episode5-2 剣士
声の主は適当なことを考えていても聞いた瞬間にシェリル達には見当が付いた。あの旅商人、モルコスフィアであった。
「やっぱり貴方だったのね・・・」
「というかお前大声で宣伝しすぎだろ。国際的機密事項なのによ。」
「あっ久しぶりだね!シェリル見て見て!僕も魔硝石見つけたんだよ!因みに価格は100億フォッグね!」
「・・・高すぎて買えないし、ここの国の人はフォッグ持ってないんだけど。」
「一応銭でも売るし、世界で九個しかない事を考慮すれば妥当な値段だと思うよ?」
モルコスフィアの言ってることは尤もであったがシェリル達からすればたまったものではなかった。100億フォッグは普通の一般人の生涯年収の平均額の40~50倍にあたる。勿論こんな額何処をどうひっくり返しても二人に出せるわけがないし、借りれるわけも稼げるわけもなかった。
「・・・端っから俺らに売る気はないみたいだな。どうする?」
「フハハハハハハハハハハハハハ!!これはまたとない大チャンス!!ついでに魔硝石で一攫千金!!」
クレイバーとシェリルが途方に暮れてた矢先、どこからともなくこれも誰かがすぐにわかる甲高い笑い声が聞こえてきた。シーフマスター三世の声であった。しかしどうしたことだろう。彼はシェリル達の目の前に現れることもなく何処かへ行ってしまったのである。彼の行動の意図が呆気にとられているシェリル達の脇でモルコスフィアも呆然としていた。それもそのはず、笑い声と共に魔硝石も売上金もなくなっていたのである。
「・・・アイツ僕の売上金全部盗みやがった!!金だけじゃない!魔硝石もだ!!」
「この金と魔硝石は有効活用させてもらうぜ!!あばよ!!」
「アイツ仙人の山に行ったな!!消し飛ばしてでも金は取り返してやる!!」
怒りで顔まで真っ赤にしたモルコスフィアと高笑いを上げながら逃げ去るシーフマスターの追いかけっこが始まった。シェリル達も慌てて追いかけ始めた。
着替える余裕も無いまま倭国の街の北にある仙人の山へと二人は向かっていった。モルコスフィアが「爆破してでも取り返す」とまで追いかけて行ったため、町人に「知り合いなら頼むからあの山を荒らすのだけはやめさせてくれ」と頼まれ本当は動きやすい普段の格好で行くつもりだったのをやめたためだ。幸い、魔硝石絡みの話は文献が抹消されていたのが全国家共通であったこともあり信用した人はいなかった。
山に辿り着くと、ものすごい勢いでシーフマスターとモルコスフィアが山を登っていた。ただ彼らが登って行ったところは崖が多く、彼らも手を使って登っているためシェリル達は足を使って行くルートを登っていくことにした。
「結構高いわね」
「動きづらさ考えたら少し急ぎ目に行った方がいいな。全部走るのは流石にキツいだろうから100メーターおきぐらいに歩きながら行こう」
こうして登山が始まった。ただしかしこのクレイバーの目算は叶わなかった。なぜなら、山賊が沢山いたのだ。
「何よどこが神聖な山なのよ!」
「昔どっかの野球選手がきれいな山は入ってみたらゴミだらけとか言ってたな。」
話しながら進んでる通り山賊の力は対したことはないものの足止めにはかなりの効果があった。クレイバーが当初提案したペースで何も足止めがなく登っていれば山頂に二人より先についていた筈だったのが、二人より遅かったところを見ればそれはすぐわかる。ただ着いたばかりなのはモルコスフィアとシーフマスターも同じらしく、二人はまだ呼吸が荒い。
「ゼェゼェゼェ・・・追い詰めたよシーフ君、さあ魔硝石と金を返してもらおうか。」
「ハァハァ・・・これが背水の陣って奴か・・・後ろは崖だけどな・・・」
一呼吸置かせる暇もなく、その様子を見計らいクレイバーが突撃する。疲労をしつつも流石は一流の盗賊、素早く刀を抜き銃剣を受け止める。流石は軍人だけあり、クレイバーは一瞬の間に呼吸を整えていた。シェリルも呼吸を整えるのに時間はかかりつつも、後方支援に回る。
「クソッ、こうなったら・・・!!」
そういいシーフマスターは魔硝石から魔術を放つ。ただ、圧倒的な力を持つはずの魔硝石が、彼の味方を全面的にすることはなかった。それもそのはず、魔硝石「黄金石」に入っている魔術は土から壁を作り出しその身を守るロックディフェンド、局所的に大地震を巻き起こし敵味方共に甚大な被害を与えるアースクエイク。基本的にその場凌ぎでしかない魔術と自らを犠牲にしてしまう魔術では、無意味に精神力を使うだけになり彼にとっては何一つとして役に立つものではなかった。
魔力による攻撃にある程度慣れているシェリルとクレイバーは黄金石より巻き起こされた地震による振盪から瞬時の回復を図れたが、それに慣れてないシーフマスターとモルコスフィアは立ち上がれない。
「慣れもしねぇもんむやみやたらと使うからだ。さっ、その石差し出して金も返しな。」
そうして、クレイバーはシーフマスターから黄金石を取ろうとした・・・時だった。後ろから謎の金髪の男が現れ、黄金石の前に立ったではないか。
「これが黄金石か・・・これは回収させてもらおうか。」
「何言ってんだてめぇ?これは俺の・・・!」
地震による振盪とクレイバーの銃剣による拘束から離れたシーフマスターが立ち上がりそのどこからか現れた金髪の男に向かう。刀を振りかざすが、届くことはない。瞬時に避けたその男はシーフマスターの脇腹に裏拳を決め、シーフマスターは驚愕する間もなく強烈な一撃に転げる。
「ぐはぁ!・・・。」
僅かな痛みしか感じなかったであろう。そこそこの耐久力があるはずのシーフマスターがものの一発で気絶した。
その次に、モルコスフィアが反発する。
「ちょっと君!それは僕の・・・」
「僕のだ、とでも言いたいのか?そんなもの知ったことではない。俺はこれを回収しに来たんだ。」
「な、なんだ君は?」
ただ、クレイバーがそのモルコスフィアを静止する。
「ファーレンス!やめておけ。そいつはクロスケーションのアルゴンだ。」
「・・・ホントだ。アルゴンだ。なんでこんなところに?」
そう問われたアルゴンと呼ばれた金髪の男はその問いに答える。
「何度も言わせるな。黄金石を回収しに来た。ただ俺は黄金石を回収しに来ただけで手前らの魔硝石を奪い取れ、とまではクロムには言われてないんでな。ここで手前らの魔硝石を全て奪い取ることくらい簡単なことだがそんな必要はないわけだ。・・・もういいだろう。そこを退け。」
ただ、魔硝石を回収しなければならないのはクレイバーたちも同じ。クレイバーは、その場から退かず、さらに続ける。
「悪いがそっちにそんな必要がなくてもこっちにはお前を見逃せない理由があるんでな。」
「・・・見逃せない・・・か。それならばいいだろう。この先は断崖絶壁の崖だ。俺は逃げも隠れもしない。命が惜しくないのであれば来い。そこが手前らの死に場所だ。」
一瞬クレイバーを嘲笑するかのような薄ら笑いを浮かべ、アルゴンは黄金石を持ち崖の方向へと歩いて行った。
「・・・アイツ・・・。」




