異世界転生日記
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「昔は良かった」
そんな事を考えるとは、私も歳を取ったということなのだろうか。まぁ老いることも死ぬことも基本的には無いんだがな。
だって私、神様だもの。
『若くして亡くなった者の魂を別世界に転生、召喚させる』
これが私の権能にして唯一の職務だ。
初めの頃は、記憶を消すかどうかのみ問い転生させていた。魂たちには「これでやり直しができる」と喜ばれたものだ。
神としての力が強まってくると、「生前の姿で召喚」という選択肢を加えられるようになった。これも「人生を続けられる」と大層喜ばれた。
さらに神として成長を続けると、次第に「能力の付与」ができるようになった。"現地語の修得"や"身体能力向上"、世界によっては"魔法を扱う能力"というのもあった。
これらは当人の『魂の容量』により付与できる数が左右されるものの、どれか1つあるだけでも転生、召喚後が楽になるとやはり喜ばれた。
おかしな事になったのはこの後からだ。付与できる能力がさらに増えたのはいいことだ。しかし"裕福な家庭に生まれる"や"技能修得速度向上"はまだいいのだが、"無限収納"、"超幸運"、"ハーレム"、"美男/美女化"、"主人公属性"、果てには"ラブコメ体質"だ。
『魂の容量』を超える能力はそもそも選択肢に出せないし出てこないのだが、これらを期待していたらしい魂たちはそれが無いと知るとあからさまにガッカリしたり、酷い時には舌打ちまでされた。
幸い、"虚弱体質"、"魔法の素養ゼロ"、"貧民として生まれる"、"召喚後の扱いが酷い"などマイナス要素の能力により、『魂の容量』を増やすことが可能になった。これにより、ある程度は魂の望む能力を付与できるようになった。
しかし、すでに魂たちからは「転生や召喚できること」に対して感謝する気持ちは失われていた。あまつさえ、「いい能力だけ全部付けてくれよ。できない?このポンコツ駄神が!」と罵倒される始末である。少しでも印象を良くするために女神の姿で対応していたときは「駄女神」とまで言われた。
ちなみにその魂たちには"鼻毛が伸びる速さ2倍"などのどうでもいい能力で『魂の容量』を埋め尽くして、ここでの記憶を消した上で元の世界に送り返してやった。
逆に、敬いと感謝の心を忘れない魂たちには、『魂の容量』を増やすことはできないものの、よりよい人生が送れるよう付与する能力について色々と親身に相談に乗ってやったりもした。
全くもって昔は良かった。魂たちの対応がこんなにも大変なことになるとは、神様である私にも見通せなんだ。これからも更に厄介な魂が増えていくことだろう。私にできるのは、せめてお行儀の良い魂が増えることを神に祈るばかりである。
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