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008


突然の登場に賢夜は頭を下げて挨拶をする。その後に続いて、周りの全員も会釈をした。そして他の隊員たちはまるで投げるかの様に、素早くその場から出て行った。


部屋に取り残されたのは賢夜ただ1人のみだ。


「会いたかったわ、ケンヤ! 」


少女は小走りで近づき、そのまま賢夜に身を預けるかの様に抱擁を交わす。その際に微かにだが、女性特有の甘い香りが漂い鼻孔をくすぐる。


「そうですか」


その言葉を聞いた少女は上目遣いで賢夜を見上げて頬を膨らませる。目を逸らすにしても、エメラルドグリーンの今にも吸い込まれそうな瞳に目が行ってしまう。


「もう、ここは『俺も会いたかったよ』って言うところでしょ! 」

「申し訳ありません」

「その敬語もそうよ、いつもみたいに呼んでよ! 」


近くになればなるほど厄介な目に合うことを分かっているんだけど賢夜は敢えて距離を取ろうと申し立てるが呆気なく否定される。


そのいつもとは、どの場面を指すのか。公の場かそれともプライベートのときを示すのか。いや、今の言い回しだとプライベートに接しろと言っているのは賢夜でも分かる。


「はぁ、分かったよ。シャル」

「うん、よろしい」


賢夜が諦めて崩れた言葉を話すと嬉しそうに笑みを浮かべる。


彼女はイギリス王国の第一王女のシャルロット。欲しいものは何があろうとも手にしようとするお姫様でもある。


「もぅ、全然こっちに来てくれないんだから寂しかったわ」

「そんなに経ってないだろう」

「一年よ! 何で一年も待たなければいけないのかしら」


それは当然、賢夜に行く意思が全くなかったこと。そして、仕事でもこちらに来る機会がなかったからだ。


「長いようで短いな。成長したんじゃないか? 」


そう言い、頭に手をポンと乗せる。以前はもう少し小さかった気がするがやはり成長気なのか伸びているのが分かる。


「えへへ、ありがとうね」

「というか何で俺が居るって分かったんだ? 」


今はちょうど正午が過ぎたあたりだ。賢夜がこの宮殿へ来るのはもう少し後のはずである。


「それはほら、私のケンヤへの愛あっての事だわよ」

「さいですか」


ストレート過ぎる言葉に凍夜は戸惑いを感じて、ソッポを向く。それでも猫のように視線を合わせようとしてくるのに苦しむ。



「それで、国王陛下はどうされているんだ? 」

「そうだったわ、そろそろ昼食のお時間だから、ケンヤも一緒にどう? 」

「庶民の俺が王族の食卓に馴染めるわけないだろう」

「それを言うなら、あなたは生まれながらにしての王よ。なんせ…」


シャルロットは自分のお腹に手を当ててポッと頬を薄紅色に染まらせる。


「なんせ…なんだよ」

「フフッ、あなたの遺伝子が私の中にあるのだから」


賢夜は自分の頭を抱えて今の発言に苦しむ。確かに現代の超能力者のソースは全て凍夜からのものだ。それは否定しない。しかし言い方が悪過ぎる。世界ではそれを隠すために予防接種扱いになっているはずなのだ。


「物は言い様だな」

「否定しないのね」

「否定したいが事実でもある」


そこで賢夜はピリッと脳に電流が走ったような感覚に見舞われた。


「シャル、何してんの」

「なんの事かしら? 」


シャルロットは顔を崩さずに微笑む。惚けているのは一目瞭然だ。何をされたか分からなかったら、賢夜も押し黙っていただろう。


「能力を使うなって言ってるんだよ」

「流石は賢夜。私の『精神操作メンタルハンド』が効かないものね。それでこそ私の王子様」


本当に性格が悪い。この能力を使えば脳に電気信号を送るための能力を持つ能力者、つまり『電気使い(エレクトロマスター)』以外にはほぼ無敵という事だ。無論、賢夜には効果がないことは見て取れる。


「本当にお前の性格にマッチした能力だな」

「あら、ありがとう」


皮肉を込めて言ったはずが、かえって上機嫌にさせてしまった。



コンコン


「お嬢様、こちらに居られましたか。陛下もお待ちですよ」


扉がノックされる音が聞こえる。2人はそちらの方を見るとそこにはメイドが立っていた。メイドとは言っても日本の喫茶にいるようなフリフリの格好をしているメイドではない。スカートの丈は足首が隠れるかどうかの長さである。


「あら、ごめんなさい。でも、居ても立っても居られなくてね」


そう言い、まるで恋人に寄り添いかかるかの様にシャルロットは賢夜の懐に入り込む。メイドもシャルロットの行動に納得がいったのか、姫にあるまじき行動を肯定する。


「シャル、行ってこい。待たせてはダメだろう」


他人行儀な凍夜の発言に不満げな顔をする。そうして、凍夜を盾にするかの様にシャルロットは後ろへ隠れた。


「ケンヤが一緒に行かないなら私も行かないわ」

「いや…おまえ」

「何よ、文句でもあるの? 」


逆に文句しか考えられない。実にメンドくさい姫である。


「お久しぶりです、賢夜様」

「どうも」

「よろしければ賢夜様もご一緒にいかがですか? 」

「いや、俺は只の平民ですので」

「陛下もお待ちですよ」


すでに退路を断たれている事に賢夜はショックを受ける。シャルロットの方を見れば、『ほらね、来てよ』と言いたげなのがアイコンタクトから見て取れる。


「分かりました」


致し方ない。自身のせいで待たせると言うのも申し訳ない。賢夜は観念して大人しく付いていく事にした。


「一緒にご飯を食べるのは久しぶりね」

「そうだな」


目の前には大きな縦長のテーブルが置かれている。そして綺麗に並べられた椅子。どれもこれも一級品だという事は言わずとも分かる。そして、テーブルクロスの上にはカットされたパンにオードブルが並べられている。


「遅かったではないか。待ちくたびれたぞ、賢夜」

「久しぶりね、賢夜さん」


上座には1人の威厳ある男性が、対面座先の一方に座るのはシャルロットと同じく綺麗な服に身を包んだ女性。


「お久しぶりです、陛下並びに王妃様」


賢夜は扉の前に立ち、シャルロットに掴まれている腕をスルリと解く。そして姿勢を正し、2人に向かって深くお辞儀をする。


「なんだ、そのガチガチに凝り固まった対応は」

「陛下の御前ですので」

「似合わん態度を取るな、それにここは公の場ではないぞ」


子は親に似るというのか、


「分かりましたよ」

「うふ。凍夜さんはそちらの方が似合いますよ」


♢♦︎♢


春菜たちは瞬間移動により、時計塔近くの人通りのいない路地に転移した。


「ふぅ、ここなら良いかな」


少し崩れたスカートをパンパンとはたき、その場に立つ。


空間転移は便利とは言え、目立つ能力でもある。世界でも最も能力者が集う水上学園都市ならまだしも、欧米などの各国では使いたくない。


「わぁ、ほんと一瞬だね」

「ここどこ? 」


マップが頭に入っている春菜。そして残りの2人は薄暗い路地に少し怯えている。


「近道しよっか」


春菜は明るい大通りが見えている方角ではなく、逆の明らかに嫌な雰囲気が漂う路地に向った。


しばらく歩いていくと、道の端にはお金を乞う人物や柄の悪い人物たちがちらほらいる事が分かる。真っ直ぐに正面を向き歩く春菜にサラシャと時雨は見失わない様に服の端を摘んで歩く。


「春菜、お金あげないの? 」

「サラシャちゃん、こういう人たちは大通りでも数分歩けば1人はいるのよ」

「キリがないってことね」

「その通り。それに渡したら変に絡まれたり、裏にマフィアと繋がってる人もいるからね」


知らなかった豆知識に衝撃を受ける。



「ヘイ、君たち。どこから来たんだい? 」

「カワうぃーね、俺らとお茶でもどうだ」

「ジャパニーズかな」


突然目の前には5人組のチンピラが春菜たちを囲んだ。日本人とは違い、身長とガタイの大きさが目立つ。


「春菜、どうする? 」

「行きましょうか」


春菜の答えに2人もチンピラたちを無視するかの様に素通りしようとする。


「おいおい、つれないじゃんかよ。無視することはないだろう」


1人のチンピラが時雨の時雨の肩を掴もうとする。


「ギャァ」


ジュウッという擬音語が聞こえた。男は反射的に時雨の肩に置いた手を引っ込める。時雨の体からはこの暑い夏には似つかわしくない液体窒素の様な冷気が辺りに漂う。サラシャは涼しげさに気持ちのいい顔をする。


「テメェ、能力者か! 」

「綺麗な薔薇には棘があると言うじゃない」

「ちっ、なら少し痛い目を見てもらおうじゃねぇのよ! 」


男は手荷物のペットボトルに入った水をボトボトと地面に落とす。するとその水は男の体を渦巻くかの様に空中に漂う。


「水流操作系統ね」

「どうだ? 凄いだろ」

「クスッ、ウケるわ」


時雨はまるで小馬鹿にするかの様に男を蔑む。瞬間移、男の取り巻く液体は固体に変貌する。言い表すなら、氷の檻に囚われた姫だろうか。しかし、その姫は醜い野獣。誰も助けにはやって来ないだろう。


「なっ! 」

「あなたの能力と私の能力とでは相性が悪すぎるってのが分からなかった? 」

「ちぃ、ならもういい」


男はズボンの後ろポケットに手を入れる。そして何かを時雨たちに向けた。他の男たちも同じ物を取り出す。


「へへっ、銃弾なら能力なんて関係ないよな? 」

「………」


男の下卑た顔が目の前に写し出される。時雨は頭痛がするのかこめかみに手を当てる。


「おい、さっきまでの威勢はどうした? 」

「ウヘヘ、もう終わりだぜ」

「いい事しようぜ? 」


男たちはすでに勝った気だいる様だ。しかし、時雨が懸念している理由は他にある。


それ(拳銃)は下げた方が良いよ? 」


時雨は何かを忠告するかの様にそう告げる。


「はぁ? なに言ってやが…ァァ」


意味が分からずに男たちは、気にせずに銃弾を放とうとした瞬間に違和感を感じる。男たちの鼻と目からはボトボトと血が流れてきた。ゴシゴシとこすろうとも止まる気配はない。不意に銃を下ろしてしまった。そして、1人の少女が前に出てきた。


「少しおいたが過ぎるのではなくて? 」

「デメェ、ナニしやがっだ」

「あら、少しばかりあなた方の周りの気圧を大きく変動させただけですよ。それに体が耐えきれなくなったのではなくて? 」


春菜はフラフラと足元がおぼつかない男たちに向けて笑顔で忠告する。


「クッソ、死ねや! 」


男は焦点が合っていないが、今にも撃ち殺さんとする。


「時雨! 春菜が危ないよ! 」

「あー、ジ・エンドだね」


拳銃を突きつけられて、サラシャは危険だと隣の時雨に告げる。それに対してカラカラと軽い反応をする。



ひれ伏しなさい(・・・・・・・)


それは言霊であった。

そう捉えてもなんの不自然もない出来事。


男たちは突然の出来事に状況が理解出来ず、強制的に地にひれ伏す。あまりの重圧に体がピキピキと音を立てる。内臓が悲鳴を上げている中、まともに息すら出来ない現状で春菜は男たちの元へ歩み寄り、腰を下ろす。


「自分の置かれている状況が分かりますか? 」

「ァァガ…ァィ…ワガッ」

「これに懲りたらもうこんな事はしないで下さいね」


春菜の心の芯まで凍らせそうな瞳が男たちを見据える。その返答として、重い体をコクコクと必死に縦に揺さぶる。春菜が能力を解くとともにドサっと意識とともに男たちの体から力が抜けた。


「よろしい、それじゃあ行きましょうか」

「オッケー」

「わかった」


裏通りを出ると、多くの人がその場を行き来していた。


「春菜、あれなに? 」


サラシャが指をさした方角を見ると、2人のカップルがいた。手には2段に積み重なったアイスがある。近くを見渡すと、テントを張った影にアイスの絵が描かれた張り紙がある。


「アイスね」

「アイスかー、食後のデザートにはちょうど良いんじゃないの」

「そうね、そうしましょう」


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