表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/106

ハイスペックにもほどがある

「つ、使えない!使えない筈!!」

誰もいない書庫で自分で自分に言い聞かせる。

使えたらいいなとは思うが、まあ、魔力がある人間は全人類の一割程度である。

さらにそこから魔法を極めモンスターを狩れるレベルとなると更に少なくなる。

英雄レベルなんて到達不能だ。

そして私は6歳の時に神殿で魔力検査を行い魔力無しと診断されていた。

故に英雄レベルどころか私にはゾンビ一体すら勝てない


筈だ。


だがしかし。


稀に、本当に本当に稀な話だが後天的に魔力が体内で発生し魔法が使える人がいる。


まさかとは思うが私がそれに当てはまるのではと思ってしまったのだ。

それはとても確率の低い話。

滑稽な話だが、あり得るのではと思ってしまう自分が嫌だ。

だって頭の中で英雄様が暴れているのだ。

その確率の低さを思えば後天的に魔力持ちになる事など普通にあり得そうだ。


調べるのは簡単だ。

神殿に行き再検査を受ければいいだけ。

表向きは無料だが、寄付金を積む事前提で話が進む。

特に金額は決まってないから手持ちの小銭でどうとでもなるだろう。

勿論、まさかね!っと決めつけて調べないという選択肢もある。

しかし、魔力は危険なものなのだ。

あるならあるでしっかりコントロールする術を身につけないと暴走させてしまう。

実際英雄様も小規模ながら暴走させていた。

大規模な暴走は己の体を蝕み死を招く。

さすがに自分の魔力で死にたくはない。

「………す、すぐに調べましょう!」

私はガタンと椅子を蹴り倒して立ち上がる。

まだ読んでいない指南書だけを手に取り後は放置。

メイドでもスチュワートでも司書でも誰かに片付けるよう命じておけばいいのだ。

私は足早に書庫を出る。

地下から一階に戻るとそこにはスチュワートがいた。

丁度呼ぼうと思っていたのだ!

「スチュワート!すぐに馬車の用意を!

神殿に出かけるわ!」

「今からですか?既に夜遅い時間ですが。」

言われて私は窓を見る。

いつの間にか太陽は沈んでいた。

「夕飯の準備も整っておりますが。」

「夕飯…」

私はお腹を無意識でさする。

今日、私は目覚めてからワインしか口にしていない。

それでいてあの阿保と話して記憶を精査して裏付けとってと大忙しだったのだ。

三日何も食べてないし、空腹を感じない訳でもない。

しかし、しかしである。

魔力の件が気になって仕方がないのだ。

空腹を押してでも調べたい。

と、いうか調べないと落ち着かない。

何が引き金になって暴走するかわからないのだから。

「いいえ!夕飯は後よ!まずは神殿へ行くわ!」

「畏まりました」

スチュワートは一礼するとすぐに準備に取り掛かる。

そこにメイドがやってきて着替えを促してくる。

部屋着で外出はあり得ない。

着替えは必須だ。

部屋に戻りお忍びということで地味な紺色のワンピースとつば広帽を被る。

それと鞄の中にお金もいれる。

幾ら支払うのが妥当か。

6歳の時お父様は幾ら支払ったのか。

いや、十年前も前の話では参考にもならないか。

とりあえず手持ちの現金全てをもっていく事にする。

編み上げのブーツを履き終わったところで馬車の準備が整ったと言われる。

私はすぐさま馬車に向かった。

黒馬二頭が引く贅沢なつくりの白銀の馬車だ。

いくら私の格好を地味にしても意味がないと思う。

まあ、仕方ない、これが我が家にある最低ランクの馬車なのだから。

私はスチュワートが差し出した手に自分の手を預けて馬車に乗り込む。

続いてスチュワートも付き添いで乗り込んだ。

そしてすぐに御者が馬車を動かし神殿に向かう。

「お嬢様、神殿には何用で。」

問われて私は口を開けて…すぐに噤む。

言うのが若干恥ずかしいからだ。

後天的な魔力持ちになる確率は非常に低い。

数万人に一人とも数十万人に一人とも言われている。

自分がそうかもしれないと言うのはいい年した大人であればあるほど恥ずかしいことだ。

お前、何夢見てんの?って感じである。

「貴方には関係ないわ」

従って私は相手を黙らせる。

「失礼致しました。しかし、先立って神殿に連絡をいれたところもてなしの準備もあるので用件を簡潔でもいいから教えて欲しいと言われておりまして。」

神殿側も私の事は悪い意味でよく知っている。

寄付らしい寄付などしたことない、神に仕える神官を馬鹿にして、さらには孤児院の子供達を毛嫌いしている私が行くのだ。

遠回しに来るなと言っているようなものである。

「神殿の貧相なもてなしなど不要と伝えなさい。」

「は。」

軽く頭を下げると彼は耳につけてるピアスに触れる。

触れた直後ほんのりと光が灯る。

マジックアイテム『メッセージ』だ。

マジックアイテムがあれば魔力無しの人間にも魔法が使える。

スチュワートの耳には伝達に特化した魔法が込められておりスチュワートの使いたい時に伝えたい相手の脳内に瞬時にメッセージを送ることができるのだ。

「お伝えしました。神官一同お待ちしているとのことです。」

「……お忍びなので、人数は少なくと伝えてください……」

そう絞り出すので精一杯だった。

できる限り私が魔力再検査を受けた事実を知る者を少なくしたい。

だって恥ずかしいから。

「しかし、以前お嬢様はお忍びで神殿に行かれた時迎えの者の人数が少ないとおっしゃり神官長様を罷免されましたが…」

言われて私は思い出す。

そういえば半年くらい前、例の男爵令嬢が神殿でボランティアをしているときき、私も王子の気を引きたくてお忍びで行った事があった。

その際、迎えの人数が10人以下で公爵家を馬鹿にしているのかと激怒して本来やるべきボランティアは一切せずに代わりに神官長をその場で罷免したのだ。

すっかり忘れていた。

「……ああ、そういえばそんな事もあったわね。」

平静を装い私は言う。

だから、神官一同お待ち申し上げるなどと彼らは言うのか。

ああ、過去に戻って自分の頭をひっぱたきに戻りたい。

しかし、そうもいかない。

「そういえば、新しい神官長とはまだ面識がなかったわね。」

「はい、その通りです。」

「ならば、神官長のみの迎えで構わないわ。」

「しかし、それでは公爵家として…」

「問題ないわ。私の決定に執事風情が口を挟まない。」

「申し訳ありませんでした。」

言って彼は再びメッセージを起動させる。

「はあ…」

私はため息をついた。

魔力再検査の結果魔力がなければ、寄付金を積み私がやった再検査の件と結果の口封じをすればいい。

問題は魔力があった時だ。

魔法が使えることは貴族の中では一種のステータスのようなもの。

扱いがワンランク上になる。

さらに保持する魔力量が多く、人々の役に立つような魔法が使えれば王族並みの扱いだって可能だ。

それは誰よりもチヤホヤと持て囃されたい私にとって願ったり叶ったりな話。

…と、言いたいが、それは昨日までの私だ。

生まれ変わった私は違う。

他人とは極力関わりたくないのだ。

「…あれ…?なんで…」

「お嬢様?」

私の呟きにスチュワートが反応するが無視する。

男爵令嬢達に関わりたくないと思ったのはまだわかる。

だって、阿保だしウザいから。

あの茶番は見ていてイライラする。

お兄様もそう。

あのオドオドした態度は弱い小動物のようで私をイラつかせる。

でも、なんで私は今、誰と特定しない他人全てと関わりたくないと思ったのだろうか。

やはり英雄様のせいだろうか。

ディレイク以外に心を開かなかった彼はもしかしなくても人嫌いなのだろう。

その影響で私も他人が自分に近づくのが嫌なのかもしれない。

…いや、何もかも英雄様のせいにするのはよくない。

私だって人のこと言えない。

人好きな性格ではなかったから。

それでもこの世の全ての人と関わりたくないと思うほど世捨て人ではなかったという事を鑑みるに私と彼の記憶が混じり変な化学反応でも起こして人嫌いが加速したのではなかろうか。

私はちらりと前に座り私を見つめる美丈夫を見る。

特に心配そうな顔はしていない。

表情に変化はないが面倒な事を口走るなよと言いたげな雰囲気を醸している。

彼は利用価値がある。

優秀な執事であり、彼に任せれば大抵の煩わしさからは解放される。

見た目もいいのでそばに置いておくのに相応しい存在だ。

昨日までの私はつまらないことにまで彼を呼びつけ命令し、少しでも気に入らなければ…いや、問題なく命令を遂行しても…気分次第で折檻していた。

鞭で彼の背中を打っても傷がつき背中から血が流れても彼はうめき声もあげないし、顔色も変えない。

それが気に入らないところであり、気に入っているところでもあった。

服で見えないだけで、彼の背中には無数の鞭の跡が刻まれている。

その傷を数えるのが私の日課だった。

まあ、つまりは彼は私のお気に入りのおもちゃだったのだ。

だが、そのおもちゃに興味が湧かない。

彼すら極力近づくなといった気持ちでいっぱいだ。

王子やお兄様と違ってうざくないのにそう思うのはかなり重症な気がする。

私はそっと彼から視線をはずし、窓の外へとうつす。

もう夜であり、外はよく見えない。

しかし、スチュワートを見続けるのも嫌なので何も写していない窓を見ることで時間を潰すことにしたのだ。

無言が馬車の中を支配する。

全くといっていいほど気にならない。

静かでいい。

このまま静かなら世界の果てまでいってもいいくらいだ。

しかし、意外に近くにある神殿に私達はあっさりと到着した。

私はスチュワートの手を取り馬車から降りる。

私をじっと見上げるスチュワート。

相変わらず何考えているのかわからない無表情ぶりである。

神殿の敷地に入ると空気が変わったような気がしたが多分気のせいだ。

なんとなく厳かな雰囲気に飲まれただけである。

門をくぐり小道を進むと神殿の大聖堂へと到達する。

巨大な扉は閉まっていたが私達が扉の前に立った瞬間音もなく開いていく。

勿論魔法だ。

なんという魔法かは忘れたが結構あちこちで見かける普通の魔法だ。

うちの書庫もこの魔法を導入すべきである。

ドアが開いて前を見ると一人の男が仁王立ちしていた。


赤い焔のような短めの髪に金色のナイフのように鋭い瞳。

漆黒の神官服を纏い、首から十字架を下げる若い男。


背が高く私を見下ろすようにして冷たい視線を注いでいた。

この場にこうやっている理由はただひとつ。

「お嬢様、こちらが新しくこの神殿に赴任してきた神官長様です。」

「お初にお目にかかります、リナリードナー・ミハルバーと申します。

以後お見知り置きを。」

私は淑女の礼をする。

スチュワートが一瞬、本当に一瞬だが驚くような気配を漏らした。

対する男は私に冷ややかな視線を送り続ける。

「ジョゼフだ。」

仮にも公爵令嬢である私に対する自己紹介にしてはいささか礼儀に欠けている。

私が淑女として正しい礼儀を見せたから特にそれが際立った。

いつもの私ならば怒りに身を任せて罷免しているところだ。

だが、そんな些事に構っている暇はない。

「スチュワート、席を外しなさい。」

「しかし、御用の際すぐに伺えませんと…」

「用は特にないわ。馬車に戻ってなさい。」

「…は」

少し躊躇うも彼は一礼し、ちらりと神官長を見ると踵を返して馬車へと戻る。

ドアをくぐり、自動でドアが閉まるまでその背を見送ると私は神官長に向き直った。

冷ややかな視線は相変わらずだ。

「執事様の目の届かないところで何をする気ですか?」

軽薄そうな笑みを彼は浮かべる。

笑っているのに目は笑っていない。

目の前の人間を心底軽蔑している目だった。

私は鞄の中にはいっている皮袋を開ける。

中から一枚の硬貨を取り出した。

それを目にした途端彼の笑顔が固まった。

「寄付金です。お納めください。」

言って彼の手に触れ彼の手の中に硬貨を握り込ませる。

彼は驚いた顔をそのままにゆっくりと手を開き硬貨を確かめる。

「…白金硬貨…」

上から二番目に価値のある硬貨だ。

これ一枚でちょっとした商店街を丸ごと買い占める事ができるだろう。

「…貴女とは仲良くできそうですね。」

私を軽蔑していた瞳は少しだけ私を受け入れる気になったようだ。

しかし、予想通り金で態度が軟化した。

元々、神殿関係者は金に弱いところがある。

神官はあらゆる娯楽を捨て欲望を殺すことが求められるが、元をただせばただの人である彼らにそこまでの事は出来ない。

神殿を運営するのは国民からの善意の寄付金から成り立っている。

その寄付金の一部…いや大部分が神官の懐に収まることなど知らないのは平民のみだ。

そんな腐りきった彼らが未だ国の庇護を受け一定の勢力を保持しているのは、やはり神への祈りの場、孤児院の運営母体、冠婚葬祭に必要不可欠ということ、何より魔法を使った治療が出来るという点がある。

魔法の治癒は絶大な効果がある。

瀕死の重体でも『神の癒し』とかいう魔法を使えば一瞬で健康体になるのだから。

王家だって貴族だって無下には出来ない存在であり、寄付金の名目で媚を売るのが常であった。

しかし、私は寄付金など彼らに送った事などないし、媚を売るどころか前神官長を罷免したのだ。

神殿関係者は蛇蝎のごとく私を嫌っているし、神殿の重要性を理解していない阿保な女と軽蔑しているのだ。

そして、この新しくきた神官長も例に漏れず金に弱い質だったというわけだ。

前の神官長より金に弱いかもしれない。

着ている神官服、よく見るとかなり上質な布で出来てる上に手縫いだ。

彼の為に作り上げた特注品だろう。

首から下げてる十字架もそこらの神官がぶら下げてるシルバー製品じゃない。

ミスリルだ。しかも中央に埋まってる赤い石はどう見てもルビー。

1カラットはあるルビーが他の神官とは違うと己を誇示していた。

その十字架ひとつでちょっとした邸宅が買える。

「…本当、私もそう思いますわ。」

私はにこやかに微笑む。

「まさか、貴女が溺れた際、神殿が治癒を拒んだから反省して寄付金をお持ちになられたんですか。」

「それ、初耳なんですけど?」

私は目を細くする。

へえ、公爵令嬢が溺れて意識不明の重体だっていうのに治癒をしなかったんだ。

へーーーーー。

「お聞きになっていらっしゃったのでは?」

「そこまで暇人ではありません。」

悠然と言い放つ。

お前らのような小物に興味はないのだと態度でわからせる。

「でしたらこちらの寄付金はどのような意味合いが?」

「口封じ」

「!」

初めて彼の顔色が変わった。

「そ、それは…」

ごくりと彼は生唾を飲み込む。

「暗殺の依頼ということで…?」

…………やるのか、こいつら。

金さえ積めば人をも殺すのか。

神殿関係に一度ガサ入れした方がいいんじゃなかろうか。

「………そうではなくて、これから話す事は他言無用でお願いしますと言いたかったのです…」

「ああ…」

あからさまにほっとした顔をする。

その態度から察するに普段から請け負ってる訳ではなさそうだ。

よかった、よくある依頼です、とか言われなくて。

「で、どのような事なのでしょうか?」

言われて私は口ごもる。

言わなくてはいけないのは重々承知している。

だが、羞恥心は消えてくれない。

彼は黙っていてくれるだろうか?

金さえ積めば黙っていてくれるという保証は何もない。

本当は金以外にも弱みのひとつも握っておくのがベストだ。

しかし、なにぶん万が一を考えるとのんびりとは出来ない。

とりあえずは充分な金を握らせ目を眩ませている間に弱みを握ることにしよう。

「ここは防音はどの程度?」

「陛下の寝室並とお答えいたしましょう。」

「ならば安全ね。」

ここで彼以外に話を聞くものがいて外に漏れたら意味がない。

しかし、その心配はなさそうだ。

私は意を決して彼を見据えた。

彼の瞳が僅かに揺らぐ。

「……………さ………たいの……」

「すみません。よく聞こえませんでした。」

私も何言ってるのかわからなかった。

覚悟を決めたんだけど口が動かなかったんです。

私は深呼吸する。

よし、言うぞ。

「魔力再検査をしに来たの。」

「はあ?」

心底馬鹿にしたような声があがった。

「文句あるならお金返して。」

「貴女大貴族の割に言うことがケチくさいですよ。」

「貴方こそたかが神官長の癖に礼儀がなってないわ。」

「…」

「…」

「ふふふ…」

「ははは…」

お互い同時に吹き出した。

かつて私に対してここまで無礼を働いた人間がいただろうか?

それだけではなくケチとな。

昨日までの私なら無事では済ませなかった。

だけど今の私は笑って許す余裕がある。

彼が何故笑ったのかは不明だが。

「魔力検査ですね。ならば水晶を使います。

どうぞこちらへ。」

彼が大聖堂の奥へと案内する。

吹き抜けの大聖堂には魔法の明かりが無数に灯っており幻想的とも言える。

私を祭壇へと案内すると、彼は奥から水晶を取り出した。

人の頭くらいある大きな水晶だ。

透明で私の顔が映る。

その水晶が小さなクッションの上に置かれた。

「昔やられた事を覚えてますか?」

「確か手をかざしてそれに合わせて水晶の色が変化する…んだったかしら?」

「その通りです。

赤く変化すれば焔の属性、青く変化すれば氷の属性、緑に変化すれば大地の属性、白く濁れば嵐の属性。

黒く変化すれば闇の属性、金色に輝けば光の属性となります。」

「稀に複数属性を宿す人もいるのよね?」

「そういう人は二色、三色と色が複数見えます。」

「成る程。もう、出来るの?」

「どうぞ、いつでも。」

私は意を決して水晶に手をかざした。

どうか何も起こりませんように…。

もし、何も起こらなかったら寄付金弾むから神様お願い!!

しかし、やはり普段から信じていないからだろうか。

私は神のせせら嗤いを聞いた気がした。

「こ、これは!?」

ジョゼフが叫ぶ。

私も驚いたけど、やっぱりなって感じがするので表面上は平静を保てた。


英雄様、貴方は私に何をしたのですか?


神々しく輝く水晶。

色は七色、虹と同じ。

さらには時折見える二つの影。

私は二つともそれが何かよーーーく知ってる。

「神官長?」

「な、なんですか!?」

上ずった声を上げて答えてくる。

「この二つの影はなんですかね?」

「そ、それは加護でしょう。」

「加護?」

「はい、一般的には精霊の加護が…稀に神の加護が与えられます。」

「よくあるの?」

「まさか!精霊の加護は数百人に一人、神の加護は王国ではランバルト殿下お一人です!」

え?

あの阿保加護持ちなの。

初めて知った…いや、昔なんかちらっと聞いたような…?

いや、そんな重たい話を聞いて忘れるはずもない。

きっと初めて聞いたのだろう。

「じゃあ、私のアレは?」

「さ、さあ…正直正体不明です。どんな効果があるのかもわかりません。」

「そうですか。」

私は頷いた。

神官長がわからないなら、この二つの影の正体は生涯誰にも知られることなく終わるだろう。

「これは国をあげて調べる必要が!」

「するな!」

即座に止めた。

あまりの剣幕にジョゼフはぽかんとする。

「いや、しかし新たなる加護は報告の義務が。」

私はそっと鞄に手をやり硬貨を一枚取り出す。

「いえ、私は何も見てませんとも。ええ、目の錯覚です。」

「そうそう。」

私はにこやかに微笑んで彼に硬貨を渡す。

ニンマリと悪どい笑顔をする神官長。

「それと、魔力持ちの人間はやはり国への報告義務があるのですが…」

ちらっと私を伺う。

ここで私は考える。

果たしてここで口を塞げば永遠に私が魔力持ちとバレないのか。

それは甚だ疑問である。

うっかり口を滑らせそうだ。

それに口を塞ぐことでコントロールする術を奪われるのは恥を忍んだ意味がない。

「魔力ってのは属性によってコントロールが違うの?」

「そうですね…多少の違いはありますが、基本は同じです。」

「暴走さえ防げればいいのだけど。」

「なら、全部同じと考えてよいかと。」

「ならば、国には適当な属性ひとつが発生したと報告しましょう。」

「…ほう?」

「暴走の防ぎ方を学ぶ機会を奪われては堪りませんからね。」

「もったいない…」

「何か?」

「これは世界に誇れる最高の魔力。

あの天才と言われるリュドガリオン侯爵子息でさえニ属性の精霊加護レベル。

貴女に比べればあれは凡人です。」

リュドのことか。

「でもあれは看破の瞳があるじゃない。」

「あれは精霊の加護ですよ。」

「へえ?」

魔法など使えなければ表面的な事しか知らないで終わる。

だから彼の瞳が加護故というのは初耳だった。

加護って凄いじゃん。

じゃあ、私はどうなる…?

明らかに精霊の加護を超えた….気持ち的には神の加護すら超えた二つの加護を持った私はどうなるのか。

…うん、考えるのは放棄!

使う予定はないのだから気にしない!

「私には不要な力です。」

「そうですか?その力があれば王家すらひれ伏しますよ?

全てが貴女の思うままに事が運びますよ?」

「何故そんなに私に力をふるえと言うのかしら?」

胡乱な目で私は神官長を見る。

「簡単ですよ。」

しかし、彼は私の目つきに怯えるでもなく肩を竦めた。

「私、実は帝国人でして。」

「へえ?」

帝国人?

どうやって外国人が神官長なんて立場まで登りつめた?

「訳あって国には戻れないんですけど、やっぱり戻りたいんですよ。」

「ふーーーん。」

なんか聞くのやだな。

私は興味ありませんアピールをする。

しかし、彼は気にせず話を続ける。

「貴女がちょこーーーっと協力してくれたらもしかしたら帰れるかなって思ったんですよ。」

それはそれは悪どい笑みを浮かべた。

お国に帰れないってつまりはこいつ帝国貴族かなんかでお家騒動で負けて王国に亡命した口だな。

私は彼を改めてジロジロと見る。

男前な顔立ちは貴族そのものの整い方をしているし、服飾品も贅沢なもの。

そこそこ有力貴族だったんだろうと思えるがお家騒動の敗者なんて興味ない。

私は面倒くさげにシッシと手を振る。

「協力してなんのメリットがあるの?

そんな事より口を硬く塞いでくれてれば定期的に寄付金を弾むわ。

それでおとなしく我慢してなさい。」

「………そうですか……それは残念。」

わかってくれればそれでいい。

でも、表情が諦めてないな。

「……で、どの属性を報告します?」

「そうね…っていうか、七色あるのよね?

私が聞いたのは全部で6色。1色多くない?」

「あ!」

「今頃気づいた!?」

「いえ、まさか!しかし、未発見の属性までもお持ちで!?」

言われて私はその場で踞る。

なんだ、それ?

二つの加護でもいっぱいいっぱいなのに、全属性持ってるだけでも嫌なのに、そのうえ未発見の属性だと!?

認めたくないけど認めるしかない。




私、スペックだけなら英雄様を軽く超えてる。



「もう嫌だ…!」

私はさめざめと泣きだした。

もう勘弁してくれ。

今後は寄付金弾むからさ。

なんなら日曜日にはちゃんと礼拝するよ。

いっそ孤児院でも建てるか?

ああ、男爵令嬢とも仲良くやってみせるよ。

だからさ。




もう許して!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ