episode2-3 回顧
「ここがスキンエンパイアか。マルクセングとは違った意味で凄味が感じられるね。」
「あまり目立った行動はするなよ。クロスケーションに目をつけられたらその瞬間に終わるからな。特にシェリル、お前はな。」
それでは安全な場所がないだろう、と思ったが意外とそうでもないらしい。
「でもここの前の宿屋の店主は知り合いだ。ブラッドエンプレスの時も世話になったし、ここは安全だ。」
そのファルクの言葉通り、宿屋に入ることにした。確かにシェリルの顔は結構スキンでは割れているはずなのだが、一切店主は気にせず入れてくれた。本当に唯一のセーフティゾーンなのだろう。
「・・・気楽なもんだな。」
「まあいいだろ。もし誰か来たところでこっちには魔硝石もあればシェリルもいる。負けはしねえだろ。」
「それでも問題あるだろ。入る前に体力を使ってどうする。・・・一人で今後は動く。そのほうがいい気がしてきた。」
そのクレイバーの行動を、ファルクは制した。
「待てよ、クレイバー。俺らは深夜方、デーロック議事堂に乗り込むつもりだ。お前もデーロック議事堂に乗り込むんだろ?今から行く気か?」
その言葉にクレイバーは足を止めた。クレイバーも夜の方が安全だと踏み、夜に侵入する気だったからだ。シェリルは勿論そんなことは今始めて聞いたが、人のいない夜以外に入ろうとすれば入る前に兵士に捕まるとすぐ考えが及んだ。そのため、ファルクを軽く睨み付けながらも何か言うようなことは特になかった。
「・・・俺も闇に乗じて入ろうと思ってる。」
「なら俺らと一緒の方が良いだろう。こっちには魔硝石もあれば魔術を単独で使える奴もいるんだぜ?」
「そうだな。今回は協力する。」
そして、夜まで出れない以上シェリルは暇だ。クレイバーのスキン嫌いには気づいていたが、聞く機会がなかったので今聞こうと思ったのだ。
「クレイバー。なんで貴方・・・クロスケーションと戦ってるの?」
「話すと長いが・・・それでもいいのか。」
「いいわよ。夜まで暇だしね。」
「俺がルレノにいたってのは聞いてたよな?あれは三年前の話だ・・・」
今から3年前。ルレノのガルグ海では陸軍による銃剣術大会が行われていた。クレイバーはそこで圧倒的な強さを見せつけ全員にKO勝ちをし優勝した。
「陸軍銃剣術大会優勝。クレイバー准将!クレイバー准将は前へ!」
「はっ。」
その後、クレイバーは優勝トロフィー、賞状を抱え陸軍元帥と記念撮影をし、帰宅した。そこで待っていたのは姉であるマーティだった。
「優勝おめでとう、クレイバー。やっぱりあんたに銃剣術で勝てる人はいないね。」
クレイバーはマーティのその何度も聞いた台詞を聞き、いつもと同じように返す。
「俺の実力は知ってるだろ。驚くことじゃないだろう。」
その言葉に寂しげな笑みを浮かべ返す。
「そうね・・・クレイバーからしたら当たり前の結果かもしれない。10年くらい前なら私の方が強かったんだけどね。」
「俺が姉貴に負けてたのはガキの頃の話だろう。」
そして、暫しの沈黙。そのあとマーティから、当時のクレイバーからしたら信じられない言葉が返ってきた。
「ねえクレイバー。私マルクセングに行こうと思ってる。」
「・・・?なんであんなところに?」
「私はルレノ軍には入れないからね。マルクセングでなら軍の入隊条件に性別の話はない。私でも入れるからね。」
「そんなことのために行くのか?」
クレイバーのこの一言に、マーティは激昂した。
「軍に入れないことは『そんなこと』じゃない!うちの家系は武術にたけた家系でしょ!私は今までずっと頑張って特訓してきたのに女だからってそれだけで見向きもされなかった・・・!うちを継ぐのはクレイバー。あんた。私がいくら努力しても他人はクレイバーだけを見てた。私だって軍に入りたい。でもここじゃ入れない。でもマルクセングなら入れる。だから私はマルクセングに行くことにした。クレイバー、あんたも来ない?」
「俺は行かねえよ。仲間を置いてく真似はできない。」
「そう。もう会うことはないかも知れないけど元気で過ごせるといいわね。」
そう言い残し、クレイバーの制止も聞かずマーティは荷物をまとめ家から飛び出していった。この日から、姉との離別を招いた『家系』という言葉をクレイバーは嫌悪するようになった。
ルレノは、最初からスキン寄りの国家で、通貨や戸籍の制度もスキンと同じものである。そのためルレノ国民はマルクセングを信用してない者が多く、勿論クレイバーもその例には洩れておらずクレイバーはその当時全面的にスキンを信用していた。そしてこのまま平和な日々が続くことを確信していた。だが、マーティがルレノを出て半年。とうとうその日は来た。
「クレイバー准将・・・!大変です!!」
大怪我を負った兵士がクレイバーのもとに駆け寄る。ルレノ王との謁見に向かっていたクレイバーはそれを見て慌てて足を止めた。
「どうした・・・?その怪我はなんだ!一体何があったんだよ!」
「スキンエンパイアの奇襲です・・・スキン軍が城下町を襲撃して・・・軍はほぼ全滅・・・応援を・・・」
その言葉を最後に、その兵士は動かなくなった。クレイバーは銃剣を構え大急ぎで飛び出す。准将からの援軍要請を城内にいた他の兵士に任せた飛び出したクレイバーが見た景色は、血を流し倒れた仲間や炎を吹き上げ燃え盛る家屋。信じられない出来事であった。同盟を組んでいたスキンエンパイアがルレノを襲うなどとは考えられなかったからだ。その景色を見たクレイバーに一気に憎悪と憤怒の感情が湧き上がる。
「スキンエンパイア・・・絶対に許さねェ。おい・・・覚悟はできているんだろうな!!」
そこでスキンの兵士と交戦しようとしたクレイバーを制止する男の声がした。
「安心しろ。お前の敵ではない。俺はMZB海軍元帥ジェクター=ローゼンベリアだ。我々はルレノ国民救出のために来た。」
こうしてMZBによりスキンエンパイアの攻撃に歯止めはかかった。それでも、大量の人間が殺された事実は変わることはない。この惨状になったルレノを立て直すことは到底不可能であった。ルレノキングダムは・・・滅亡した。
「なあ」
救出され、生き残った人と共にマルクセングへ向かう中、クレイバーはジェクターに尋ねた。マルクセングと言えば、確認したいことがあったからだ。
「マーティって女を知ってるか?」
「・・・聞いたことないな。マルクセングは軍の規模も大きい。俺でも全員の名前を覚えることなど無理だ。だが、もしかしたらいるかもしれん。」
「姉貴・・・マルクセングを選んだのは正しかったみたいだな。」
「そうしてマルクセングに助けられた俺は二つのことをすると心に決めた。一つは姉貴を探し出すこと。もう一つは・・・スキンエンパイアに、復讐をすることだ。」
そういうクレイバーを、ファルクは鼻で笑った。
「お前がスキンに来た理由は仇討ちか。下らねえ理由だな。そんなのに何の意味がある?ただの自己満足だろ?」
ファルクのその一言に、クレイバーは激昂した。
「お前・・・クロスケーションが何してるのかわかってんのか!?一刻も早くクロスケーションを止めた方が良いってわからねえのか!?」
胸倉を掴み上げられても、ファルクは冷静であった。どうもこの男、ただ厚顔無恥なだけではないらしい。
「別に俺はクロスケーションを無視しても問題ねえって言ってるわけじゃねえ。俺が聞いてるのはそこじゃねえぞ。俺は仇討ちに何の意味があるかって聞いてるんだよ。お前は仇討ちを正当化したいだけ。やってることはアイツらと変わんねえ。ただの詭弁にしか聞こえねえよ。・・・どうせ、死んだ人間は戻って来やしねえんだ。」
「だったら許せってのか・・・!?偉そうに文句言ってんじゃねえぞ?」
その険悪な雰囲気をどうにかするために、シェリルは買い出しをクレイバーにしてもらうことを提案した。ファルクは以前の一件でマークされており、シェリルに至っては脱獄囚な上に死刑囚である。クロスケーションのごく一部にしか顔が割れてないクレイバーが買い出しに行くのは妥当だろうと、渋々ながらクレイバーも了承し、無理矢理にシェリルはこの場を収めた。
・・・そして夜。デーロック議事堂への潜入を開始した。




