episode4-2 奔走
おびただしい数の海兵を目にし、シェリルは脱出の困難さを悟った。
「参ったわね、こんなにいっぱいいたら全員蹴散らしてくわけにもいかないじゃない」
「お前頭いいんだか悪いんだかわからないな、海軍基地といっても過言じゃないこの船で兵士が少ないってどう前向きに考えればそうなるんだよ」
「思ったより多かったのよ。まあこれじゃ実際まともにやりあってたらキリないわね。魔力を使わないで行きたいから影を見つけながら進みましょう。囲まれたら、疾風石でなんとかする」
そうして二人で動き始める。
「逃がさんぞ、クレイバー、シェリル!」
「うるせぇ!三下に用はねぇんだよ!!」
そう叫び、後ろから迫る海兵達を閃光殺輪と呼ばれる技で一気に薙ぎ払う。クレイバーの研ぎ澄まされたその一閃により、海兵達の多くは倒れた。起き上がってきた者も、シェリルの矢に倒れる。
猛追をかわしていき、シェリル達はついに探していた脱出用の船を見つけた。だがしかし、その船に乗ることは叶わなかった。
もう既にそこには、先回りしていたジェクターが待ち構えていたのである。
「はっ!ここに来ると思ってたぜ!覚悟しな!」
「覚悟しな・・・?こっちの台詞よッ!!」
シェリルはジェクターの声に真正面から抗うかのように語気を強め弓を出す。その矢はジェクターには向かわず周りにいた海兵の足に当たる。
「そんなぞろぞろ連れて私達を抑えられるとでも?話になりゃしないわ。」
「・・・面白れぇッ!」
そう言い、ジェクターが突撃してくる。フィルノアが砲撃に耐えれる構造になってないのか砲撃を行うことはないものの、重量のある砲を背負ったジェクターの突進は重い。クレイバーに蹴散らされた海兵達とは、格が違う。クレイバーが現在装備している銃剣は刀身が割と細めであり取り回しが良いモデルとなっている。ただ、もちろんその分頑丈さは重く重厚な刀身の銃剣に比べれば遥かに劣る。ジェクターの突進をもろに受ければ、刀身ごと折れかねなかった。パワーブレイブで彼の腕力を上げてしまうのは簡単だが、その結果武器を壊してしまえば元も子もない。更に議事堂の講堂と違い部屋が狭く、エクスプロージョンなどを使えば自分も怪我を負いかねなかった。
「これは・・・逃げるが勝ちって奴ね」
「そうもいかねえな。ジェクター、使ってないだけで魔硝石持ってやがるぞ。奴も相当な実力があるがMZB敵に回しちまった以上奪っちまった方がいい」
「・・・本当だ。持ってきてたのね。ならしょうがないか・・・後で治してあげるから、ちょっとだけ痛いの我慢してくれない?この場で魔硝石を奪い且つここから逃げるにはそれしかない」
クレイバーは無言で頷いた。それと共にシェリルは疾風石を取り出す。そして彼女は疾風石から生み出される風の魔術、スズも使用したテラニックストームを一切の手加減を加えずに放った。
「な・・・!?こいつこんなに魔力強かったか・・・!?発現時間も短い・・・!!」
予想外の強風を受け、大砲を持ったジェクターも吹き飛ばされる。思い切り体を壁に打ち付け倒れかかる。クレイバーは来ることが分かっていたため吹き飛ばされこそしなかったが、支えに使った銃剣が劣化もあってかヒビが入った。
「クッ、魔硝石を使うしかないか・・・」
「させないわよ」
そして集中を解いたシェリルが瞬時に弓を持ち、ジェクターの腕を矢で射止める。怪我もあり、ジェクターは魔硝石を落とした。
「悪いわね。貴方達にこれは渡せない。貰っていくわ。」
「グッ・・・だけどな、逃がしはしねぇぞ・・・!!」
腕から矢を引き抜き、ジェクターが更なる臨戦態勢に移る。だが、ジェクターがシェリル達を捕縛することは叶わなかった。後を追いかけていたアラフォースが追いつき、ジェクターの動きを止めたからだ。
「シェリル!ジェクターは私がどうにかします!貴女達は船に乗って脱出してください!私は自力で脱出します!」
「・・・いいの?」
「私は大丈夫です!だから早く!」
「・・・わかった。無事を祈るわ」
そう言ってシェリルはクレイバーに瞬時に回復魔術を施し、足早にその場を去った。




