遂に再会!
しまった!
これは盲点だった。
数多いる仮面を被った令嬢達を呆然と見つめる。
なんで気づかなかったかなぁ。
ちょっと考えればわかりそうなものだろう。
私は無駄と思いつつ令嬢達を改めてみる。
そこで私は彼女達の共通点を見つけてしまった。
まず、着ているドレス。
派手でな印象が全くしない。
王城という場所だから華美になりすぎないよう調節しているのかとも思ったがそれにしては全体的に地味な感じがする。
…あ、今流行りのドレスを着てる子が一人もいない!
宝石をつけてる子もいない!!
さすがに貴金属は身につけているがルビーサファイアなどを身につけている令嬢はこれだけいて皆無!
地味を通り越して質素なのだ。
皆仮面を見て飾りたてる気を失った訳ではないだろう。
私は当日まで何を着ていくか決めてなくて直前でばたついたが普通は招待状を受け取ったその日にドレスを新調し、それに合わせてアクセサリーも職人に作らせる。
当日舞踏会に行く直前王家から仮面が届き今回の舞踏会が仮面舞踏会と知った彼らは元々用意していたドレスに仮面を合わせたに過ぎない。
つまり仮面があろうがなかろうが彼女達は地味なドレスを纏ってくる気だったのだ。
…理由がわからない。
そして、妙に黒髪率が高い。
私が王家から受け取った仮面には魔法の効果はなかった。
ならば、他の出席者に贈った仮面も同じだろう。
全員地毛の可能性は低い。
おそらく今日に合わせて敢えて染めたのだ。
私の金髪が悪目立ちしている。
一体なんだというのだろうか?
いや、考えてもわからないことを考えても仕方ない。
それよりアリスだ。
彼女をどうにかしてこの仮面集団から見分ける術を探さねば。
少し前の彼女ならちょっと時間が経てば勝手に失敗をしてボロを出すと静観していた。
しかし、テレサ様お墨付きの作法を身につけた彼女がそんなヘマをするだろうか。
…あのアリスならあり得るが、そうならない事も考えてなんとかアリスを探さねば。
それに殿下、リュド様、ザック様。
伝達魔法のピアスを持って来ればよかった!
仮面舞踏会だとわかっていたのに見分けがつかないとはつゆにも思わなかった私はそんなもの家に置いてきてしまっていた。
この三人は華やかだからすぐに見つかるだろうか。
…いや、全員仮面を被った今、彼らの華も掻き消えていた。
王家から贈られた仮面は多種多様。
私のように陶器で出来たカチリと顔全体にはめる飾り気のない仮面もあれば華やかにペイントされ宝石をはめ込んだ仮面もあるし、目元を隠すだけの眼鏡タイプの仮面もあれば、頭から被って髪の色さえわからなくする完全変装型のものもある。
規則性もなく王家だけが誰が誰だか見分けがつくようになっていた。
こっそり仮面を取り替えていたら話は別だが、王家より名指しで贈られた物をおいそれと他人と交換するバカはいないだろう。
また、今回は仮面舞踏会という体裁をとっている為、エスコートというものが存在しない。
仮面舞踏会は一夜のアバンチュールを楽しむ為のパーティーだ。
エスコート役がいては男も女も楽しめない。
故に仮面舞踏会ではエスコートはなく、まずは男性が先に入場、次に女性が入場する。
今はまさに一夜のお相手を探す為の時間。
普段の舞踏会よりも自由な会話が繰り広げられている。
「ねぇ、紫色のそこの貴女」
私の事かと振り向けば黒髪をポニーテールにした青いシンプルなドレスを身に付けた女性が声をかけてきた。
黒い眼鏡タイプの仮面で左側のみ蝶をモチーフにした羽飾りがついている。
「何か?」
「飲み物を持ってきてくださる?」
高慢た態度で私に言うが何故私に言う?
周りにはメイドと思しきやはり仮面を被った男女がそこかしこにいるではないか。
言っておくが誰が使用人かわからなかったという言い訳はさせない。
彼らは皆同じ使用人用の服を纏い、全く同じデザインの仮面をはめているのだから。
「…何故私に言いますの?他の使用人に言えば宜しくてよ?」
こんなやりとり普通の舞踏会ではあり得ない。
しかし、ここは仮面舞踏会。多少の無礼は許される…と、いうよりその無礼すら楽しむのだ。
「あら?ごめんあそばせ、貴女はこの舞踏会でやる気がないようでしたから、てっきり使用人かと思いましたわぁー」
「やる気がないとはどういうことですの?」
「あら貴女ご自身が派手な事に気付いていませんの?」
「と、いうより貴女は何故そんなに質素ですの?」
地味ではなくて質素と言ったのは嫌味である。
言われっぱなしは性に合わないのだ。
ぐっと彼女は言葉につまり…すぐに気を取り直して口を開く。
「あら貴女一体どれ程の田舎から来ましたの?
殿下の噂を知らない訳ではないでしょう?」
殿下の噂と聞いて頭をよぎるのはアリスの事しかない。
それがなんだというのか。
「殿下は現婚約者との婚約破棄を望んでおり、恋人である男爵令嬢を王妃にと推されているわ」
「それくらいは当然知ってますわ」
何せ当事者だ。
「しかしその恋人は爵位が低いご令嬢とのことで王家は認めていない。
そこにきてこの舞踏会。…ピンとこない?」
「殿下に爵位の釣り合うご令嬢をあてがう…?」
「そう!まさにそれですわ!」
彼女は我が意を得たりと人差し指をぴっと立てる。
「どうも収集した情報によると殿下の恋人が王家に相応しいか否かの判断にこの舞踏会を開いたらしいけれど王家はそもそも彼女を認める気がないようでこの舞踏会は殿下との集団お見合いの意味が強いわ。」
「それくらいはわかってるわ」
「なのにその格好はなに?」
そこでどうして私の格好に文句がでるのか?
「殿下がどうして男爵令嬢なんていう身分の低いご令嬢に惹かれたのかを考えれば自分がいかにやる気のない格好をしているかがわかるわよね?」
言われてようやく思い当たった。
彼女達は殿下に見初められたくてここにいる。
普通の殿方に見初められたいだけならば、華やかに着飾ればいい。
しかし、彼の好みはあの男爵令嬢。
彼好みに着飾るならば…そりゃ地味を通り越して質素にもなる。
髪が皆やたら黒いのもアリスの真似か。
それでも彼女達を見て美しいと感じるのは、高位貴族としての立ち振る舞いが身に染み付いていて、ドレスも髪飾りも地味だけど質がいいからに他ならない。
これは…背伸びしてお洒落をする、の逆か。
空高い場所にある星が手に入れようと背伸びするのも大変だが地下にめり込んだ小石に価値を見出し真似をするのも大変なのだ。
「殿下はアリス様の内面に惹かれたご様子。
そのような見掛け倒しに意味があるのでしょうか?」
「意味があるのかないのかはこれからわかるわ。今日は仮面で顔を隠しての舞踏会。
これで誰ともわからず惹かれたのならば、殿下は真に中身を見て恋人を愛しているということになりますし、もし誤って別のご令嬢をお選びになるようでしたら…」
「所詮はその程度、殿下は黒髪の質素な女性ならば誰でもよかったという証明に他ならない。」
「その通り。私はそうなると思っておりますの。
これだけのご令嬢がいてほぼ全員が黒髪でクラシカルなドレスに身を包んでおります。
外見は殿下の好みに合致しております。
後は会話をして殿下の好みにあう内面の持主となり得るかどうか…。」
「それが難しいのではなくて?」
「噂に聞くところによると礼儀作法に疎いとのこと。
そういうふうに演じてみれば案外騙せるのではなくて?」
「舞踏会でうまく騙せても舞踏会が終わった後にフラれますよ?」
「おほほほほ!私はそんな間抜けな事はしませんわ。」
「…と、いうと?」
「そういう行為はこの数多いるもしかしたら自分が選ばれるかもという夢を見た令嬢に任せるに限ります。」
「貴女はやらないの?」
「ええ、筋書きはこうです。
殿下は別のご令嬢に騙されるが舞踏会終了後気づく。
それが元で恋人と破局、現婚約者との不仲は有名なのでこの舞踏会終了後どさくさに紛れて破棄となる。
自分は外見で女を選んでいたのか、恋人を何故見つけられなかったのかと嘆く殿下、そして上手く騙した令嬢に対しては良い感情を抱くことなく不仲に終わる。
そこに私が登場です。」
え?
どうしてそこで彼女が登場するの?
「私が殿下をお慰めして、それがきっかけで殿下のお心を射止めるのです。」
「ごめんなさい、どうやって貴女がその状況で登場するのかわからない…」
「やあ!」
話に割って入ってきたどこかの令息。
正装に身を固め金髪はオールバックにしてあった。
仮面は顔全体を覆うタイプであり声もくぐもってしまい誰かはさっぱりわからない。
「麗しいレディ、よければウェルカムドリンクをどうぞ。」
ピンクのカクテルを私達に差し出してくる。
「ありがとうございます」
私はお礼を言って受け取った。
「ありがとうございます、わざわざお声をかけてくださりとても嬉しく思いますわ」
仮面でよくわからないが彼女は微笑んだのだろう。
「綺麗な蝶が楽しげに話していれば目にも止まるものさ。」
「まあ!お上手ですこと!」
頬に手をあて照れたような仕草をする。
…今まで話してきた雰囲気からこのような態度をするタイプには見えなかった。
豹変とも言っていいような気がした。
ん?豹変?
どこかで見たような…?
注意深く彼女を観察する。
「…へえ?地方から来たの?と、言うことは森を超えてきたのかい?
そんな細い体でよく無茶が出来たね?」
「まあ、細いなんて!私などまだまだです!」
恥ずかしげに彼女は言う。
口説かれ慣れてない…と言うわけでもなさそうだ。
その証拠に顔色はちっとも変わってない。
それに地方から…?
頭の中でパズルが組み立てられていく。
もしかして…この子!
森で出会ったお漏らし少女の姉にして私の予備でもある
ネクロスラーズ・アイノス嬢か!




