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「こんな感じです。あとで多田くんに本格的なカメラでも借りないと、キズは撮せません」
ボクは、何事もなかったように美術室に戻り、永田先輩と芳美先輩にスマホの写真を見せていた。ちなみに多田くんは、写真部なのになぜか美術部に入り浸る、謎多きクラスメイトだ。
「だめだめだねこれじゃ。そうだ、盆蔵。あとで、授業の合間にでも内側から撮してきてよ」
それは無理です。携帯電話全般を放課後まで取り上げられているんだから。「永田先輩だって同じなんだから分かるでしょう」なんて、言える訳はないけれど。でも待てよ。情報処理研究部の友達に頼むのは、ありかもしれない。
「なんなら、お父さんから貰ってこようか?」
芳美先輩だ。
「どうして芳美先輩のお父さんからキズの写真が?」
「あ、そこまで気になってるわけじゃないからいい」
質問を遮られてしまった。芳美先輩の方も本気ではなかったみたいで、「わかった」と、あっさり引き下がる。
「芳美先輩のお父さんって、カメラマンなんですか?」
他のことなら兎も角、芳美先輩についての情報は一つでも多く知りたい。ボクは、なおも食い下がる。
「はいはい、雑談は終わり。絵を描くわよ、絵を」
「それもそうだね」
無念。芳美先輩はもう、キャンバスに向かってしまった。
こうなったら、矛先を変えよう。
「じゃあ、せめて、さっき聴いた転校生についてなんですけど」
「だから、商業科には――」
「転校生以外で心当たりは?」
ボクの声に反応して、永田先輩の眠たげな目が鈍く光った気がする。
「珍しく強く出たわね」
「どうしても、正体を知りたいんです」
「どんな娘?」
ボクは、朝、具にとらえた謎の先輩の容姿を伝えた。伝えながら、まるで目の前で彼女を観察しているような錯覚に陥って、初めて自分が目を閉じている事に気づいた。
「ふうん。ずいぶん詳しいけど。そんなに珍しい特徴でもないわね」
説明の熱心さが足りなかった? それとも、伝わりすぎて引かれた?
「だって、その特徴だったら、ただの髪が長いチカじゃない」
どきっとして、芳美先輩の方を見る。
向こうもこちらを見ていた。きょとんとした表情。永田先輩の感想は聞こえたかな。残念ながら、伺い知ることはできない。