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「賢夜! 賢夜! 凄いよ、人がいっぱいだよ! 」


サラシャは昨日と同じショートローブに身を包んで、ショッピングモールの中に興味津々の様子だ。


今、賢夜たちが来ているのは第4特区である。

第4特区は水上学園都市の中央に位置しており、ショッピングモールやアミューズメント施設が集まっている。その中でも今、賢夜たちがいるのは地下4階地上6階のショッピングモールだ。驚くのはその全長。ワンフロアの端から端まで行くのに、直行で15分はかかるのだ。


こういう夏休みや休日であれば、学生同士で遊びによく来る。


「一旦落ち着こうか」

「これが落ち着いていられないんだよ! 」


只今は午前10時でちょうど店が開店したのだが、辺りは人で溢れかえっている。端末を持っていないサラシャが離れれば文字通りの一大事だ。


「ほら、手を貸せ。迷子になるだろう」

「うん! 」


賢夜はサラシャの細く小さな手を握る。


「取り敢えずは服だ。お前の服を探しに行くぞ」

「うん、全部回ろう! 」

「え……」


♢♦︎♢


第16特区、


ここに一人の少女がベットに座って自分の携帯端末と睨めっこしていた。綺麗に整理整頓された部屋、ベットと机が二つあるところからもう一人の住人がいる事が分かる。


(はぁ、お兄様ったらどうして出ないのかしら。充電切れ? いや、お兄様はこういう事はマメな方。充電切れなんてはあり得ないわね)


全く反応のない相手に、疑問を抱いている少女。


彼女は水上学園都市、男子禁制の花園である第16特区の一角である中学、天ノ宮中学の寮のに彼女は入っている。


「春菜、何してるの? 」

「うん、ちょっとね」

「もしかして、トウ君のこと? 」

「そうなのよ、お兄様を買い物にでも誘おうとしたんだけど返事が無いのよね」

「はー、妹泣かせだね」

「時雨だって会いたいでしょ? 」

「うん、そりゃね」


そう。ここにいる二人こそ、水上学園都市の頂点に君臨する9人のうちの二人。


名を月宮つきみや春菜はるな雷坂らいさか時雨しぐれ


春菜の能力名は『空間掌握オールポイント』。座標を指定する事により、自身や無機物などあらゆる物を視野に入れただけで移動させられる。それだけではなく半径数メートルに限り、圧力や重力も操れる絶対領域を持つ。


時雨の能力名は『紅蓮の氷(アイスファイア)』自身や物体や気温までもの熱運動を操作可能とした能力者である。


二人は賢夜の妹と小さい頃からの知り合いという事もあって、賢夜の事情を知る数少ない人物たちだ。


「春菜なら、ケン君のところまでひとっ飛びじゃないの? 」


最強の空間使いならば可能だろうと推測しする。

その返答として、春菜は大きく首を横に振る。


「私の移動にも限度はあるわよ」


しかし、やってみないと分からない。一応は試してみようと試みた。春菜は辺りの空間を把握して座標演算をする。しかし、半径500メートルを超えた辺りで認識から外れる。


春菜は諦めて自身のベットに倒れこんで足をバタバタさせる。


「そう考えるとケン君は便利よね。何でもありな能力だもん。無人島に連れて行くならトウ君しかあり得ないわね」

「お兄様は最強ですから」

「この都市じゃ、私たちしか知らないけど。あの人の能力って『原初アーマイティ』だっけ? 」


それを聞いた春菜は顔をむすっとさせて、時雨の方を向く。時雨はやっちゃったと視線を逸らそうとする。


「お兄様を私たちと同じカテゴライズにしてはダメよ。この力も全てお兄様から授かった様なものだしね」

「うん…まあ、そうなんだけど」


いつも通りであるが、賢夜を神か何かと置き換えている春菜にドン引きしている時雨。手元にあるリモコンでテレビをつけるとニュースが流れていた。


『一週間後のイギリス国王の誕生祭に向けて国はすでにおおもりあーー』


内容はイギリス国王の誕生日が間近で国民もお祭り状態であるという事だ。



「そう言えば、もう直ぐイギリス国王のやつか。いいなぁ、私もイギリス行きたい! 」

「多分行けるわよ? 」


春菜からの言葉にゴロゴロしていた時雨はガバッと起き上がり距離を詰める。


「何! どうして! 」

「毎年お兄様はイギリス国王に呼ばれて行ってるのよ。私たち家族もついでに観光するために乗せて貰ってたからね。お願いしたら大丈夫だと思うわよ」

「イギリス国王と知り合いってほんと何者!? 凄すぎでしょ」

「お仕事でお知り合いになられた様よ」


春菜は賢夜の事を誇らしげに話す。凍夜のことを褒められた事が嬉しかったのか若干頬が緩む。


このブラコンめ! と時雨は思い口に出そうとしたが以前にも同じ問いをした結果、照れるどころか肯定した事を思い出して口を閉じる。


「と言うことはケン君とは別行動なのかな? 」

「前は帰国前の2日間は一緒に過ごせたわね」

「本当に忙しいんだね」

「本当に大丈夫なのかしら、もしもお兄様が体調でも崩されたら私は…。はっ! そんな事があればお兄様は自分の身を守れない。となると私の存在が必要となってくる。それはお兄様はと一緒にいると…ブツブツ」

「おーい、帰ってこーい! 」


自己世界に突入した春菜を現実に引き戻すかの様に、肩を持ちブンブンと揺らす。


「ああ、ごめんなさい」

「話は変わるんだけど、春菜のところにも来た? 」

「ああ、総生徒会メゾットの勧誘ね。私は断るわよ、面倒だもん」


春菜は顔色一つ変えずに誘いを切り捨てる。その表情は誰かを思わせるのだ。


「あはは、そういうところはトウ君と似てるよね」

「そういう春菜はどうなの? 」

「あー、私は一応…」

「入ったの!? あんなに嫌がっていたのに」


春菜は顔色を変えて、時雨の言葉に驚く。それを聞いてポリポリと気まずそうに頬を掻く時雨。


「とは言ってもも臨時だよ、本当に手がつけられなくなった時や集会の時に顔を出すくらい」

「そんなんで良いの? 」


春菜は思っていた内容とは違い首を傾げる。

総生徒会は特区の規律を守るための組織。毎日の様に見回りなどの活動が行われており、普通の部活よりも更に訓練や時間が取られる。


「今年入ってきた、うちの後輩が必死にお願いしてね」

「断り切れなかったのね」

「うん。まあ、総生徒会もシングルというネームバリューが欲しかった様だからそれで手を打ったのよ」

「なるほどね」


春菜は話を聞いて納得した表情をする。シングルという最強の一角が入れば、組織の巨大さを更に知らしめる事が出来る。それだけ大きな組織に守られていると住民も安心できる。


「それじゃあ、遊びに行こう! 」

「どうして? 」

「ケン君に繋がらないんでしょう? なら遊んでたら見つかるかもしれないし、最終的にはケン君の馬鹿でかいマンションに行けばいいじゃない」

「そうね、それなら先日オープンした所のケーキを食べに行きたいわ」

「お、いいね。そうしよう! 」


♢♦︎♢


賢夜は憂鬱に駆られていた。


「賢夜! どう綺麗? 」


ショッピングモールの中でも端にある一角にある店、服屋といったゴチャゴチャした雰囲気は一切なく限られた服が淡々とかざられている。

例えるなら高級ブランド店。

否、世界でも数知られている有名ブランドである。


女性ならば誰もが憧れる一つの店でもある。


試着室から出てきたのは純白のワンピースに斜めがけのベルトがアクセントになっている姿のサラシャ。


「あー、綺麗綺麗」

「お客様、お美しいです」


賢夜の適当な返事と、営業スマイルで褒め称える店員の姿がそこにはあった。店の客は凍夜とサラシャしかおらずに、好き勝手に選べる状態である。


全ての店を周るにはあまりにも時間を取られすぎる。凍夜は入り口にあるパンフレットをサラシャに見せてどこに行きたいか聞いた。


そこで初めに指を指したのがこの店だ。


なぜ初めにこのクソ高い店を選べたのか、お前はどこぞのボンボンかお姫様ですか? そう賢夜は疑問に思わざるおえなかったのだ。


「これ欲しい! 」


そう言い、サラシャは店員に渡す。店員は丁寧にそれを受け取り、同じ運命に駆られた服たちの上に積む。すでに服だけで15着はあるだろうか。


「サラシャさん、分かってるよね? 買ったとしても2着くらいだよ? 」

「えー! 」


その言葉にサラシャは文句を垂れる。


「お客様、どれもこれもお連れ様にお似合いですよ」


店員はサラシャの味方になり、凍夜を説得しようとする。確かにサラシャは似合う。元々海外ブランドなだけあって、あわい金髪とはマッチングしている。


しかしだ、これを購入するのは凍夜でありサラシャではない。教育という面もあって、無駄遣いさせる気はない。


「他も回るだろう、他の店では買わないんだったらここで済ませてもいいぞ? 」

「うーん、他のお店にもあるよね? 」

「あるぞ」


逆に何で初めにラスボス級の店に立ち寄るか。

学生なら安くてなんぼの世界だろうにと思う。


サラシャはションボリとするが、仕方ないと割り切り山の中から3着のを厳選する。

選んだのは花柄の刺繍が入っている純白のワンピースと上下セットのストリートファッション(帽子とベルト付き)、ノースリーブの薄手の服だ。



「3着で18万6千円になります」

「…………カードで」


なぜこの娘がいると、こんなにも金の出費が激しいんだろうと思いながら、賢夜は財布からカードをトレーにかざして会計を済ませる。




「お昼の時間だね」


サラシャは目の前にある大きな電子掲示板に出されている時刻に目掛けて指を指す。それにつられて賢夜も見ると、時刻は午前11時30分。ちょうどフードコートや飲食店に人が集まり始める時間帯である。そっち方面は向かう人たちもちらほら見て取れる。


「賢夜は何が食べたい? 」

「腹が満たされればそれで良い」

「むぅ、食べ物のありがたみをきちんと感じないとダメなんだよ」

「さいですか」


しばらくサラシャが夢中になって店頭の食品ディスプレイを眺め回っていると、一つの店が賢夜とサラシャの目に止まった。


「賢夜、コレ食べたい」


サラシャは店頭に貼られている宣伝ポスターをピョンピョン跳ねながら指差す。


『マキシマムデラックス最高級ステーキ改、25分で完食すれば無料、失敗すれば6万円』


似た様な単語を続けて並べる必要はあったのか。


どうやらこのステーキは店で出せる最高級の部位を盛大に使ったものらしく、肉の量だけでも3キログラム、付け合わせの山盛りポテトとサラダ、大盛りの白米を完食しなくてはならないらしい。

明からオーバーカロリーと最高級の肉をゆっくりと吟味する時間も無い中で普通の人間には完食するなど到底不可能だと凍夜は理解する……が、それは普通の人間である場合の話。


「まあ、お前なら食べられるだろう」


昨日のファミレス事件を思い出して、サラシャの胃袋ブラックホールの許容量に賢夜は勝ったと確信する。お金もかからない、腹も満たされる。店側もこんな無茶なチャレンジの成功者が出たと胸を張って宣伝できる。

お互いWINWINな関係が成立するではないか。


「よし、入ろうか」


賢夜はサラシャを連れて、店の中に入ろうとしたその時…



「お兄様?」


ふと、どこかで聞いたことのある声がした。いや、この声を聞き間違えるはずがない。


賢夜はギギッと錆びついたロボットの首を動かすかの様に後ろを振り向く。すると、そこには冷たい表情の妹と驚いた顔をした妹の幼馴染(俺も含む)がいた。

今、賢夜の隣には金髪美少女のサラシャ。どここらどう見てもカップルにしか見えない。


「取り敢えず、おちつ…」


誤解を解くために二人の方へ大きく踏み込もうとしたが、足が動かない。ふと足元をみると、凍夜の靴底と床のタイルが氷で接着されていた。

そして、ドゥンという空間自体に圧がかかる音が聞こえる。賢夜は冷や汗を流して床に膝と両手をつけた。あと、お尻を下げれば綺麗な土下座の完成である。


「ちょっ、シングル2人が無垢な一般人を虐めるのは反則じゃないかな? 」


賢夜は目の前にいる少女たちに必死に説得を試みる。


「お兄様、私のメールは無視で別の女の子とデートですか? 」

「ケン君、私は悲しいぞぉ」


フフフと、冷たい視線で見下ろす春菜と、ニヤニヤと面白がりながら賢夜と視線を合わせるために腰を下ろす時雨。


水上学園都市の最強を担う2人によって、凍夜はやすやすと捕まった。


「詳しくはお店の中で話しましょう」

「はい」



サラシャの目の前には、これでもかと言うほどの大きさのステーキが置かれている。残りの3人はサイコロステーキとハンバーグの乗っているランチセットだ。


「ふぁー! 凄いんだよ、こんなお肉見た事ないんだよ! 賢夜、食べていい? 」

「ああ、食べろよ。残すんじゃないぞ、飲み込め」

「ラジャー! 」


大きく切り分けたステーキ肉を口いっぱいに頬張る。フンフン♪ とリズミカルに至福の時を過ごす。


「それで、お兄様。この外国人美少女は誰ですか? 」

「うちの居候」

「はぁ!? 」


春菜は机をバンッと叩き思わず立ち上がる。それに驚いた凍夜はビクッと驚いて肩をすくめる。


「お兄様、同棲してらっしゃるのですか? こんな年端もいかない女の子と? なぜ! 」

「仕方ないだろう、行き場を無くしている様なんだから」

「はぁ、そうですね。お兄様はそういう方ですものね」


なんとなくだが理解した春菜は呆れ顔で座る。


「それで、その子の名前はなんですか? 」

「ハムハム…サラシャだよ! 」

「それじゃあ、サラシャさん。お兄様に何かしてないかしら? 主に色仕掛けとか」


普通ここでは、男の子が女の子に何かしていないか聞く場面。だが、あえて逆を聞いてくる春菜さん。

いつからウチの妹はこんなのになってしまったのだろうかと凍夜は疑問に思う。


「賢夜はご飯を沢山食べさせてくれるんだよ? お洋服も買ってくれたんだ! 」


片手に大きな肉の塊を持って、先ほど賢夜が購入した服の入っている袋を見せる。

純白で上質な紙質であり金色のロゴが入ったそれは側から見れば、一般市民が通うショッピングモールでは手に入ることはまず無いと判断できるほどに目立つ。


「お兄様、流石に…いえ。お兄様からすれば関係ありませんか」

「ちょっ! ケン君、それ『アルファール』のやつ!? なんでそんなの持ってるのさ! というか買えたの!? 」


時雨は驚いて目を見開く。凍夜という存在を理解してる春菜は納得の表情を向ける。


「そうか、時雨はお兄様が政府と繋がりがあると知らなかったわね」

「おい、春菜」

「はっ! 申し訳ありません! 」


うっかり滑らした自身の失言に気づく。


3年前に凍夜が政府と協力関係になった際に、両親と春菜は賢夜の水上学園都市という未来最先端都市の事を含めて色々と話された。

これからの未来のソースを提供する代わりに、世界の各国から望んだものを無償で提供する事もだ。


「はぁ、まあ時雨は肉親以外では俺のことを知る唯一の存在だからいいか」


賢夜は周りに聞こえない様に時雨に事情を説明する。


「うひゃー、そういう事か! いいなぁ、これがなんでも買えるブラックカードかー」


時雨は賢夜からそのカードを見せてもらう。


「その分働かされてるから、文句を言われる筋はない」

「そうだ、お兄様。お願いがあります」


春菜は急に深妙な顔つきになる。


「何だ? 」

「そろそろお兄様は仕事でイギリスに行かれますよね」

「……なるほど、ついでだから連れて行って欲しいのね。いいけど、俺は多分構えないぞ? 」

「はい、時雨が行きたいらしいので私たちの心配は必要ありません」

「それならお願いがあるんだが、こいつを一緒に同伴させてやってくれないか? 正直、春菜と時雨なら安心して預けられるんだ」


賢夜はすでに半分以上を食べ終えたサラシャを指差す。お店側は何か問題があったのだろうか、ひたいに汗を掻いている。


「お任せください! お兄様のお願いはきちんと果たします! 」

「ケン君、分かっててその言い方をしたでしょ? 」


春菜の心情を察した時雨はヤレヤレと呆れ顔になる。


「出来るだけ時間は開けるようにするよ。明日出発だけど問題ないか? 」

「いつもより早くないですか? 」

「うん、ちょっとね。それで大丈夫か? 」

「はい、問題ありません! 」


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