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007


黒塗りのリムジンカーは何重にも大きな門をくぐってようやく宮殿の中に入っていった。中には衛兵らしき人物たちとラフな格好の人たちが、まるで迎えるかの様に整列していた。


「着きましたよ」

「出たくない」


賢夜は駄々をこねるかの様に隅っこへ身を寄せる。


「お出迎えなんて要らんだろう」

「賢夜様の部下たちも居られるのですよ? 」

「違う、部下なんて俺にはいない」


するとドンドンと窓ガラスを叩く音が聞こえる。すると1人の青年がこちらを見ている。この窓はマジックミラーとなっているのであちらからは見えない。しかし、青年はまるで分かっている様に賢夜のいる方角を向く。


「隊長ー! 出て来てくださーい」

「ほら、呼んでますよ」

「はぁ、分かったよ」


賢夜は覚悟を決めて扉を勢いよく開ける。すると、バンッと何かにぶつかる音が聞こえたが凍夜は無視して外に出る。


「総員、敬礼! 」


軍服の男たちは凍夜を見た途端に綺麗だった整列を更に美しく組み直して敬礼する。先頭に立っている男は40代後半だろうか、胸にはいくつもの勲章が飾られており一目で上官だと見分けがつく。


賢夜はそれを見て顔を引きつかせる。ラフな格好をしている者たちはこういう歓迎は賢夜が苦手だと知っているのか、ニヤニヤと頬を緩ませている。


「歓迎する必要はないですよ、デビットさん。というか大将の階級を持つあなたが何でここにいるんですか。この緊急時なら忙しいはずでしょ」

「ははっ、ケンヤ。君が来ているんだから顔を出すのは当たり前だろう。なんせ英国最強の兵士なのだから」


デビットは笑いながら賢夜の頭を力強く撫でる。そのせいで、賢夜の髪は乱れてボサボサになってしまった。


「俺は一般学生です」

「ははっ、軍を相手に無傷で勝利する学生がいてたまるかよ」

「それはあなた方が勝手に手を出して来たからでしょう」


以前に賢夜の力を実際に見たいと、英軍は模擬戦という形でオート操縦のAIロボや兵器を出してきた。この当時は賢夜も終わり気味ではあったが反抗期の真っ只中であった。

ストレス発散と称して、快く請けおった賢夜は数千はある銃火器を高笑いしながら粉々に粉砕していく。極め付けは核ミサイルだ。国際条約で禁止されているはずの物を放ってしまったのだ。

もし当たれば、環境も変化してしまう。イギリス軍も熱くなった頭を冷やし、自体の大きさに気がついた。止めようにも放った後の弾を戻す事は出来ない。

しかし、賢夜は何の辺境もない顔で空中で原子ごと分解した。これにはイギリス軍も超能力の凄まじさを笑わずにいられなかったという事だ。


「まあ、気が向いたらいつでもウチに来てくれ。歓迎する」

「無いと思いますが、その時はお願いします」


一応は社交辞令として、凍夜はデビットと握手をする。そして、デビットは自分の部下を連れてどこかへ行った。


「で、何でお前らまでいるんだよ。ザック」

「ちょっ、酷いですよ隊長。俺らは同じ隊長の部下なんだから隊長が仕事で動くなら隊長についていくのは当然でしょう。ねぇ、隊長! 」

「隊長隊長うるさいはボケ! 」


賢夜は先ほどドアにぶつけて倒した人物、ザックをまた殴り地面に倒す。


「ボス、お久しぶりです」

「何でマフィア風なんだよ、シェイ」

「ボスはマフィアたち(雑魚ども)とは比較にならない強さをお持ちです」

「本音が漏れてますよ」


賢夜と同じ歳くらいの少女が話に割り込む。賢夜は呆れ顔で目の前にいる人物たちを見回す。

人数は合わせて10名にも届かないであろう。


「おい、シェイ。今は俺と隊長が話してるんだよ」

「うるさいです、このクソ虫。自国の油まみれのハンバーガーでも食べて黙ってなさい」

「ハンバーガーは俺のマイフレンドだ! バカにするんじゃねぇよ」

「ハンバーガーが友達ですか、寂しい人ですね。哀れみます」


少女は開口一番から自身の特徴でもある毒舌をフルオートで連射する。彼らは賢夜と同じく、各国から代表として選び抜かれた超能力者のエージェントだ。それと同時に賢夜の所属している国際超能力者特殊部隊、通称ISSFの隊員たちである。


「隊長さん、取り敢えず移動するぞ。姫様に見つかったら会議が出来なくなる」


身長190はあるであろう、ガタイのいい男が2人を止める口実を作るかの様に話しかける。


「そうだな、ロウ」



賢夜たちは宮殿内に移動する。着いたのは一つの小部屋。中には大きなスクリーンと黒塗りのテーブルと机が置かれている。席は9つ、1つのテーブルを囲む様に置かれている。


その場に居た人物たちは嫌そうにしている賢夜の後に続いて席に腰掛ける。


「それでは会議を始めさせて頂きます」


シェイは端末を開き早打ちで何かを入力する。するとテーブルの中央に3Dの文字表示が現れる。


「ボスはある程度の事情は知っておられますか? 」

「ん、ああ。ここに来る際に大体は聞いた」


賢夜は生返事で答える。


「それならばある程度は省きますね。今回のパレードについてですが、2日早めると先ほど通告がありました。理由は今回の件で、相手に動揺を与えるためです」

「早い分ゆっくり出来ると思ったけど違ったか」

「国民には放送で今日の午後5時に通達する予定です」

「分かった」

「そして今回の首謀についてですが、ウロボロスだと判明しました」


その回答に部屋にいた全員が驚きめを開く。


「おい、特定出来てるんだったら先に言えよ」

「クソ虫、私の能力を使えばこの様な事は造作もないのですよ」

「はっ、『電脳支配』だっけ? 便利だな、流石は電脳姫と言われるだけの事はある」

「褒め言葉として取っておきますね」


ケンカするほど仲が良いのか。いや、実際は本人たちは犬猿の中なのでそんな事は一切ない。凍夜は2人のいがみ合いを暖かな目で眺める。


「シェイ、敵の能力者の情報は分かるか? 」


ピピビと電子ボードを打つ音が聞こえる。シェイの端末スクリーンの情報が真ん中にも表示されているが、早すぎて何をしているかは常人には分からない。


「この人物です」


映し出されたのはピアスを耳と鼻に付けたいかにも柄が悪そうな東洋人。


「能力は? 」


顔が分かったことは大きい。だが能力が分からなければ、いざという時にアドリブ状態で戦わなくてはならない。


「すいません、ボス。情報は入って来ませんでした」

「中国人だろ、お前と同じなんだから探しやすいだろ」

「私とこの男が同じだと? クソ虫、あなたの国に向けてウィルスを放ちますよ」

「やってみろや、ボタンを押した瞬間にショートさせてやらぁ」


シェイはキッと睨み、ザックの体からはバチバチと空気の摩擦で閃光が生じる。今にも攻防が始まりそうな雰囲気である。他の隊員たちも面倒ごとに巻き込まれたくはないと席を立とうとする。


しかし、それは不発に終わった。

なぜなら…


「座れ」


その言葉に全員が強制的に自身の意思とは関係なく座る事になったからだ。比喩ではなく物理的何かによってだ。その人物が明らかに不機嫌そうにしている事に隊員たちは冷や汗を流す。


「ケンカなら他所でやれ」


そう呟いたのは賢夜。流石に無駄な話しが多すぎ、全く話しが進まない事に不満を抱いていた。


「隊長、すんません」

「申し訳ありません、ボス」


2人は賢夜に向かって謝り席に着く。


「さて、話を戻すが今回の構成員は分かっているか? 」

「はい、今回はウロボロスのイギリス支部のみです」

「あくまで首領は出てこないか、情報を掴めると思ったんだがな」


あまり期待はしていなかったが、残念そうな声でそう呟く。


「隊長、仕方ないですよ。すぐに見つかれば国連も苦労しません」

「そうだな」


ザック自身ははなから諦めているかの様に凍夜をなだめる。


「ボス、今回はどういう形で行きますか? 」

「俺とロウは王族の側で護衛につく。シェイはこの部屋から司令塔の役割を担ってくれ。後はいつも通りで構わないよな? 」

「問題ないぜ」

「私も問題ありません」


全員が肯定の意を示す。シェイも早いが会議は終わっただろうと端末の電源を切り、自前のケースに入れていく。


「それじゃあ、各自よろしく頼む」


賢夜が締めくくって会議は終わりを告げた。賢夜もだが、他の隊員たちもこういう硬い空気は苦手なのだろうか、フゥとため息をついて座席にもたれかかる。



「そう言えば、隊長。さっきのって重力を操ったんですよね? 」

「ん、そうだが」

「重力と言えば、春菜ちゃんって来てるんですか? 」


ザックが興味ありげに聞いてくる。


「中学生に欲情ですか? ロリコン」

「ちげーよ! 春菜ちゃんは隊長以外のここにいる全員より強力だから手助けとかしてくれないのかなーって」

「春菜は軍には関わらせない。それが約束だからな」

「お兄ちゃんっすね」


ドタバタッ


突然、外が騒がしくなってきた。会議ともあって部屋の外には警備員が立っている。何かいがみ合っている音がする。いや、凍夜には誰なのかは既に分かっていた。心の内でそろそろかなぁと思っていた。


「ケンヤ!」


開かれた扉から出てきたのは、綺麗な洋服に身を包んだ少女。


「お久しぶりです、姫殿下」



♢♦︎♢



春菜たちは食べ物を求めて、とある店に入り込んでいた。


「ハムハム、美味しいね! 」


サラシャは出された料理をパクパクと口の中に放り込んでいる。かれこれ十数分は口を休めずにいる。それだけアゴを動かし続けて疲れないのかと春菜は思う。


「イギリスってご飯はマズイってイメージが強かったんだけどそうでもないのかな? 」

「マズイというよりは味に執着心がないから、日本みたいに素材の味を生かした技法ってのがほとんど無いのよね。それでも美味しい店は美味しいわよ」


春菜はそう言い、手に持つスプーンで目の前にあるスープを一定のペースで口に運ぶ。

その情報を聞いた時雨は関心して、流石は春菜だと褒め称える。


春菜たちがいるのは、高級レストランでもなければガイドブックにも載っていないどこにでもある様なお店。しかし出される料理は人を落ち着かせる慣れ親しんだ味だ。


「この後どうする? 」

「ガイドは多分できるから大丈夫だと思うよ」

「やった! じゃあ時計塔を見に行きたい!」

「時計塔ね、ここからそんなに遠くないから食べ終わったら行きましょうか。でも…」


春菜はチラリと店の外に顔を向ける。


「どうしたの? 」

「いえ、ガードの方なんでしょうね。お兄様と別れる時に言っていたでしょ? 」

「言ってたね」

「分かっているんだけど、後をつけられるって不愉快よね」


春菜は眉を釣り上げて不快そうな顔をする。向こうはプロだ。相手に察知されない様に常に訓練されている。しかし、相手は春菜。見える範囲では春菜の絶海領域から逃げ隠れもする事は出来ない。



「ん、ごちそうさま! 」


サラシャが最後の一口を豪快に飲み込む。すでに春菜と時雨も完食している。


「サラシャちゃん、ちょっと跳ぶけど良い? 」

「ん? いいよー」


春菜はチップを含めた料金をその場に置いて、2人の手を持ってその場から消えた。







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