episode3-1 見えざる悪魔達の影
「侵入者だ!侵入者は死刑囚シェリルだ!迅速に抹殺するぞ!」
「あなた達に構ってる暇はないわ・・・!」
侵入すると、警備兵と思しき兵士たちが襲ってくる。しかし、シェリルはそれらを氷の魔術で追い払っていく。火事になることを阻止するため、炎の魔術は封印している。敵を打ち倒すためにデーロック議事堂を焼き払ってリメルを助けられなくなってしまえば本末転倒だからだ。・・・そしてそうして皇族監禁室前にたどり着いた時。
「ここにリメルがいるのね。」
「リメルってのは確かリメリア皇女のことだよな。」
「ええ、そうよ。」
そうしてクレイバーは予想外の事を言い始める。
「それさえ確認できればいい。・・・俺はこの上に行く。ここで別れるぞ。」
そういい、クレイバーはさっさと走って行ってしまった。
「ちょっとクレイバー!」
「ほっとこうぜ。それよりもリメルだ。」
ファルクはその辺りドライだった。クレイバーを無視し、リメルを救出した。
「・・・!ファルクさんにシェリルさん?どうしてこんなところに!?」
「見ての通り助けに来たぜ。もう安心しろ!シェリル、いったん戻るぞ。リメルを安全なところへ連れて行こう。そうしないと危ない。」
自分の気持ちと、ファルクの言ってることは全く正反対だった。自分は危険を犯してでも、クレイバーを助けたい。しかしファルクは、完全にクレイバーのことより、リメルの事を優先している。
「・・・ファルク。私は上に行くわよ。クレイバーを放っておけない。あんたにとっては助ける理由はないかもしれない。でも私にはある。あんたはリメルを守りたいんでしょう。」
「・・・俺はリメルの心配を全くしなかったアイツを助けようという気にはなれないし、助ける理由もないな。上に行きたいなら勝手にしろ。俺は止めねえ。ただ、俺はリメルと出ていくからな。」
そうして話は終わり、と言わんばかりに二人とも皇族監禁室から出ようとする。それにリメルはついていけなかった。
「あの、シェリルさんを一人で行かせるのですか?」
「・・・そうだ。」
「クレイバーという方がどういう方なのかは私にはわかりません。でもシェリルさんが一人で上るのは危険すぎます!」
「お前がそういうなら俺はシェリルと一緒に行っても構わんが・・・俺が上に行くとなるとリメルは一人でここから逃げることになる。逃げ切れる自信はあるのか?」
「私も一緒に行きます。それにクロスケーションをどうにかしないと私たちはずっと狙われたままです!」
ファルクにとっては予想外だったが、リメルの言うことにも一理あった。ファルクも、シェリル同様クロスケーションには狙われている。クロスケーションをどうにかしなければならないのは、3人とも同じだった。
「・・・いいのか?リメル。」
「・・・はい。大丈夫です。」
「ごめんなさいね。私のわがままに付き合わせちゃって」
「いいんですよ、シェリルさん。さぁ、上に行きましょう」
そして上っていくうちに資料室に着く。シェリルはここで、一度立ち止まった。
「ちょっと時間を取らせてもらうわね。私、そう言えばクロスケーションについて細かくは知らないのよ。目的とかは大体わかるんだけれどね。」
「・・・割と無鉄砲だな、お前。何を知らないんだ?俺が答えられることなら答えてやる。時間がねぇから手短にな。」
「メンバーについて教えてくれればいいかな。目的の細かいところはリメルは聞きたくないだろうし。」
「メンバーだな、ちょっと待ってくれ・・・多分この本だな。」
ファルクが慣れた手つきで本棚を見通す。こういった巨大な資料室の本は、大抵見やすいように丁寧に分けられ、目的の本がすぐ見つかるようになっている。一緒に探し方も教えてもらい、メンバーのことが書いてある資料を開く。
「クロスケーションは多人数組織だ。細かい下っ端の連中の話してたらキリがねぇから、幹部六人についての話をするぞ。・・・幹部はこの六人だ。まず下級幹部三人、国家治安維持長レ二ウム、監獄管理長ラドン、魔硝石管理長スズ、上位幹部三人が国家軍事長アルゴン、国家副司令官セレン、そしてクロスケーションのトップ、国家総司令官クロム。」
「ラドンとレ二ウム、それにセレンには会ったことあるわね。他の三人は?」
「まずはスズだな。こいつが恐らく魔硝石破壊事件の捜査を取り仕切ってた奴だ。多分鑑定結果やらその辺は全部こいつが持ってる。次にアルゴンだが・・・こいつは俺にもよくわからん。クロスケーションに入ったのも最近過ぎるし、入った期間からは有り得ないほどのスピード出世であっという間に上級幹部になった奴だ。そして国家総司令官クロム。こいつが皇帝を裏で支配し、現状実質的にスキンエンパイアを動かしている奴だな。・・・こんなところだ。で、シェリル。なんで資料室の索引の仕方なんて聞いてきたんだ?」
「なんでもいいでしょう。ちょっと待ってて。」
そう言ってしばらく動くと、シェリルはすぐに戻ってきた。目当ての資料が見つからなかったのであろう。
「気のせいだったみたい。行くわよ。」
しかし、彼女のことをよくわかっている人物ならその台詞とは裏腹に、若干の疑問を覚えた顔だというのはすぐにわかったであろう。
こうして更に登っていく。その先にいたのはスズだった。
「へぇ、ここまでくるなんて中々じゃない。まあ、僕は疾風石を持ってる。なかなか手強いと思うけどね。」
「クレイバーはもっと上にいるみたいね・・・ここは通してもらうからね。」
スズの所有してる魔硝石は疾風石。風属性の魔硝石だった。この魔硝石による魔術、テラニックストームによりファルク達は吹き飛ばされる。
「クソッ!」
ファルクが発砲するものの、当たらない。風によってうまく弾道が変えられてしまっているからだ。ファルクの割と重めのライフル弾ですらそうなるのに、リメルの小型の拳銃の弾など、当たるはずがなかった。これだけ風が強くては近づくこともできない。
「シェリル!なんとかならねぇのか!」
「・・・いっつも私便りね・・・仕方ないわね、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね。」
そう言って、シェリルは吹雪を巻き起こす。スズが引き起こした風と混ざり、双方に甚大なダメージを与える。無論、シェリルを除いてだ。
「・・・クッソ、本当に俺らも痛い思いすんのかよ。」
「仕方ないでしょう。・・・後ね、スズさん、もう貴女に勝ち目はないわよ。」
「いたた・・・何を言ってるの?まだ魔硝石はこちらの手に・・・!」
「疾風石しかないわよね?なら用はないわ。痛い目見てもらうわよ、『疾風石』でね。」
そう言ってシェリルはスズ同様に風の魔術を放つ。まだラドンから情報を得られてないのか、風で吹き飛ばされたスズの顔は驚愕に満ちる。
「なんで・・・!?疾風石持ってるのは僕なのになんでシェリルが風の魔術を使えるの・・・!?」
「ラドンも同じこと言ってたぜ。・・・じゃあ、ここでぶっ倒れてもらうか。」
そう言って放たれたファルクの弾丸はスズを倒すためだけに必要な個所全てに当たり、スズは倒れた。
「疾風石・・・これは・・・!」
そう言って疾風石を抱えるスズだったが、それをシェリルは無残に蹴り飛ばし疾風石を奪った。
「悪いけど私たちも必要なの。こんなことして申し訳ないとは思うけどね。」
そういい、クロムの元へ3人は更に向かった。




