというのか。」
「悪いけれどリメルにしてることを見てる限り貴方達を全面的に信用しろ、ってのは無理だからね。」
それを聞き、暫しの沈黙のあと、アルゴンが唐突に口を開く。
「シェリル=コンスタンティウス。・・・手前は運命というものを信じるか?運命とは誰もが従い、誰にも覆すことのできないものだ。この星はその運命に従い、平和が続いていくはずだった。だがしかし、それはある日を境に脆くも崩れ去った。その原因は全て手前だ、シェリル。手前がいなければ今のような魔硝石の奪い合いも起こらなかった。」
アルゴンは気持ち怒気が混ざった声でそう言った。勿論シェリルにとっては理不尽以外の何物でもないその台詞には怒りを隠せない。
「・・・何が言いたいの?貴方も次元石を私が壊したからこんなことになったって言いたいの?ふざけないで!私は何もしていない!!」
「手前が次元石を壊したかどうかなど、大した問題ではない。問題は手前が世界の秩序を乱している、ということだ。ルレノの崩壊事変もそうだ。貴様がいなければルレノも今頃平和が保たれていたはずだ。」
「お前、いい加減にしろよ。さっきから黙って聞いてればなんだ?自分達がしたことはことは考えず世界の秩序が乱れたのは全部シェリルのせい?ふざけんのも大概にしろよ、アァ!?」
シェリルもクレイバーもとうの昔に頭に来ていた。彼の話は、二人にとっては理不尽且つ不可解でしかない。それを目の前の男はあたかも当事者のように語っている。納得など行くわけもなかった。しかし、怒りの矛先にいる男は涼しい顔をし、鞘に納められた派手な装飾の剣の柄を右手で握り抜く。鞘から姿を見せたその白銀の刃は、穢れなど知らず自らを平和の使者であることかを主張するように白かった。
「・・・なるほどな、どうしても仲良くなれないようだ。どちらにしても貴様らを放置はできないな。この場で始末させてもらおう。」
アルゴンが剣を構える直前にシェリルが矢を放ち、クレイバーが突進を仕掛ける。しかしアルゴンにはどちらも通じない。体の寸前で左手で矢を抑え、クレイバーの突撃を剣の平で受け止める。あり得ない瞬発力だった。
「・・・その程度か?見ていて穢れるな。」
その言葉はクレイバーの怒りを誘い、クレイバーは更に銃剣の刃による攻撃を仕掛ける。それを利き手でもない左手でアルゴンは受け止める。そのまま銃剣ごとクレイバーを上空へ投げ飛ばし、そのまま宙に舞ったクレイバーを地面に叩きつけた。一発で叩きつけたように見えたのはシェリルだけであり、クレイバーの服には複数の傷が入る。そのまま、クレイバーは起き上がらない。
シェリルはそれを見てレニウム達に放った火球とは比べ物にならない、色が変色するほどの熱量を帯びた火球をアルゴンに向け叩きつける。しかし、アルゴンはそれさえもを左手一本で払いのけシェリルをも叩き倒した。セレンやクロム等と比べても比較にならない。それほど圧倒的な力を、この金髪の男に見せつけられたのだった。
「・・・な・・・なんなんだこいつ・・・魔硝石も使ってねえのにあり得ねェ強さだ・・・」
ただしかし、アルゴンも久しく味わうことのなかった痛覚を覚える。シェリルの放った火球を弾き飛ばした際、左手の甲に火傷を負ったのだ。
「・・・思ったよりやるようだな。驚いたぞ。・・・確か手前らは魔硝石を集めているんだったな。」
「・・・それがどうしたの?」
そう問いを返したシェリルに金髪の男が返した台詞は、誰もが予想をしなかった言葉であった。
「この魔硝石『黄金石』。これをやる。」
「・・・何がしたいの?さっき私に全ての責任を押し付けたかと思えば私達を殺さず、更には簡単に持ち帰れる筈の物を持ち帰らず私達にプレゼント。貴方の目的は・・・一体何!?」
「俺がクロスケーションにいるのはスキンのためではないからな。クロムの目的もマルクセングの目的も、俺には何の関係もない話だ。・・・もういいだろう。手前は何も考える必要はない。ただただ何も考えず、魔硝石を全て集めることだけを考えてればいい。・・・次俺と手前らと会うとするならば恐らくお前らが全ての魔硝石を集めた時だ。それじゃあな。もう二度と会わないことを期待している。」
そう言い、アルゴンはもう答えることはないとその場を立ち去ろうとする。しかし、モルコスフィアが黄金石に手を伸ばしたのを見て、再び戻る。
「誰だかは知らねえが俺はこいつをシェリルにやったんだ。手前にやったんじゃない。」
「これは僕のだよ。」
「手前の実力は知らねえが、俺に口答えをする以上それなりの覚悟はあるんだろうな?」
そう言い、再びアルゴンは剣の柄に再び手をかける。それを見たモルコスフィアは、足早に戻る。モルコスフィアもかなりの手練れではあるのだが、アルゴンに勝てるとは到底思えない。
「それが賢明な判断だな。」
そう言って、アルゴンは黄金石をシェリルの胸元に向けて蹴り飛ばし、その場を走り去った。
シェリルはその蹴り飛ばされた魔硝石を引き寄せた。しかし、その眼には魔硝石を回収した喜びではなく訳もわからない悔しさによる涙が光っていた。