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魔導都市・短編・ファイアースターター

作者: 池田真人


キンッっとライターを開ける音がする



カシャッっとライターを閉める音がする



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



魔導都市の繁華街、魔道の光に照らし出される者…物…モノ



魔導都市の繁華街、魔道の光に吸い寄せられる者…物…モノ





キンッっとライターを開ける音がする



カシャッっとライターを閉める音がする



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



白い中折れ帽子、襟の深い白いコートの男


銀色の武骨な形のライターを弄ぶ





「てめえ、こんなことしてタダで済むと思ってるのかっ?」ビルの陰から声がする



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



「てめえの顔は覚えた、ぜっていに許さねえぞ」



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



「ふざけた真似をしやがって」



キンッ



ボッっとライターに炎が灯る、オレンジ色の炎が揺らぐ



カシャッ



「くそっ、俺がお前に何をしたってんだ?」



「誰かの仕返しか?」



「誰の差し金だ?」



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



車のヘッドライトがビルの陰の男を照らし出す


右腕で上体を起こす、下半身と左腕の無い男が路地にいた


ライターを弄ぶ男を睨む


睨み殺そうとするかのように睨む


男の名前はシュバンドルフ、闘技場の闘士である



魔導都市



魔法と科学が混在する都市


高層ビルが建ち並び魔導の光が灯る世界


シュバンドルフは闘技場の闘士である


闘士の戦いは単純である


勝つことである


何をしても勝つことである


魔人であれ獣人であれ、どんな種族であれ構わない


剣であれ銃であれ魔法であれ、どんな武器であれ構わない


何でもアリである


最後に立っていたモノが勝者である


勝者こそが正義であり、敗者は悪である


シュバンドルフの二つ名はビーストキラー


魔導アーマーと自らの肉体を魔導の御業で融合させている


獣化した獣人を真正面から叩き潰し、引き裂き引き千切る


重量級のパワーファイターである



重量級のシュバンドルフの体を支えているはずの両足が見当たらない


腰から下が焼失したかのように消えている


獣化した獣人を叩き潰すはずの左腕も見当たらない


左腕が焼失したかのように消えている


足が有ったであろう位置に、左腕が有ったであろう位置に灰だけが残っている




キンッっとライターを開ける音がする



カシャッっとライターを閉める音がする



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



白い中折れ帽子、襟の深い白いコートの男


銀色の武骨な形のライターを弄ぶ





「わかった、誰に負ければいい?」



「誰だ?」



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



「誰だ?誰に負ければいい?」



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



「誰に負ければいいか、聞いてんだろうがよっ」



キンッ



ボッっとライターに炎が灯る、オレンジ色の炎が揺らぐ



カシャッ



「ぐはぁっ」ドシャと地面に重いものが落ちる音と、うめき声が同時に聞える



シュバンドルフの右腕が焼失していた



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



何でこんな事になったのかとシュバンドルフは考える


この男の目的は何なのかとシュバンドルフは考える



わからない


負けてやると言っている、八百長してやると


賭け試合にはよくある事だ、今までもあった


だが


気に入らなかった、負けてやるのが気に入らなかった


闘技場の中でも外でも気に入らないものは叩き潰してきた、引き裂いてきた


その俺が負けてやると言っている、八百長に応じると言っている


しかし、右腕を燃やされた


わからない


この男がわからない



この路地に入る理由となった男達は既に居ない


奴らは分かりやすかった


酔っぱらい、わめき暴れていた


そして難癖を付けてきた、この俺にである


数が有れば勝てるとでも思っていたのか、次々と沸いてきた


しかし、すべて潰した


まわりの壁を赤く塗ってやった



そこに、この男が現れたのだ


最初は奴らの仲間だと思った



ちがった


奴らは既に灰にされている


わからない


この男がわからない





キンッっとライターを開ける音がする



カシャッっとライターを閉める音がする



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



白い中折れ帽子、襟の深い白いコートの男


銀色の武骨な形のライターを弄ぶ





車のヘッドライトがライターの男を照らし出す


笑っていた


口角が釣り上がり耳まで裂けていると錯覚するほどに


笑っていた


声もなくその口元が笑っていた


垂れた目の奥の瞳がシュバンドルフを見て笑っていた



シュバンドルフは理解する


ライターを弄ぶ男の目的を


シュバンドルフは理解する


ライターを弄ぶ男の欲望を



燃やしたいのである



燃やし尽くしたいのである



全てのモノを燃やし尽くしたいのである





キンッっとライターを開ける音がする



カシャッっとライターを閉める音がする



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



白い中折れ帽子、襟の深い白いコートの男


銀色の武骨な形のライターを弄ぶ





ライターを弄ぶ男は見ていた


シュバンドルフを見ていた


シュバンドルフが消失していく姿を



ライターを弄ぶ男は眺めていた


シュバンドルフを眺めていた


シュバンドルフが焼失していく姿を



ライターを弄ぶ男は視たかった、魂が消失していく瞬間を


ライターを弄ぶ男は視たかった、魂が焼失していく瞬間を



ライターを弄ぶ男がコノ世に生を受けて最初に感じた消失を


ライターを弄ぶ男がコノ世に生を受けて最初に感じた焼失を



母親の内側から視た光景を





キンッっとライターを開ける音がする



カシャッっとライターを閉める音がする



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



白い中折れ帽子、襟の深い白いコートの男


銀色の武骨な形のライターを弄ぶ





シュバンドルフだったモノはもう其処には無い


シュバンドルフだったモノの灰だけが其処に残る





キンッっとライターを開ける音がする



カシャッっとライターを閉める音がする



キンッ…カシャッ



キンッ…カシャッ



白い中折れ帽子、襟の深い白いコートの男


銀色の武骨な形のライターを弄ぶ





ライターを弄ぶ男はもう其処には無い


ライターを弄ぶ男の影だけが其処に残る







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