episode5-1 仙人の山と一人の剣士
フィルノア脱出から1時間後。シェリル達は、何処かもわからない砂浜の上に投げ出されていた。
「う、うーん・・・あっ!クレイバー!起きて!」
先に気が付いたシェリルがクレイバーを叩き起こす。クレイバーもすぐに目覚めた。
「よかったよかった」
「いてててて・・・ってよかったよかったじゃねえよ!いくらすぐに逃げないといけないからって300km/hも出して目標もなく船動かすバカがどこにいる!」
「ごめんなさいね、でも無事に脱出はできたからまあいいじゃない。」
「この状況を無事と果たして言えるならな・・・。」
最初に何処かもわからない、と書いたのは決して比喩ではない。シェリルもクレイバーも、一度も見たことが無い場所なのだ。
「確かに・・・本当に何処かわからないわね。とりあえずこっちが西端みたいだからあっち行ってみましょうよ。街があると思う」
「ここでずっと野営してても状況は変わらないしな・・・とりあえず行くか。ただしかし、マルクセングだったら嫌だな。多分俺達ブラックリストに入れられてるぜ。」
そして、海岸から東へ東へと4時間程歩いた結果。幸い強盗や山賊、海賊の類に遭遇することなく街も見つかった。ただ、シェリル達の違和感はぬぐえない。その街の人々は一枚の布を合わせたような服を装い、皆妙な髪形をしていたからだ。後にこの場所にしばらく滞在しシェリル達はこの髪形を「ちょんまげ」と呼ぶ事を知ることになる。
「そのお召し物は・・・異国の方々ですかな?」
「は、はい」
「これはこれは珍しい、その格好からは何か事情があったのでしょう。それはさておきここは倭国と言う国でございます」
倭国、という国家があることはクレイバーもシェリルも知っていた。他の国との国交を一切持たず独特の文化を持つ国である、と二人はそれぞれ違う形でこの国の情報を得ていた。
「成程、ここが倭国ってわけね。でなんだけど」
「なんだ?」
「このままじゃ宿もご飯も服もないわね。何かしてちょっとお金稼がないと」
この国で使われている通貨は勿論スキンで使うコインでも、コールやマルクセングで使うフォッグでもない。銭と言う通貨が使われていた。強制通用力までは持っていない通貨ではあるものの他国との関わりが基本的に存在しないこの国でフォッグやコインに対応した宿屋や商店が存在するはずもない。
事実上の一文無しであることにシェリルの言葉によって気付かされたクレイバーは、大慌てで緊急募集がかかっている土木作業や小銭が稼げる見世物等を探すことになった。
そして一週間。どうにかしてしばらく滞在できるだけの金銭とそれを基にして先のジェクターとの戦いで破損したクレイバーの銃剣を新調し、クレイバー、シェリル共々この国で着られている服を着ている。
「やっぱりこの服動きづらくない?」
「それはわかるけどこの国の服しか売ってないんだから仕方ないだろ。ところで落ち着いたところでマルクセングの話と今後の話し合いをしよう。これ以上滞在が要らないなら直ぐにでもここから出ていくし調べる必要があるならまだ働く必要があるだろうし」
「そうね、じゃあまず今後の話からしましょう。マルクセングの話は長くなるでょうから。あ、すいません冷たいお茶ください」
茶を飲み、シェリルは今後の話し合いから始めることにした。
「さて、まずは今後の話ね。アラフォースの話だと多分この国には黄金石があるはず。とりあえずしばらく滞在して一ヵ月を目途に捜索してみましょう。黄金石が見つかるか一ヵ月経っても見つからなければここを出ていくって感じ。この国ならマルクセングからもスキンからも手を出せないからちょっとのんびり目にいても大丈夫だろうから期間はちょっと長めにとってる」
「なるほどな。ただアイツの予想っていつも外れてる気がするんだが」
その言葉を聞き、微笑を浮かべていたシェリルの顔から笑みが消えた。
「そのことなんだけどね・・・クレイバーには悪いけれどやっぱりマルクセングは全く信用ができない。氷河石と月光石を持ってるなんておかしすぎる。」
「負債の肩代わりに引き渡したとかじゃないのか?」
「それならルレノ崩壊事変の事をマルクセングが全力で揉み消すはずだしダクトナーレがクロムに1000兆フォッグだっけ?負債の取り立てに来るのもおかしいんじゃない?何かしらのやり取りがこの二ヵ国にあったとは思うんだけれど・・・」
適当にシェリルは自分の考えの真意を誤魔化してはいたものの、スキンマルクセング双方のどちらにも肩入れしてない人間であれば最初の発言だけを見れば彼女の言いたいことがすぐにわかったであろう。シェリルは、ひょっとしたらスキンは本当にルレノキングダムに何もしていないのではないかと思い始めていたのだ。クレイバーはラドンが「ルレノはスキン皇帝の命令で、確かにクロスケーションが滅ぼした」と言ってるのを聞いていた。だが、それはシェリルの与り知らぬことでありシェリルの中ではマルクセングへの疑念は深まるばかりであった。それきり二人とも無言になり、考えにふける。そうして、シェリルはこう思い始めていた。
ひょっとして、魔硝石が目的だったのはスキンではなくマルクセングで、マルクセングがスキンに全ての責任を擦り付けてルレノを攻撃して魔硝石を奪ったのではないのか?
シェリルは頭を横に振り、そんなことはないはずだと言い聞かせる。だがしかし、恐ろしいことにこの仮説はシェリルが知らないラドンの発言を無視してしまえば全てが納得行く形で合点がいってしまうのである。なにより、シェリルが一番気になっていたのはルレノ攻撃の資料だ。MZBがスキンエンパイアがルレノを攻撃した、という資料を発見したというニュースを聞いたのだ。しかし、どうしたことだろう。
保存されていれば確実にあるであろうデーロック議事堂の資料室のどこにも、そんな資料はなかったのである。秘密裏で処分したのか、とも考えたがクロスケーションがそんなことをしていればまず間違いなくMZBにそんな資料が渡ることはないだろう。
「・・・まぁ、確かにジェクター達の言うことも胡散臭いのはわからなくはない。確かにMZBに魔硝石を全て渡すのは危険だろうな。ただ、あそこまで堂々と宣戦布告するか?もう少し考えろよな」
「だからそれはごめんなさいって。次から気を付けるから。」
「まぁ、クロムの時には俺が迷惑かけたしな。貸し借りなしってことにしよう。」
そんな話をしているとシェリル達がいる喫茶店の階の上から、大きな声が聞こえてきた。
「はーい!これが世にも珍しい魔硝石だ!!」




