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狂ってる!

もう一人の誰かの記憶は最初寒々しかった。

裸足で下着のような格好で歩いていた。

信じられないが特別不幸とは思ってなかった。

何故なら物心ついた頃からそうだったから。

食べ物も服も住むところもない最底辺の暮らしをしていたようだ。


しかし、転機は訪れる。


盗みに入った先の貴族家で囚われた誰かさんは暴れた挙句、魔力を小規模ながら暴走させてしまう。


魔力持ちだったのか。


私はへぇと思う。

魔力があれば魔法が使える。

魔法使いは数が少なく需要が大きい。

暴走させる程の魔力があればかなり大掛かりな魔法が使えるはず。

そうなればきっと生活は大きく変わるだろう。


実際変わった。

なんと盗みに入った貴族家の養子になったのだ。

そしてその家で貴族に馴染む努力をする。

どうも学園にも通ったようだ。


私の目から見てその貴族は限りなく平民に近い下級貴族のように思えた。

だからか、どうもあの男爵令嬢が言うような愛情というものを注いでいたように思える。

誰かさんを拾ったのも魔法使いは道具になるという打算からではなく純粋な親切心からのようだった。


しかし、どんなに努力しても教育を受けても着飾っても身についた薄汚さは隠しきれない。

誰かさんは悩んだ。

このままでは貴族に迷惑をかけるのではないだろうかと。

それに、貴族の生活は誰かさんにとって少し窮屈でもあった。


だから。

誰かさんはある日誰にも何も告げず貴族家から出た。


そして、冒険者となる。


「冒険者?」

私は小首を傾げた。

そういう職業があることは知ってるが一体どのような事をするかまでは知らなかったからだ。

だが、記憶を読み進めるうちにわかってくる。


冒険者とは即ちモンスター専用の傭兵だ。


私はモンスターとは無縁の安全な場所で暮らしているが一度市井に降りればモンスターが現れる事も多々あるという。

街や国の外に出れば魑魅魍魎が跋扈する人の世界とは全く違う妖しの世界が広がっていると聞いたこともある。

それらを専門に退治する圧倒的な強さを持つ者が冒険者。

彼らはモンスターを狩る事で人の生活に安全を齎し、またモンスターの体から取れる貴重な素材を供給する存在なのだ。


成る程、家出同然で貴族家から出たのだ。

魔法を使う普通の職業になどはつけない。

となると出来る仕事は限られてくる。

どうやら冒険者は腕がよければ儲かる仕事らしくまた、なり手のバックボーンを気にしない集団のようだ。

だからもう一人の誰かさんは簡単に冒険者へと鞍替え出来た。




そして伝説が始まる。




いやいやいやいや!!!!

私は思わず頭を掻きむしった。



おかしい!おかしすぎる!!

なにこの人、無双してんの!?

え?魔法ってこんな強力なの!?

学園でも魔法の授業はあるし攻撃系もやるよ?

でも先生だってこんな威力出してなかったよ!?


この記憶にあるモンスター…ゴブリンとか言う奴!

小柄の女性程度の大きさで貧相ながら武器を持つ集団生活を営むモンスター。

…そ、れ、が。

三秒で全滅っておかしいから!!!


人より遥かに大きいオーガ!

やっぱり三秒で殺してる!!


しかも気づいたらこの人剣持ってる!!

知らないうちに剣技を身につけたった一人でモンスターの群れに突っ込み魔法と剣でモンスターをなぎ倒してる!!!


記憶の端々に出てくる知り合いと思しき同僚冒険者?

彼らはよーーーく見ると魔法使いは魔法しか使わないし、剣は戦士しか使ってない!

なーのーに、この人両方使ってる!!


そして何より記憶を掘り起こせば聞こえてくる音声。

全部笑い声なんですけど!?


たまーに、なんか喋ってると思えば『たのしーーー!』とか『ストレス解消!!』とか『ひゃっはーーー!』とか意味不明な言語の数々。


この人、頭おかしい!!

所謂狂戦士だ!


なんでこんな人の記憶が私の頭にあるの!?

私は理解不能過ぎてソファに横になる。

いーじゃん、疲れたんだよ。

頭の中で狂った戦士が雄叫びあげてモンスター狩ってるんだぜ?

あまりの出来事にこれに比べりゃ男爵令嬢と仲良くさえも簡単だと思えてきたわ。

やけっぱちとも言える。


それでも私は身を起こす。

泣き言を言ってる場合じゃない。

もっと見るんだ。

頑張れ私。


自分で自分を鼓舞しつつさらに記憶を辿る。


狂戦士はそれはそれは楽しげにモンスターを狩っていた。

まさに圧倒的な強さである。


そんなある日かつて世話になった貴族の領地で最強のモンスターとも言うべきドラゴンが現れたのだ。


「ドラゴン!」

物語でしか知らないドラゴンが鮮明な記憶として存在する事に驚く。

その大きさは多分お城より大きい。

そんなドラゴンが優雅に空を舞っているのだ。

貴族は自分の領地がドラゴンに蹂躙されることを恐れ冒険者達を呼び寄せた。

そこで再会を果たす狂戦士と貴族。


貴族は迷わず狂戦士のお尻をペンペンした。


「ええ〜?」

ありえなーい。

まさに最強とも言うべき狂戦士がなよっちい貴族にお尻ペンペンって…

『今までどこほっつき歩いてたの!』

『心配したんだぞ!』

『ご、ごめんなさーい!』

ってなんだこのやり取り。

そういえば昔男爵令嬢が親が子供を心配するのはあたりまえって言っていたような気がするが、どうやらそれにあたる一幕の模様。


呆れつつも見ていると、狂戦士はドラゴンを退治しに行く事になった。

まあ、当然だな、そのために来たんだし。

事前情報によるとこのドラゴンここに現れる前に隣国で散々猛威を振るった悪いドラゴンのよう。

なんか国が半壊したんだって。こわっ!

そんなドラゴンに貴族は国に助けを求めた。

自分が呼んだ冒険者達だけでは足りないと思い国が所有するモンスター退治専門軍隊、魔軍の派遣を要請したのだ。

こうして、王様率いる魔軍一万と狂戦士含む貴族が呼んだ冒険者達数名vs悪いドラゴンの戦闘が開始した。


「ん?」

まて。

私は記憶にまったをかける。

なんで王様が軍を率いてる?

普通、お城でおとなしくしてないか?

何か、この王様も頭がおかしいのか?

まあ、理由はわからないがひとまず置いておき先を見よう。


戦闘は熾烈を極めた。

と、いうか圧倒的にドラゴン優勢で進む。

魔軍は数分で壊滅した。

その壊滅する瞬間危うく死にかけた王様をテレポートの魔法らしきもので救いだし安全な場所に運ぶという大業を狂戦士は成し遂げる。

その様はとてもカッコよくまさに英雄といえる絵姿といえよう。

王様すごくキラキラした目で狂戦士見てるよ!

騙されちゃダメ、この人、ダメな人だから!!

それにしても魔軍弱い。

所詮訓練しかしない貴族で成り立つ軍人と毎日死と隣り合わせの冒険者では質が違うということか。

その冒険者の中でも圧倒的な強さを誇る狂戦士。

遂に狂戦士vsドラゴンとなる。

王様が安全な場所から見てるなか、大魔法炸裂!

炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂炸裂!!


おい、そこには軍人さんやら仲間の冒険者達がいるんだぞ?

思いっきり巻き込んで大魔法を炸裂させるな!

絶対ドラゴンが出した死者数よりこいつの魔法で死んだ人の方が多い!!!


ドラゴンも負けじとやり返す!

やられたら倍返しと言わんばかりにやり返す!!

ドラゴンも…狂戦士も…!

マジギレで周りへの被害ガン無視で戦った。


結果。


領地が焦土と化しました。



え?

まて!待って!!


私は慌ててドラゴン退治前まで遡りもう一度今度はゆっくり丁寧に隅々まで見る。

そして最後の焦土の場面。


ああ、どうしよう。

隅から隅まで見たけれど、領民が避難しているくだりがない。


私は両手で顔を覆った。

いくら名ばかり貴族といえども領地があれば人がいる。

たとえどんなに小さい…それこそ切れ端みたいな領地でも千人単位で人がいたはずだ。

それをこの狂戦士は特に気にするふうでもなく領民ごと焦土に変えやがった!!

「やだ、信じられない…!」

信じてもいない神に思わず祈った。

しかし、やはり神はいないのか、遂に狂戦士はドラゴンを瀕死の状態にまで追い詰めた。

そしてあと一歩で殺せるといったところでドラゴンは最後の力を振り絞り空へと舞い上がり逃亡する。

狂戦士も飛べるがドラゴンには追いつけない。

その程度には傷ついていたのだ…。

こうしてドラゴン退治はドラゴン逃亡により幕を降ろしたのだった。



ドラゴンを追い払ったその後。

狂戦士は英雄として讃えられた。

いや、大量殺人犯だろって思うんだけど、隣国は国全体が半壊したのに対してこちらは端っこで押しとどめたのだから、充分英雄ってことらしい。

さらには身をていして王様を守ったという事実。

これらを鑑みて狂戦士はなんと王女様を娶ることになった!!

それに合わせて領地を与えられる。

与えられた領地は王都近くの王族直轄地の一部。

王女様の嫁ぎ先としての見栄えのよさを重視した結果だろう。

そして、狂戦士は王女様との婚姻を経て公爵位を授与されミハルバーの名字を王より直々に賜ったのだった。






え?





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