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トリミング  作者: 天之屋エニシ
1/8

 目が覚めた。でも、目覚まし時計を止めた記憶が無い。妙に頭がスッキリしているから、寝ぼけてはいない。それもそのはず、

「ぴぴっ」

 時計は、今鳴った。

 目覚まし時計より先に起きてしまった。

 損した気分を感じながら、朝の日課を始める。部屋を出るとき、懐中時計も忘れない。

「おはよう」

「おはよう一二三ひふみ

 ダイニング・キッチンでは、既に姉さんが朝食の準備を済ませていた。昨日はご飯だったから、多分今日はパン。

 テーブルの上には、カリカリベーコンとセットの目玉焼き。ついさっき、コトリと置かれたマグカップのコーヒー。そして、マーガリンが絞ったらにじみ出そうなくらい染みた、パン二枚。

「ジシンで目が覚めた?」

「自身? うん、自分自身で、目覚ましより先に起きちゃったよ」

 変な聞き方だなと思いながらボクは椅子に座った。

「そうじゃなくて、地面が揺れる地震」

「地震があったんだ」

 どおりで、自覚もないのに目が覚めるはずだ。

「気が付かなかったの? 結構揺れたけど」

「言われてみたらそんな気が」

 やれやれと溜息をつきながら、姉さんも向かいに座り、二人揃ってテレビを見ながら、しばしの静寂。

「今日も遅いの?」

 コマーシャルになったところで、姉さんがまた話しかけてきた。もうすぐ文化祭なので、美術部員のボクは展示用の油絵を目下作成中。ここ最近、帰ったら飯・風呂・眠る状態だった。

「うん、あと一週間くらいは遅い予定」

「そっか。涼しくなってきたから、夕飯はラップ掛けてテーブルに置いとくね」

「わかった」

 待ってて欲しいわけではないし、欲しくても「待ってて」とは言えない。

 両親を事故で失い、ボクと姉さんの生活資金は、もっぱら死んだじいちゃんの不動産資産でまかなっていた。羨ましがられるけど、その資金は最低限の生活分だけ。ちょっとは小遣いだって欲しいので、姉は大学生とアルバイトを、二重生活的な勢いでこなしているのだ。ボクの小遣もそこから捻出されているとなればなおのこと、頭が上がらない。

 二枚目を食べ終え、残りの準備を完了させて、亡き祖父が残してくれた遺産の一つ「十六十なゆたコーポ日川にっかわ」から学校へ出発する。

「いってきます」

「いってらっしゃ――」

 姉の声を聞き終わる前に、扉が閉じきってしまった。

 地震以外はいつもどおりの朝。これから、いつもどおりの高校生活がコンティニューされる。

 はずだった。

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