プロローグ
原初の番外者は王への道に踏み入る
001
科学の進歩はついに限界を超えた。
そして生まれたのが魔法はたまた超能力とも言う。
それはあまりにも突発的な事であり、人類全てが驚愕した出来事であった。
政府は偶然が折り重なった結果による副産物と世界に報道した。
しかし、それは嘘。
とある一人の少年から提供されたDNAマップを量産し自身の体に取り入れることにより、人間に秘められた能力を開花させるというものであった。
政府は超能力の解析と人間に秘められた新たな可能性を進めるために、水上学園特区という最先端の研究を進めるための場所を設立した。
なぜ、学園という語彙が入ったのか。
それは超能力の平均年齢が12歳、すなわち学生であるからだ。
この人類が夢にまで思った超能力による問題点は一つ。
提供者と同じ、もしくはそれ以上に活発的な細胞を持たないと、超能力の適合者になれないからだ。
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3年前…
薄暗く、窓の一つもない唯一の光が部屋の四方に置かれたランプのみの部屋。
中央に置かれたソファに、一人の少年と二人の男が対面式に座っている。
周りには銃器を手にした兵士たちが部屋を囲むように立つ。
「さて、月宮賢夜くん。まずは君がこの部屋に招待された事に感謝しよう」
「笑わせるなよ、お前たちが俺を無理やり連れてきたんだろう。ご丁寧にうちの家族まで人質に取りやがってよ」
賢夜は不機嫌そうに目の前にいる男へ不満の声を口ずさむ。
足を組み、椅子かけに肘を置き再び椅子に深く腰掛ける。
その表情を見た辺りの兵士たちは一斉に見夜へ武器を構え、臨戦態勢に入るが焦りのこもった男の声で武器を再び下ろす。
「無抵抗の少年にいちいち武器を構えるなよ」
「そうも言えないだろう、確かに私たちは君へ強引な手段ったよ。そこは謝罪をしよう。しかし、こちらの被害を考慮すると異常なまでの警戒が必要なのだよ」
「それはお前らの自業自得だ」
男は手元にある一枚の紙を見る。そこには賢夜との戦闘においての被害が書かれていた。
戦闘機5機破損、戦車8機破損、死者65名、重傷者264名、軽傷者947名。
一人の少年と対峙したにはあまりにも大きすぎる被害が書かれていた。
男は何度もその資料を見返しながら頭に手を置き溜息をつく。
「君は一体何者だね。これはあまりにも異常だ。到底人間の所業の枠組みを超えている。実際に君と戦った兵士から聞くと……」
「怪物はたまた超能力者か? 」
男の声を遮り、見夜は己自身の存在を明らかにするかのように答える。
その言葉に辺りにいる全ての人物が見夜という人物に警戒を強める。
当然だろう、あまりにも大きすぎる損害を国家に与えた人物が目の前にいるのだから。
「私は未だ信じられないのだよ」
「なら、試してみるか? 」
部屋にいる兵士たちの足は震える。
武者震いではない、確固な恐怖からくる震えだ。
歴戦の猛者でさえ顔から冷や汗が止まらない程である。
それは、それほどまでに見夜という人物との戦いに恐怖を刻み込まれたと同義である生理的現象であった。
それに気づいた賢夜はフッとかすかに微笑みを顔に表す。
「冗談だよ、俺は正当防衛をしただけだ。お前たちが手を出さない限りは俺も一切手は出さない。とは言っても、うちの家族が囚われの身だがな」
「彼らは悪いようには扱っていないよ。なにせ各国の大統領と同じ待遇をしているのだから。総理大臣の私が保証する」
それを聞いた賢夜は信用はしないまでの気を少し緩める。
「君との対話が終われば、君自身で向かいに行ってくれて構わない」
「そうさせて貰うよ、それで何の話をするんだ? 」
冗談めいた質問に男は少しの苛立ちを込めながら答える。
「君は何者だ? その力は何だね」
「俺はれっきとした人間だよ。この力は生まれ持ってのものだな。なぜ使えると言われれば答えられない」
「うちの科学者は君の事を解剖をしてでも調べたいらしい。それに各国の上層部も衛星からの映像に釘付けだよ」
「それがどういう結果を生むかは言わずとも分かるだろう? 」
彼の問いに一切の躊躇なく男は肯定の意を表す。
その行為は賢夜という人物に再び地獄を見せられると同義であるからだ。
確かに賢夜という存在は未知の賜物だ。
未知の追求する研究者からすると、喉から手が出るほど欲しい被験体。
ただし、それを実行するにはあまりにもリスクが高すぎることも男は承知している。
しかし、それが分かっていても手放しきれないのがこの現状である。
「分かっている。しかし、それではこちらの者たちが納得しないのだよ。本当に総理大臣とは面倒な役職についたものだ」
「それじゃあ、どうするんだ? 」
「君のDNAを提供して貰いたい。髪の毛でも唾液でも構わない。無論タダとは言わんよ。君の望む事は私たちの叶えられる範囲で叶える」
総理大臣は深々と頭を下げる。
その行為の意味を理解できないほど、賢夜は愚かな思考をしてはいなかった。
総理大臣とはいわば国の長。
各国との問題において、自国にどれだけ非があろうとも簡単には頭を下げてはならないという存在。
もし頭を下げるとなると、それは国家の敗北を意味する。
「はぁ、分かったよ。あなたの期待にお応えしましょう」
「おお、ありがとう」
その見返りとして、見夜はある条件をつけた。
一つ、賢夜という人物の情報は厳守する。
二つ、肉親には決して実験に付き合わせない。
三つ、DNAの提供は年に一度。
四つ、月宮賢夜という人物は表では何の力もないただの一般人として扱う事。
五つ、以下の要件を満たす限りは、月宮賢「夜を国際連盟特務特務隊員として扱う事。
一つ目と四つ目は賢夜の存在を世間に知らしめないための条件である。
二つ目は言ってしまえば、見夜という人物に首輪をつけるための策だ。
肉親であるならば、賢夜という人物の謎を解き明かす大きな鍵として見られるのが当然。
しかし、そんな事は許さない。
肉親の絶対的安全を保障する代わりに彼を大人しくさせるという事だ。
三つ目は成長と共にDNA マップを解析して新たな研究に取り分けていくというもの。
五つ目は各国に対する保身材料である。
DNAの研究開発のために日本を中心として世界各国から多大なる支援金が提供される中で、日本だけが賢夜を独占する事になれば反感が出てくるだろう。
しかし現状、凍夜を他国へ差し出す気も日本にはない。
そういう訳で、どうする事も出来ない国際テロや大統領護衛の際は賢夜という一種の兵器を貸すという形で歯止めをかけたのだ。
「ふむ、こちらからしても申し分ない。正直に言うと君と敵対しないだけでも御の字だと思っていたからな」
総理大臣は先ほどの緊張感は嘘かの様に顔をニヤつかせる。
手と手を組み固く座っていた体制も崩れ、高級感のある椅子にもたれかかる。
「条件を縛っても、理解のない輩が絡んできそうだからな。それならある程度そちらにも有益な条件をつけた方がどちらからしても動きやすいだろう」
「確かに。子供なのによく分かってるじゃないか。まあ、下手に手を出せば首を締めるのは手を出してきた愚か者になるだろうがな、くっくく」
「あんた、さっきとは豹変しすぎだぞ」
「君と有効的になれたんだ。それに、DNAの提供は大きい。近い未来に世界を揺るがす革命が起きるだろうな」
上機嫌な総理大臣はテーブルの上に置かれた菓子を摘みながら、先ほどの対話で枯れきった喉を潤すため、冷やされたビールを口にする。
それはまるで仕事終わりの父親の如くだ。
「君のことは何と呼べば良いかな? 」
「好きに呼んでくれ」
「なら賢夜。飲むか? 美味いぞ」
総理大臣は氷で冷やされた箱の中からもう一つのビールを見夜にチラつかせる。
しかし、賢夜は未成年。
酒の味も知らない子供に酒を進めても何の魅力も感じない。
見夜は呆れた溜息をつく。
そして目の前にある豊富な種類の飲み物から、グラスビンに入っているミネラルウォーターを透き通ったグラスに注ぎ込む。
「お前さんは変わっているな。その歳なら普通はジュースを選ぶだろうに」
「俺は甘いものが苦手なんだよ。ジュースは砂糖をそのまま喉に流し込んでいるみたいで気持ちが悪い」
目の前に置いてある、市販のジュースを見定めながら凍夜は言う。
確かにジュースの中にはとてつもない量の砂糖が混ざっている。
賢夜の言ったことに間違いはない。
しかし、その答えは若干14歳が口ずさむにはあまりにもかけ離れた言葉だ。
「だから、出されたケーキにも一切手を付けなかったのか。捻くれてやがるな」
「こんな体に生まれてきたんだ。周りに知られない様に両親も苦労していたからな。その点はうちの両親がほんわかな性格の持ち主で良かったよ」
「そりゃそうだな」
確かに賢夜の様な怪奇的存在が自分の子供だとするならば、一度はゾッとする親も出てくるはずだ。直ぐにでも育児を放棄したいとも思うだろう。しかし、それを理解した上で見夜を育ててきた二人は天晴れだと言わざるおえない。
「まあ、良かったじゃないか。これで君の事を知りながら心置き無く話せる人物ができたのだからな」
「その話し相手が40を過ぎた歳のオッさんってのは問題だと思うんだがな」
そう言い、賢夜は何もない空間から自前の煎餅を取り出しガリッと噛み砕きながらバリバリと食べる。
いつも食べ慣れている物に出会えたのか、賢夜は切り詰めた状態から和やかな雰囲気へと変わった。
「おいおい、何したんだ? マジックか? 」
「これもまた一つの超能力だよ。4次元空間を作り、指定した物を出し入れ出来る」
「どっかのアニメキャラにいやがったな。便利な事この上ないな。羨ましいぞ」
総理大臣は見夜が出した煎餅を一つ貰い口の中に入れる。
ガギリッ
「ッてえな。固過ぎんだろ! 」
賢夜が出したのはネット上でも有名な激硬煎餅。
並大抵の顎では噛みくだく事は出来ない代物だ。
総理大臣はすぐさま口から激硬煎餅を出し、机の上に置く。
そして、口の開き閉じの運動をして自分の顎と歯が無事なことを確かめる。
「噛み応えがあって、美味いだろ? 」
「固過ぎんだよ! 歯が欠けるかと思ったぞ。甘いものが嫌いに加えて硬いものが好きと。いよいよ年齢詐欺だな」
「ほっとけ」