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狂戦士死す

え?

うち?

今まで私は自分の家の成り立ちを見てたの?


今の今までどこか遠い知らない国のお話だと思って見てたのにいっきに他人事でなくなった!


私は慌てる。

慌てたからといって何が変わるわけではないが慌てたくなるのだ。


あ、そういえば歴史の授業で三百年くらい前に帝国が邪竜に襲われたって聞いたな。

その時のドラゴンを退治したのがご先祖様って聞いて鼻高々だった…。

隣国って帝国かよ!

そして鼻高々な場合じゃない!

私、大量殺人犯の子孫!


洒落にならない!

幸いなのが今の今まで我がミハルバー家は英雄の家系というのが一般常識として根付いていること。

よくないけどよかった!

大量殺人犯の子孫として後ろ指指される生き方はしたくない。


いや、落ち着こう。

これが真実だなんて誰が決めた。

そう、これは溺れた拍子に頭を打っておかしくなっただけに違いない!

それも嫌だけど…。


とにかく落ち着いて先を見よう。

まだ狂戦士は生きているのだ。

どうかもう何もやらかしませんように。


祈るような気持ちで続きを見る。


狂戦士は結婚後暫くはおとなしくしていた。

前は貴族の生活から逃げた癖に今回はきちんと腰を落ち着けようと努力し領地も頑張って経営しようとしていた。

このまま普通の貴族となるのかと思えた。

しかし、そう上手くはいかない。

狂戦士はモンスターを倒すという才能には恵まれていたが領地経営の手腕は全くなかった。

最初は奥さんになった王女様も優しく見守っていたが、税収が右肩下がりで落ち込めばそうもいかない。

二人の関係は確実に悪い方向へと流れていった。

王女様は特別贅沢が好きなわけではなかった。

寧ろ王家出身のわりに質素であった。

だけど、半裸で食べ物求めて盗みを働く最底辺の暮らしを強いられた経験者から見れば王女様はとんでもなく贅沢で金のかかる女だった。

ドレスを新調するたびに髪飾りを新しくするたびにそれは幾らするだの本当に必要なのかなどぐちぐちと聞く狂戦士。

好きなものを満足いくまで買えるのが当たり前な生活していた王女様にとってそれは耐え難い苦痛だった。

まして税収が下がりお金を気にしなくてはならない生活は王女様には無理だった。

また、狂戦士も慣れない領地経営、強いられる貴族の暮らし。

前は底辺貴族だったから許された多少の作法違反も許されない生活。

最初は社交界で持て囃された狂戦士だけれど次第に剥がれる化けの皮。

王女様との仲が悪くなればそれも嘲笑の的となる。

そんな生活に嫌気がさして冒険者に復帰するのは当然といえよう。


そして再開する無双。

聞こえる絶叫に『王女死ねぇぇ!』とか『クソムカつくんだよ!あの侯爵!!』とか『城ごと燃やすぞ糞野郎ども!』とか言ってる。

モンスターで憂さ晴らしだ。

前回より不健康である。

そんななか


彼の家にやって来た男がいた。


狂戦士の記憶にない貴族のようで目を見張るほどに美しい人だった。

ランバルトなど相手にならない。

霞むどころか比べるのも失礼だ。

まさに神の作り上げた芸術作品、いや、神そのものだ。

青い髪も銀色の瞳も全てが完成された作りだった。


彼はディレイクと名乗る。

帝国で領地経営専門の指南をする仕事をしていたが風の噂で英雄が困っているとききやってきたと。

なんとも嘘くさい話である。

そんな仕事きいたこともないし、なんで帝国人が王国人を助けるのか。

それもたいしたお金もとらない模様。

綺麗な男だけどあまり良くないタイプだ。

こんかあからさまに怪しい奴を迎えたりはしないだろうと思っていたが二人はあっさりと彼を受け入れた。

王女様はその美しい男に人妻でありながら一目で恋に落ち、狂戦士はその男が中々の使い手と看破した為。

ディレイクは自分からは一言も言わなかったが魔法使い、それも狂戦士の見立てでは相当な使い手とのこと。

一度戦ってみたいと狂戦士が言うほどに。


そんな怪しいディレイクだけど、領地経営指南というのはあながち嘘ではなかったようで、地味に税収があがってくる。

その過程でディレイクと狂戦士は意気投合する。

肩を組み笑いながら酒を飲み交わす様に私は度肝を抜かれた。

かつて彼は冒険者をしていた。

その過程で数多の人々と知り合っていた。

彼の記憶に名前も残る者もいる。

それなりに彼はコミュニティを作り生きていた。

しかし、それでもここまで打ち解けた人はいなかった。

ディレイクはその作り物めいた顔立ちとは裏腹に表情をよく変える…喜怒哀楽の激しい人物だった。

狂戦士にも遠慮せずに言いたい事をポンポン言うし、狂戦士も言われて終わる性格ではないから言い返す。

時々魔法の応酬となるがそれすら意に返さないふてぶてしさが彼にはあった。

だからだろうか、狂戦士は初めて心を開いたのだ。

冒険者の仲間にも妻である王女にも開かなかった硬い心をディレイクは開いた。

そして、二人は親友となる。

夜通し語り合う様はなんとも微笑ましかった。

それがよかったのか、税収があがったのがよかったのか、王女様と狂戦士との仲も少しずつよくなる。

ディレイクがうまい具合に間を取り持ったのだ。

そして、王女様懐妊。

過去にはとても成し得なかったであろう薔薇色の未来が広がっていた。


そんなある日、悪阻で具合の悪い王女様の為に狂戦士はディレイクと領地の外へと薬草を採りに行くことにする。

王女様はとても喜びお弁当も作ってくれた。

そして、家を出て森を行く。

森の奥深くによく効く薬草があるのだ。

簡単に見つけ薬草を採取する二人。

ひとしきり採取が終わった後、弁当を二人で食べる。

食べ終わり、せっかくきたのだからもう少し薬草を採ろうと言うことになる。

薬草以外にもモンスターのレア素材など手に入れば臨時収入としてかなり美味しい。

ディレイクがさっさと一人で森の奥深くへと進んでいく。

普通なら一人でなんて行かせないが、ディレイクは狂戦士と魔法の応酬を繰り広げる猛者である。

さくっと一人で行ってしまい、狂戦士も気にとめない。

彼の方が食べるのが遅く、しかし急ぐ必要もないとまったりと王女様お手製弁当を堪能していると、急に具合が悪くなった。

それは本当に突然であった。

体全身が痺れて動かなくなってしまったのだ。

狂戦士が内心慌てる。

こんなふうに体調を崩したことはなかった。

座っていることさえできずに倒れこむ狂戦士。

癒しの魔法を使おうと呪文を唱えるも何故か効かない。

そうこうしているうちに呪文さえ唱えることが出来なくなってしまう。

喉が焼けるように痛く、唇が痺れて動かなくなったのだ。

(ディ、ディレイク…!)

狂戦士が心の中で友に助けを求めた。

それに応えるように彼が姿を現した。

(助けてくれ…!)

しかし、ディレイクは動かない。

ディレイクの表情がなかった。

(ディレイク?)

漸くおかしいと気づく。

いつもはコロコロ変わる綺麗な顔が人形のように動かないでいる。

(な、何が…)

狂戦士が戸惑う。

ディレイクがすっと指を指す。

指した先には王女様お手製のお弁当。

「毒が入っていたのですよ。」

冷たい冷たい氷のような声がする。

(な、なんだと…?)

「馬鹿な女だ。」

ディレイクは吐き捨てるように言う。

そしてすっと横に体をずらした。

そうすることで見えた彼の後ろにいたモンスター。

(ゾ、ゾンビ?)

それは動く死体と言われる最弱モンスターだ。

大量発生すると厄介だが、一体一体の力は弱く別に冒険者でなくても倒そうも思えば倒せる存在。

それが一体だけいた。

「やれ。」

冷たいディレイクの声がゾンビを操る。

ゾンビはゆっくりゆっくり狂戦士に近く。

本来ならば敵でもなんでもないゾンビ。

しかし、体は痺れて動かず、呪文も封じられた狂戦士には充分脅威だった。

ゆっくり近くゾンビ。

やがて彼の目の前に辿りつきそっと手をかけ…




ドラゴンさえも追い払う最強の冒険者は森の奥深くで誰にも気付かれず最弱のモンスターに殺されたのだった。





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