episode3-2 敗戦
そして最上階。
「デーロック・・・クロム!俺は一度たりともお前らの事を忘れたことはなかった!」
「何の用かな?」
「お前らがルレノを・・・俺たちの祖国を!!」
「穏やかでないぞ、落ち着いて話したまえ。お前は何のためにここまで来たのだ。我々とお前との関連はないはずだ。」
「お前らがルレノを攻撃したんだろうが!!」
激昂するクレイバーとあくまで落ち着いているクロム。しかし、どういうことだろう。クロムには本当に身に覚えのなさそうな挙動が見られるのだ。
「・・・こんなわけのわからない奴の相手をしている暇などない。セレン、こいつをつまみ出してくれ。」
「そうね。そうするわ、クロム。」
そこにさらにアラフォースが駆けつけ、追及が始まる。
「貴方たちはルレノが魔硝石を保持しているという事を知っていた。違いますか?」
「またか・・・まあいい。少しだけ話を聞いてやる。確かにその情報は我々は持っていた。だが、それがどうした?それで我々がルレノを襲撃したと?随分と面白い憶測だな。マルクセングに入れ知恵されたか?それとも皇族か?そうだな、なら聞かせてもらおうか。我々がルレノを襲撃したという証拠でもあるのか。それにアラフォース、お前の事は私も知っているぞ。70年前散々暴れてたらしいな。祖父からお前の話は散々聞かされたぞ。我々も暇ではない。こいつらのような犯罪者集団とともに行動しているクレイバー、お前が何を言おうが誰も信用などしないのだよ。」
「ならなんだってんだ・・・?他人に犯人だと思われてんのと本当に犯人なのは話が違うぜ。」
このままでは埒が明かない、と椅子から重い腰を上げたクロムの元に、シェリル達が追い付いた。
「クレイバー・・・!大丈夫!?」
「ほかの連中も来てしまったか・・・長話をしすぎたようだな。」
「クロム!貴方たちの所為で私たちや民は非常に迷惑しています。」
「そういうことだ。クロム、手前の台頭は誰もが求めてることじゃねえ。」
「・・・我々にあくまで逆らおうというのか・・・。我々クロスケーションは堕ちたスキンをよみがえらせようとしているのだ。その我々に歯向かうことはどういうことか?時代に逆行するということだ。・・・それならば我々は徹底してお前らを排除せねばならない。私はこの男とシェリルをやる。セレン、お前はそっちの3人を頼む。ただしリメリアは殺すな。こいつに消えられると困るからな。」
「わかったわ。それじゃ行くわね」
そう言うとセレンはファルクに飛びかかる。手に鋼糸を巻き付けたセレンの一撃は重く強く、ファルクが一瞬動きを止める。その華奢な体格に見合わない、強烈な一撃だった。
「ファルク!?」
「お前の相手は私だ、シェリル!!」
そして、クロムの大型の拳銃から飛び出た弾丸はシェリルの足元を打ち抜く。寸分の違いもなく、シェリルの爪先をかすめる。
「今のはわざとだ。今度は外さん」
こうしてシェリルは悟る。目の前の男が、圧倒的に格上であることを。
クロムの銃撃術、セレンの格闘術は今まで出会ってきた人間の中でもトップクラスだった。銃弾をいくら撃てど全て避ける敏捷性。的確に相手を追い詰める戦法、何もかもが完璧であった。
「随分と手こずらせてくれるじゃないか。だが、もう終わりにしてやる。」
シェリルはもうこの男には勝てないとあきらめていた。いくら自分が先ほど覚えたテラニックストームを放っても殆ど通用していない。そして現状、シェリルはテラニックストームより威力の高い魔術を覚えていない。テラニックストームが通用しない時点で、勝ち目はないと悟っていた。
「クソッ、こいつら予想外に強いぞ・・・!」
「四人とも逃げなさい!貴方達が敵う相手ではありません!」
「リメル、逃げるぞ!シェリル、後は頼んだ!」
そういい、ファルクはさっさとリメルと一緒に逃げてしまった。
「は!?後は頼んだってどうしろってのよ!」
「・・・逃がさないわよ!」
すぐにセレンが追いかけていった。だが、クレイバーは頭に血が上っている。逃げる、という判断ができなくなっていた。
「ここまできて逃げるのか・・・!?そんなことしたら何のためにここまで来たんだよ!」
「クレイバー!今はそれどころじゃないでしょう!?まだチャンスはあるわ!」
シェリルにはクレイバーの気持ちが痛いほどよくわかる。故郷を滅ぼしたとされる相手が目の前にいる。クレイバーの怒りは、理屈主義のファルクには到底理解のできないものであったが、シェリルにはそれがよくわかる。だがしかし、クレイバーでもこの男に勝つことはできない。シェリルは、もう理解している。どちらもを。だから、クレイバーを見捨てて逃げることなど勝てないとわかっていてもできなかった。それよりなにより。シェリルは、クレイバーの事が好きなのだ。尚更、見捨てるなんて真似はできなかった。
(早く逃げて!私は貴方が傷つくところを見たくない!)
そのシェリルの願いも虚しく、クレイバーに逃げようとするそぶりは見られなかった。
「シェリル、逃げましょう。ここにいても殺されるだけです。」
「それじゃクレイバーは・・・?」
「この期に及んで何を言ってるんですか。こんな男といても貴女は死ぬだけですよ。この男は自分のことしか考えてません。こんな男と一緒にいても何の意味もありません。」
「え、ええ・・・分かった・・・。クレイバー・・・。」
「なぜ彼の事をそんなに・・・いや、シェリル、早く逃げますよ。」
ところが。逃げることはできなかったのである。なぜなら、下からレ二ウムが上ってきていたからだった。
「甘いなぁ。シェリル?そう簡単にここから逃げられるとでも思ってたのかァ?」
それを見たシェリルは逆方向に走る。
「待てィ!逃がすかァ!!」
しかし、そう甘くはなかった。そっちには別の兵士が待ち構えていたからだ。このままだとマズい。そう思っていた時。
「シェリル!」
後ろからやってきたクレイバーが後ろからレ二ウムを一閃した。
「悪いな、迷惑をかけた。さっさと逃げるぞ!」
「酷い怪我だな。」
クレイバーの一斬りが後ろからだったこともあり、レ二ウムはかなりの大怪我をしていた。
「・・・すまねえ。逃がしちまった。」
「心配するな。奴らは私が捕らえる。」
大怪我をしてまで任務を果たそうとしてくれた、クロムの労いの言葉だった。しかし、クロムは走って屋上へ向かったため気づかなかった。レ二ウムがしてやったりと言った表情で笑っていたことに。
「ちっ、屋上か。・・・飛び降りるにはキツすぎるな。」
「勝負あったようだな。・・・貴様らの処罰をさせてもらう。」
再びシェリル達は追い詰められる。そして、驚愕の事実が明らかになる。最強の魔硝石、銀河石はクロムが持っていたのだった。
「クロム、少々暴れすぎのようだ。」
銀河石に今度こそ終わったか、と思っていたシェリル達に思わぬ救い船が出てきた。水色の髪の男がクロムを制止したのだ。
「・・・今日は客の多い一日だな。MZB社長のダクトナーレが何の用だ?債務の取立てか?」
「その通りだ。マルクセングの国債1000兆フォッグの返済を求める。」
「それは皇族の債務だ。既に三十二世も皇后も崩御している。返済の必要性はない。」
「クククッ。何を言っている。お前が皇族を虐殺したのだろう?現在残っている皇族はリメリアとデーロック三十三世のみ。情報規制はされているようだがな。皇族の虐殺、債務の不払い、シェリルの監禁に魔硝石の回収。悪政は後を絶たない。このような独裁政治を繰り返すクロスケーションは迅速に解体し、魔硝石の保持も避けなければならない。そして現状お前が銀河石を所有しているという状況、これは危険極まりない。・・・銀河石は渡してもらうぞ。」
ここまではおとなしく聞いていたクロムだったが、とうに彼は頭に来ていた。確かに、彼がここまで来るのに手を全く汚していないというのは偏見がある。皇族を革命のために殺してきたこともまた事実であった。しかし、それでも全てを貶された彼が黙っているはずはなかった。
「・・・クロスケーションはこの国の腐った皇族の支配を打ち破るために生まれた団体だ。決して貴様らに頭を垂れ魔硝石を捧げるためにあるのではない!!自惚れるなダクトナーレ!!祖父の名にかけて、貴様に銀河石は渡さぬ!!」
「言ってればいい。・・・ところでシェリル、クレイバー。準備はできている。下を見てみろ。」
「な、何っ!どういうことだ!」
クロムは呆気にとられた。下にはマルクセングが誇る大戦艦、フィルノアが用意されていたのだ。
「こっちは準備オッケーだぜ!いつでも来な!」
「恩に着る!シェリル、行くぞ!」
クレイバーが声をかける。しかし、何故だかシェリルは若干渋っている。
「・・・わかったわ。」
だが、どのみちここにいても殺されるだけだ。結局は好意に甘え、フィルノアに飛び降りた。
「ダクトナーレ、貴様はなぜシェリルをかばう?それほどまでにお前に縁のあるものなのか?」
「助けに来るのは当たり前だろう。シェリル=メルヴィーネスはわが社の局員なのだからな。」




