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8月13日、おめでとうございます! 山羊座のあなたの占いは一位! どんな事をしても良い方向へ転ぶでしょう。恋愛をしていないあなた! 是非今日は外に出ましょう。必ず良い出会いがあるはずです! もうすぐ夏休みだけど怠けちゃダメだぞ♪ それではまた明日、バイバイ〜


占いにのためだけに録画していたその情報を得た賢夜はすぐさまテレビを消して椅子に座り込み頭を抱える。


(最悪だ、よりにもよって何で一位なんだよ。それに外って無理だろ)


星座占いにおいて、一位になれば誰しもが喜ぶであろう。

もし学校に行く日ならば、この上なく上機嫌なモチベーションで行くことになるだろう。


しかし、賢夜の場合は逆。

それはまるで、これから何か不運な事が起きると分かっているかのようにだ。

実際に彼は過去に自分が一位になった日の事を思い浮かべる。


ある日には、イヤホンをして歩いていたところを自転車に乗った老人に後ろから突っ込まれたのに関わらず、賢夜が無傷だった事から自身は被害者だと言い張る老人に二人まとめて署まで同行させられた。


またある日には、スマートフォンを風呂場で操作していれば防水機能があるはずなのにブラックアウトしていまう。そして高額の修理費を払い、傷一つない同モデルの機種を入手したかと思えば、走る人にぶつかり手から滑り落ちたスマートフォンが上手く車の通る道路に滑り落ち、大型トラックに踏み抜かれて粉々になる始末。


極め付けは、二年前のあの出来事であった。突然として何者かに拘束され連れていかれたと思えば、目の前には武装した兵士や戦車、空には戦闘機が飛び小規模戦争とも言ってもいい自体になった。


それは、まさに占いとは対極とも言ってもいい出来事の数々であった。そんなはずは無いと言いたいところだが、実際にあったのだから事実だと認めざるおえない。

つまり何が言いたいかと言うと、



月宮賢夜という人物は捻くれ者なのである。



そして、休日の日曜日である今現在の時刻は午後2時10分を過ぎている。

気温が一日の中で一番高くなるであろう現在の外の気温は45度を超えて、クソうるさいセミ様のミンミンという鳴き声が鳴り響く。

賢夜という人物は名前の如く、冷やされた空間で日中よりも夜を好む体質の持ち主である。

現に賢夜の住むこの部屋は起床と同時に、エアコンが長時間連続稼働し快適な空間を醸し出しているのだ。

外の気温とはほぼ倍の温度差が生まれている最中で、外に出たいと言う気は微塵もない。


「これが地球温暖化と言うやつか、人間はいつまでこの地獄に耐えられるのだろうかな」


そんな事を無意識に口ずさんでしまうほどにナーバスな賢夜は、今見たテレビの内容を忘れようと試みて冷蔵庫の中を開ける。


(神様、これは俺に外へ出ろという試練か何かですか)


その中身を見た賢夜はその場に倒れ込む。それはまるで、超ヘビー級のボクサーの右ストレートをまともに受けたかの様にだ。

中に入っていたのは、冷やされた二リットルのペットボトル。半分ほど減った飲みかけが一本と蓋を開けていない物が三本だ。それとタッパに入れていた刻みネギ。

つまり、材料は水とネギしかないのである。

生でもネギ、茹でてもネギ、焼いてもネギ。

賢夜に選択の余地はなかった。


「宣言しよう。俺は只今より戦場へ向かうと! 」


悲痛の叫びが、部屋に鳴り響く。

しかし部屋にはいる人物は賢夜一人、その声に耳を傾ける人物さえいないのだ。

その虚しさに後から気がついた賢夜は若干の心苦しさと寂しさを胸の内にしまって、水上学園都市の中で二重の意味で最も高いマンションの玄関から飛び出した。


なぜ学生風情がこの様なマンションを手に入れられたかと言うと、それは言うまでもなく総理大臣の思惑である。

生活に不備がない様にと、無償で賢夜に提供したのだ。とは言っても真実は賢夜という危険人物を手懐け、機嫌を取るための策に過ぎない。

それを承知の上で、凍夜はこの40階建マンションの一室を貰うことにしたのだ。


「あっつ、でも行くしかないよな」


見夜は影一つない道を行き、近所のスーパーに行く。

スーパーの中は涼しく、汗に濡れた背中が冷えて若干の不快感が賢夜を襲う。

その不快感に顔を歪めさせながらも、仕方のない現状を受け入れる。


(うーん、とんかつ弁当か唐揚げ弁当。悩むな、どうしよう)


目の前にあるのは、税抜き498円のとんかつ弁当と税抜き398円の唐揚げ弁当。

300円台は安く見えるがそうではない。

人間とは面白いものだ、1000円の物がと999円に安売りとされていると目がいってしまう。

実質的には1円しか変わらないのに3桁と4桁とでは大きな差が生まれると錯覚し、ついつい買ってしまう。

そこが店側の戦略でもあるんだがな。凍夜はそう思い、あえて高い方のとんかつ弁当を持ってレジに向かう。


もう一度言うが、この水上学園都市は最先端の技術が折り重なった場所である。

当然レジも普通のは違う。

レジを担当する店員はおらず、代わりにベルトコンベアーにおけば囲まれた赤外線センサーによりスキャンされ自動的に自身の払う料金が出される。

しかし、それでは盗難の恐れがあるために各レジには一台の警備ロボと監視カメラが配置されているので盗難は不可能である。


見夜はポケットの中からブラックカードを取り出し、トレーにかざして精算を終える。



どうせ帰っても一人だ。



水上学園都市は学生のために造られた都市であり、その人口の18万人のうち9割を学生が占める。

親とは水上学園都市が出来た当初から離れ、年に数回の帰郷のみ顔を合わせる。妹は女子校の寮へ入っている。それもお嬢様の通う学校だ。

対して賢夜は自身の力を隠していると言うこともあり、ごくごく平凡な高校で生活している。



ナンバーズ制定法。


それは、この水上学園都市の優劣を決めるために取り入れられた法案だ。

簡潔に答えるとすると、秘められた才能を開花させた学生たちはどれ程の力を発揮できるか。

その強さに応じて順位をつけたものだ。

能力は一人につき一つ。その才能を磨き上げ、上位に食い入るため学生は日々自身の能力を探求し磨き上げているのだ。

そして、各国の頂点に君臨する一桁の者たちはシングルと呼ばれ、水上学園都市内で敬われる存在とされている。

また、学費無料などの特権も与えられており実に羨ましい存在でもある。

一般家庭に生まれた賢夜の妹もそのおかげでバカでかい学費を払わずに名門お嬢様学校に入学出来たのだ。


では、原点でもある賢夜は一体何なのか。


配布された順位は0。

ナンバー0である。

ナンバーズ制定法の枠組みから外された唯一の番外者。

国からは適性の有無の反応すら出なかった事から、無能者としての烙印とされている。

事実を知らない者たちは哀れみの視線を凍夜は送られた。しかし、真実は賢夜に対して国からの最大の配慮でもあったのだ。


そして、賢夜はその結果に満足してこの水上学園都市の生活を送っているという訳である。





賢夜は今来た道を戻るのもつまらないと思い、近くの公園を通ってマンションへ帰る事にした。


「んぁ? 」



木の木陰にダンボール箱。

そして、『拾って下さい』の文字が書かれている。

見夜は立ち止まる。いや、立ち止まざるおえなかった。なぜなら…


「拾ってくれる? 」

「…………………」


そう、中に入っていたのは子犬でもなければ子猫でもない。少女であったからだ。

手に持っていた袋を思わず落とす。


意味が分からない。女の子は膝を折りたたみ、正座をする形でダンボール箱に綺麗に収まっていた。

歳はちょうど中学生あたりだろうか。髪の色は黄色…いや、透き通った淡い金髪である。

肌は白く、純白と金色の織り成す見事な芸術と化している。

髪は長く、伸びきっているのが分かるが枝毛が見えない事から、きちんと手入れをされているのが見て分かる。

しかし、着眼するべき点はそこではない、


「なぜに魔女っ子…」


そう、その子の姿はまさにファンタジーの中で出てくる衣装そのものであった。

魔女っ子がダンボールの中に。

何ともシュールな絵面である。


賢夜は内心は穏やかではなかったが頭を冷やして冷静になる。

突然現れた外国人、英語の成績は五段階評価で一番上の成績である。


普通の日本人であれば、うわっとなるところであるが賢夜はクールな対応をしようと箱に入った少女と目線を合わせるためにしゃがみこむ。


「what is your name ? 」

「何を言っているの? 」


各国の重鎮と会話するために覚えさせられた流暢な英語を見事に流暢な日本語で返された見夜は自分のしでかした哀れさに地に膝をつく。

少女も突然目の前にはいる男の奇怪な行動に疑問を抱いているようだ。


「帰ろう…」


悪い夢でも見ていたのだろう。

賢夜は今あった出来事は自身の妄想または幻覚と定義してその場から立ち去ろうとする。


しかし、不意に何かに引っ張られる感覚。

振り向くと、少女は賢夜の袖口を離さんと掴んでいる。

いくら引っ張っても離そうとしない。


「私を拾ってくれる? 」

「嫌だ」


月宮賢夜は冷徹な人間でもある。

可愛い女の子の頼みだが、明らかに面倒ごとがあります。

ですが私を貰ってくださいと言う人間に『はい、分かりました』という精神を見夜は持ち合わせていない。


「ふぇ…ひぐっ」

「ちょっ、泣くな! 分かった、取り敢えず拾うから泣くなよ」


というわけでもなかった。

所詮は男の子。

泣きそうになっている少女、ましてや泣かせた原因が自分にあるならば放って置けない。

更に言えば、ここは公園。

遊びに来ている親子の姿もちらほら見える。

そんな中で泣いてみろ、目の前にいる賢夜は冷たい視線を向けられ、赤の他人から悪者へと変わる。

そんな恐ろしい事態は否が応でも避けなければならないのだ。



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