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美少女の魔剣

 いきなりだが、俺の名前は〈虚炎魔剣・ディーネル〉。俗に言う魔剣だ。蔓延る闇のように真っ黒な刀身。加えて剣腹に施されたルーン文字。あえて外見的特長を挙げるとすれば、これぐらいだろうか? はっきり言ってしまうと、俺の外的特長はとても少ない。が、内面的特長は掃いて捨てるほどにある。と言っても、今それを全て挙げていたら、無駄に時間を喰ってしまう。

 なので、今は3つほど内面的特長を挙げようと思う。

 まず1つ目。それは見た目に反して、俺が尋常じゃない魔力を秘めているということだ。裕に、天才魔導士200人分ぐらいの魔力は秘めていると思う。禁忌級魔法から神話級魔法まで、自慢だが、俺はなんでも撃てちゃうぜ! ――何回も。流石に1億回とは無理だと思うけれど、1万回ぐらいなら撃てると思う。ハハッ。

 ――ということで2つ目。驚きの2つ目は、俺が、2000年も前に作られた剣だということだ。名も無い小さな鍛冶屋で作られた。

 とここで、1つの誰もが抱くであろう疑問が生じる。

 なんで俺は2000年も前に作られたのに、まだ現存しているか、という当然の疑問である。なぜならどんな剣であろうとも、いずれは寿命が来るというものだ。風化したり、何かの拍子で折れてしまったりする。それは当然の摂理。剣の平均寿命は30年、持って200年と言ったところだろう。

 じゃあなぜ、俺はまだ現存していられるか? その答えは至って簡単。俺が、特別という言葉では言い足りないくらい、特別な存在だからである。普通、剣は魔力という物を秘めていない。

 が、俺は特別、凄まじいほどの魔力を秘めている。さっきも述べた通り、天才魔道士200人分に匹敵するほどの魔力。

 なぜ自分にこんな魔力があるのか、その真相はまったくわからないが。まあ例えわかったとしても、特に利益という物は発生しない。ゆえに、このままわからなくても別に良いと俺は思う。

 ――ということで、次の3つ目を説明しようか。と俺はそう思っていたのだが、無念、説明できない理由が出来てしまった。

 ゆっくりとドアが開き、俺のご主人様が帰ってきたのである。そう――ご主人様。今更なのだが、俺は所有されている剣なのだ。

 古戦場に刺さっているところを、両手で引き抜かれた。とてもあっさりと。自分的には、結構がっしり刺さっていたつもりだったのに。あっさりと引き抜かれた時には、まあまあショックだったな~。

 などと、俺が過去のことを思い出していると、

「……ディーネル、元気にしてた?」

 ご主人様が、俺に可愛い声で話しかけてきた。無垢な瞳が、ジーと俺のことを見つめている。そんな見つめられると、流石の俺も恥ずかしい。魔剣だって、人間並みの心は持っているのである。

「ああ、元気にしてたよ」

 ご主人様の問いかけに対して、俺は人間の声を持って応えた。そう、俺は人間の声を出せるのだ。一応言っておくと、獣や怪物の声だって出せる。やろうと思えば、ゾンビの声だって出せないこともない。

「良かった」

 ご主人様は、俺の平静な声を聞くと、天使のような微笑を見せた。……可愛い。俺は決して女好きではないが、ご主人様の微笑みには、毎回ココロが奪われそうになる。

 青い髪に幼い容姿。

 ご主人様はありえないほどの美少女だ。銀河1と、全宇宙に発進してしまってもいいぐらい。

 現在そのご主人様は、作り置きしてあったスープを飲んでいた。

 するとそのときだった。

 怒涛の勢いで、家の扉が、弾かれたように開けられた。

 なんだ?

 自然と、俺の視線はそちらの方に吸い寄せられる。

 そこにはある男が立っていた。

 村人Aと言った感じの、滅茶苦茶フツウのフツーおじさんだった。肩を上下させていて、疲弊の色が伺えた。

「どうしたんですか?」

 ご主人様はパッと席から立ち上がり、早足で玄関の方へ向かっていく。

 フツーおじさんの前に立つと、フツーおじさんの方が言った。

「た、大変なんだぁ!」

 ずいぶん村人なまりの声である。

「なにが大変なんですか?」

「ま、魔物、村に途轍もない魔物が現れたんだよぉ!!」

「とてつもない魔物?」

 なんだろうそれは、といった風にご主人様が小首を傾げる。見惚れるほど可愛い仕草だった。

 俺は疑問に思う。

 どうしてご主人様の動作は、いちいち可愛さを帯びているのだろうか?

「ああ、ほんと、途轍もない魔物なんだよぉ!」

「どんな魔物なんですか?」

 あ、それは俺も気になる。途轍もない魔物。俺は今までに様々な魔物を見てきたが、途轍もない魔物は――ああ、指で数え切れないほど見てきたっけ。あはは、と笑いながら、それでも耳をそばだてる。

「巨大な剣を持って、身体が大きくて、黒いオーラを纏った魔物なんだよぉ! ワイ、本当に怖かったよぉ! 頼む、エイナちゃん、奴を討伐してくれ!」

 そう一心に叫んで、フツーおじさんは頭を下げた。後頭部のハゲが丸見えである。

 ご主人様は即座に頷いた。

「わかりました、その魔物、わたしが責任を持って討伐させていただきます」

「おお、本当かぁ! ありがとぅ、エイナちゃん!」



 あれから数分の時が経っていた。

 現在、俺のご主人様は小高い丘を走っていた。俺は鞘に収められていた。ご主人様の腰に、丁寧に吊るされている。おかげで外はよく見えない。俺の瞳には闇しか映らない。もう、こんなことにはなれてしまっているが……。

 でもやっぱり、自分の瞳には何か映しておきたいな!

 そんなことを、俺が脈路なく考えていると、

「……ねぇ、ディーネル」

 ご主人さまが声を掛けてきた。走る足は緩めない。

 はい? と俺は返事をする。

「今回の敵、わたしでも倒しきれると思う?」

「ん~……」

 正直言って、なんとも言えない。

 俺は2000年も生きているから、フツーおじさんの断片的情報だけで、魔物の名称がわかっていた。

 巨大な剣に、大きな身体、そして黒いオーラを纏っている。コイツは間違いなく、SS級討伐対象の、ブラックスレイヤーだろう。かなり強いと聞く。付けられた二つ名は、〈荒んだ剣皇〉。見境なく生命を奪っていく様から、この2つ名が付けられた。

「……ディネル、はっきり言って」

 俺もなんとも言えない反応を聞いてか、ご主人様は、ちょっと怒ったような声を上げた。そんなご主人様も可愛い。一生側に居たいレベル。

 思いながら俺は応えた。

「正直言って、今のエイナじゃちょっと危ない」

 本心からの言葉である。

 エイナは武神のように強い。

 が、ブラックスレイヤーも鬼神のように強いのだ。

 エイナが勝てるかどうかは、本当に微妙なところだった。しっかりと立ち回れば勝てる、でも下手をすれば負ける、そんな感じだった。

「そう……」

 エイナは悲しげな声を出す。そんな声を聞いていると、俺も悲痛な気分になってくる。やっぱり、女の子は元気なのが一番だ。いや、笑顔が一番? ――まあいい。今はエイナを元気付けるのが先決だ。

 俺は心から思い、エイナに励ましの言葉を掛けた。

「でもまあ、まったくもって気に病むことはないぜ。例え相手が化け物のように強くても、鬼のように強くても、伝説級に強くても、俺がしっかりサポートしてやるからさ」

「……ほんと?」

「ああ、本当だとも!」

俺が嘘を付くわけがない。

「しっかりと、この俺がサポートしてやるから安心しろ」

「……うん、ありがとう」

「どういたしまして」

「ところでディネル」

「ん?」

 なんだ、いきなり、と思いながら俺は言葉を返す。

「前からずっと気になってたんだけど、ディネルって、性欲とかはあるの?」

「もちろん!」

 そんなのあるに決まっている。ない方がおかしい。俺は一応剣という存在だが、心だって当然の如く持っている。

 人間の誰かが、『物にも魂は宿っている』と、言ったそうだが、まさにその通りなのである。俺だって、悲しいときは気分が沈む。なにか癇に障るような事があれば、憤りを覚えることだってあるさ。

「……そうなんだ」

「ああ」

「……でも、剣の場合は、誰に対して性欲を抱いたりしたりするの?」

「というと?」

「……だから、自分と同じ剣に欲情するのか、それとも、人間の女の子に欲情するのか、ということ」

「ああ、そういうことか」

 その答えはすでに出ている。

 俺はな――と前置きをして、

「エイナに欲情してしまう。結婚したいレベル! 良かったらキスしてくれ!」

「……ということはつまり、ディネルは、人間の女の子に性欲を抱くってこと?」

 悲しいかな、俺の熱い告白はスルーされてしまったようだった。エイナも人が悪いぜ。もうちょっと、素直になってくれればいいのにな。恥ずかしがらなくてもいいんだぜ?

 俺は勝手にそう解釈しながら、エイナの言葉に応えてあげた。

 いや、違うな、とあらかじめ言っておき、

「人間の女の子じゃなくて、俺はエイナの事が好きなんだよ!」

 叫ぶように言った瞬間だった。

 なぜか謎の沈黙が訪れた。

 え、俺なんかまずいこと言ったか?


     ◆


 ――目的地に着いた。あれから10分の時が経っていた。

 村はかなり荒れ果てていた。

 無様に破壊された家屋。

 生えていた木々はなぎ倒さていた。まるで、台風が過ぎ去った後のようでもある。

 村人の姿はない。

 俺はエイナの両手に握られていた。ほのかな温かみを感じる。エイナの両手に汗が付いているのは、緊張しているからだろうか?

 目の前にはブラックスレイヤーの姿があった。

 両手に巨大な剣を携えている。眼窩は赤い。闇のようなマントを羽織っている。全身からは黒い瘴気を放っていて、触ったらちょっとやばそうだった。が、エイナもそれはわかっているようだった。ついさっき、「……あの黒いのには、触らない方がいい?」と言っていた。そのとき、俺はもちろん頷いた。

 エイナが言った。

「……ディーネル、準備はいい?」

「ああ、俺はいつでもオッケーだ」

「わかった」

 エイナが頷いた――そのときだった。

 まるで瞬間移動でもしたかのように、一瞬で、ダークスレイヤーの姿がかき消えた。常人なら見失うほどのスピード。

 でも俺の目は誤魔化せない。

「――上だ!」

 俺は声の限りに叫んだ。

 その声が届いたのだろう、エイナは素早くその場から動いた。ワンテンポ遅れて衝撃。エイナが元いた場所を、巨大な剣が抉っていた。そこにポッカリと大穴が空いていた。シャレにならない威力だった。

 エイナは間髪入れずに飛んだ。

 俺を上段に構えて、一心不乱にダークスレイヤーの方へ飛んでいく。

 ――このままやっちまえ!

「はぁあ!」

 そのとき閃光が弾けた。

 俺と、ダークスレイヤーの持つ巨剣が激突したのだ。重い衝撃が伝わってくる。俺の身体がブルブルと震える。刃こぼれはしていないようだったが、ちょっとだけ痛かった。

 と、そんなことを思っている場合ではなかった。

 ダークスレイヤーの真っ黒い口元が、淡く光り始めているのだ。遠距離攻撃の前兆。危険を察知した俺は――

「エイナ、横に飛べ!」

 思いっきり叫んだ。

 エイナは俺の言うとおりにした。地を足で蹴って、思いっきり横へ跳躍する。その動きとほぼ同時に、真横を極太のレーザーが通過。

 空気が、刃物で引き裂かれるような音がした。

 威力は凄まじかった。

 轟音と共に、耳を割らんばかりの大爆発がしたのだ。そして、地面にはクレーターのような大穴が空いていた。深さは20メートルを超えている。ところどころから煙が噴出していた。

「ありゃ、当たったらまずいな」

「……うん」

 エイナは、ダークスレイヤーを見つめながら頷いた。

 ダークスレイヤーが動いたのはその刹那だった。

 残像が見えるほどのスピードでの肉薄。

 ダークスレイヤーは、瞬きを許さないような素早さで、俺たちの眼前に現れた。

 巨剣が振り下ろされる。

 アホみたいに早い。

 回避! と叫ぼうとしたがそれも間に合わなかった。

「くっ……」

 エイナが苦しげな声を漏らす。

 ギリギリのところで俺を使い、防御に成功したものの、かなり衝撃が身体に来たのだろう。事実、俺の身体も軋むような音を立てていた。今にも身体が折れてしまいうそうだった。ああ、苦しい……。

 が、エイナはもっと苦しいはずだ。

 剣の俺が、こんなところで弱音を吐いてはいけない。むしろ援護しなくては。

 ――やってやるよ。

 俺は、明瞭な声で詠唱をして、

「――解放!」

 伝説級の魔法を解き放った。

 すると上空に無数の剣が現れる。

 その数は100……いや、きっと1000は超えているだろう。――〈乱刃ノ舞辻〉。相手に回避を許さないような魔法である。

 ――やれ。

 そう胸中で呟くと、

 無数の刃が押し出されたように動き出す。

 狙うはブラックスレイヤー。

 無数の刃は、怒涛の勢いでブラックスレイヤーに殺到した。と言っても、これで勝てるとは俺も思っていない。相手は鬼神のような強さを持った魔物。伝説級の魔法一発だけでは、とても沈めることなど叶わないだろう。

 ゆえに、俺は更なる魔法の詠唱を開始する。

 エイナがダークスレイヤーの剣を止めている間に、俺は、計5つの魔法の詠唱を完成させた。

〈地を焼く灼熱〉〈虚ノ闇〉〈絶対ノ魔氷〉〈穿つ雷光〉〈舐める暴風〉。全てが、伝説級、または禁忌級の魔法である。

 それが容赦なくダークスレイヤーの方へ向かっていった。

 威力は一点に絞っているので、周囲への被害は納められるはず――

 凄まじい轟音が唸った。

 全ての唱えた魔法が、ダークスレイヤーに直撃したのだった。振動が凄かった。ダークスレイヤーは、耐えられなくなったように後ろへよろめく。その身体からは、真っ赤な炎が上がっている。無数の穴も散見できた。真っ黒い骨が見えている箇所もある。どうやらかくものブラックスレイヤーも、特大級の魔法を何発も喰らえば、一溜まりがないようだった。口からは煙だって上がっているし。

 ――終わったな。

 俺は勝利を確信した。内心では、喜びを表すようにガッツポーズを作ったのだが――

「……え?」

 まだ終わっていなかった。

 ダークスレイヤーの瞳には輝きが戻る。倒れそうだった身体は、寸でのところで留まっていた。身体にできた傷も、時間が経つにつれて癒えていく。ありえない回復速度だった。コンマ1秒も経たぬ内に、身体にできた傷は全て元通りになっていた。

 おいおい嘘だろ……。

 俺は胸中で唸った。

 ダークスレイヤーの黒い巨剣は、グインと上に持ち上がる。攻撃の予備動作。

エイナもそれを察知したのだろう、先にはやらせまいと、地を蹴って跳躍した。ダークスレイヤーの方へ突撃していく。

 エイナは、先制攻撃を仕掛けるつもりなのだ、と俺は察知した。

 が――

 無念なことに、その目論見はあえなく失敗する。

 剣を振り下ろすスピードが、わずかに、ダークスレイヤーの方が早かったのだ。

 まずい……!!

 大地を割りそうなほどの巨剣が、エイナの頭上まで迫っている。だがエイナは、剣を上段に構えていた。物理的に考えて、この状態で防御をするのには無理がある。むろん、時間的に見ても回避することもままならない。

 必死に思考を巡らせて間にも、巨剣はエイナの頭上に迫っていた。このままいけばエイナが死ぬ。

 だから俺は――

 自分の身を挺してでも、エイナの身を守ることにした。

「――あぁぁぁああああ!!」

 叫び、俺は自分の意思でエイナの手から抜けた。魔力を全て解放する。途端に、身体が炎で焼かれたように熱くなってきた。今頃、俺の刀身は物凄い温度になっているはずだ。切れ味だって何千倍になっている。

 ――これで終わりだ。

 俺は勢いを付けずに、自分からダークスレイヤーの巨剣に向かっていた。

 衝突する。

 魔力を全解放した俺と、ダークスレイヤーの巨剣がぶつかった。その衝撃で、辺りを火花が照らし出す。耳を聾するほどの音だって響いた。

 そして――ポキンと折れた。

 ――どっちの剣が?

 もちろん、ダークスレイヤーの巨剣に決まっている。

 ――楽勝だな。

 俺は最後にそう呟いて、ダークスレイヤーの黒い身体を、力一杯に切り裂いた。


     ◆


 長く続いた戦いが終わった。

 後に残されているのは、俺とエイナのみ。ダークスレイヤーの死体は、蒸発するように消えてしまった。

 ……けどまあ、あと数分で、俺も同じようなことになる。俺はさっきの戦いで、全ての力を使い果たしてしまった。だから、もう消える運命しかない。悲しいことだが、決して後悔はしていない。

 この手で、好きな女の子を守れたのだから。

 ということを、全て、俺はエイナに面と向かって言ってしまった。

 それを聞いたエイナは、「……え?」と、呆けたような表情を作った。

 それから怒ったような口調で、

「……ディーネル、悪い冗談はやめて」

 ――悪い冗談。

 もしそうだったら、飛び上がるほど嬉しいぜ。

 俺は思いながら言った。

「わるい、さっき俺の言ったことは、冗談でもなんでもない。全て事実だ……」

「……嘘でしょ? だってディーネル、まえ言っていた。俺はこれからも何千年も生きていくから、エイナよりも、先に死ぬことはないぜ、って……」

「わるい……」

 俺は2000年も生きてきたのに、返す言葉がこれぐらいしか見つからなかった。そして段々と、俺の身体は薄ボンヤリとしてきた。意識も、遠くに飛んでいくような気がする……。

 最後だった。

 俺は最後の最後に、エイナに言っておきたいことがあった。

 俺は言った。

「まあ、いきなりなんだが、ちょっと聞いてくれ」

「……なに?」

 エイナは、涙を堪えているような瞳で、俺のことを見つめてきた。可愛いな……。けど、もう、これからは、こんなエイナだって見ることができない。そう思うと、余計に悲しくなってきた。涙だって、らしくないのにでてきそうだった。

 俺は、それをなんとか堪えながら、口から言葉を紡いだ。

「もう知ってると思うが、俺は、エイナに会えてすごく良かったと思っている。最初に古戦場で抜かれたときだって、すごく嬉しかったんだぜ。 ――なんでかわかるか?」

「……なんで?」

「そりゃ、エイナがすごく可愛かったからだよ。あのときは思ったぜ。うひょー! これからこの可愛い子の剣! 俺めっちゃラッキー! てな」

「……けどユウト、あの時はすごく不機嫌そうにしてた」

「そりゃあ、まあ、あれだよ、俺にもプライドってもんがあったんだよ」

「……そうなんだ」

「そうなんだよ。――と、そろそろ時間だな」

 エイナとはもっと話をしたかった。けれど、そろそろお別れ時間が来たようだった。俺の身体は、もうほとんど透明になってしまっている。

「ということでエイナ、最後に、俺になんか言っておきたいことはあるか? 実は好きだった! とか、夜はディーネルの寝顔見てニヤニヤしてた、とか、なんでも良いぜ!」

「いかないで……」

「……ん?」

「……まだ行かないで!!」

 そう言ったエイナの瞳から、ぼろぼろと涙が溢れ出していた。大粒の涙だった。地面に落ちては、弾けて消えていく。

「――俺もまだ行きたくはないよ。……けど、こればかりはどうしょうもない。だからエイナ、最後になんか言ってくれよ」

「……いま……ま、あ……とう…」

「ん?」

 エイナの声がよく聞き取れなかったので、俺は思わず聞き返した。

「……今までありがとう、って言った……」

「そっか……」

 エイナの言葉を聞いて、そこで、俺の意識はプツリと切れた。


     ◆


 あれから1年が経っていた。

 俺はある森のある場所で刺さっていた。

 ダークスレイヤーを倒したあと、俺は死んだかと思われた。実際、意識は途切れた。けれども、俺には蘇生の魔法が掛かっていたらしい。1年経って、なんとか復活を遂げた。と言っても、エイナとは別れてしまったので、悲しいことには変わりない。

 などと考えていたら、前方から人影が。

 それは幼い容姿をした、青髪の美少女だった。

 歩み寄ってきて、

 そして――



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