ザラマからの報酬と後始末の管理人
「俺は帰る……梁河も無事かどうか心配だ」
「え」
ガイゲルガー・フェルを殺害したザラマはフラフラとした足取りで去ろうとしていた。
「待って!!ザラマ!!」
「!!」
それを春藍は止めて彼に思い切って訊いた。彼が"黒リリスの一団"と、ガイゲルガー・フェルは言っていた。パイスーやリア、インティと同じ仲間…………。
「あなたはその……"黒リリスの一団"で…………パイスーやリアのお仲間なんですか?」
「……そうだが。……お前はなんだ?ここの奴じゃないのは分かる」
「僕は春藍慶介です…………。その、またパイスーやリア、インティに会いたいって思っているんです。3人共十分な話もできなくて…………」
春藍の気持ち的には3人を仲間と思っているような感じだ。(若が可哀想だな……)
ザラマは春藍の言葉や存在を3人の会話にあったか思い出そうとしていた。確かに3人共、それらしい名を言っていた気がした。
それに春藍とネセリアがいなければ自分はガイゲルガー・フェルには負けていた。管理人ではないが、寄りでいえば管理人側に近い思想。この報酬は何か重すぎるかもしれないが……上手く行けば良い事が起こるかもしれない。
「パイスーとインティなら"闘技島"タドマールという異世界に向かった。リアと若は知らないな。ああ、知らない」
「!」
「お前に若みたいな能力があるとは思えないがな。行きたければ、そこで寝ている仲間を連れてタドマールに向かえ。パイスーはお前みたいな奴を気に入っているかもしれないぞ」
移動手段はおそらく管理人経由となるだろう。バレる可能性はあるが、パイスーとインティの2人組は圧倒的に強い、管理人の手練れが数人増えても二人ならば全滅させる。
「それじゃあな、春藍。助かった」
「あ、はい!!また、会いましょう。ザラマさん!!」
そして、ガイゲルガー・フェルが死亡した事によって生き残り、狂気に締め付けられた者達が目覚め始める。とても少ない数だ。
「うっうぅぅっ…………あ、悪夢から覚めたみたい……」
「ぐぐ………止まったか…………」
「はー……やってくれたか、春藍。ネセリア」
ライラ、ラッシ、アレクの三名は助かった。だが、月本の崩壊具合に全員が愕然としたのは言うまでもない。
春藍も意識を失ったネセリアを背負いながらアレク達と合流した。それから、ラッシの先導で"未来科学"フォーワールドに帰還した。手ぶらの帰還になるとは思わなかったと、ライラは言った。ザラマは梁河を連れて先にアジトの方へ戻った……………。
いなくなってからここの世界で生き残った管理人の1人、櫛永は被害状況を確認していた。
「ふぁー、目覚めた……やってくれるなー。ガイゲルガー・フェル…………。ウェックルスの時、言われてていたはずだ。聞いてないって言わせない。って聴こえないよね」
ガイゲルガー・フェルの無残にも溶かされた遺体を見てしんみりとしていた。
問題があるとはいえ、ここの管理人では一番戦力になる者だ。何かしらの思いがあった。
「……あなたは立派ですよ。あなたは人間に職を、少しの希望を、確かな敗者を作っていた。それも勝者の利益を一切得ずにやっていた。他者の不幸なんて管理人にとって利益にはならない物ですよね。趣味みたいなことです」
櫛永は丁重にガイゲルガー・フェルの遺体を葬ろうとした矢先のこと、
「行けねぇーーべなぁ。異世界を潰しといて、死にやがるなんてぇぇなぁ。マジで雑魚じゃね?ね?ね?」
ドガジャアアアァァァァッ
櫛永……ではなく。遺体となったガイゲルガー・フェルに向けられた。身体は
「……始末は君か?テッキリ蒲生様が来られるかと思いましたが」
「俺っち、お部屋は綺麗にする性格なんだべぇ?」
「へぇー。意外です。汚い食事風景を知っているものですので」
ゲス野郎……。ガイゲルガー・フェルと比べれば、こちらの方が問題があると思っている。少なくとも櫛永にとっては。
人間の不幸を作り出す代わりに、それよりも多くの希望や幻想を作り出していたガイゲルガー・フェルの醜い汚れ役を担う管理人を選出するのは大分先になるだろう。
だが、こいつの役目は希望を全て消し飛ばすこと。
「粕珠。君は人間を殺すのが役目じゃないのか?生きられない人、罪を持った者、……そーゆう者を始末するための役目……仲間の遺体を弄るのは行儀もマナーもなっていないな」
「かっはーーぁ?仲間だったのぉー?このゴミが!櫛永には見えるんだ、ふっしぎー!!」
粕珠は手持ちの辞書から文字を取り出してガイゲルガー・フェルに投げかける。文字の言葉は、"粉砕かつ圧死"……。ガイゲルガー・フェルについた瞬間。
バギイイイィィィィィッ
細切れ、ミンチ、からプレスが掛かって紙くずよりも小さくなってしまった。ガイゲルガー・フェル……。文字に触れただけで起こりうる攻撃。
「ここは今から"無空間"だべ」
"無空間"とは管理人用語的なもの。人類も建造物も、大地なども全てリセットすることである。異世界が再起不能になった場合、全てを無に帰してからポセイドンの"科学"で異世界の元を放り込む。長い時間をかけて世界の基礎が完成させてから管理人を投入する。
「きゃははは、さっさと逃げねぇーと死ぬべ?」
「君は」
粕珠の持つ辞書から噴水のように文字が世界中に散りばめられていく。部屋は綺麗する派じゃないの?あんた…………
「書く字も汚いだろー、粕珠」
「正解だべぇ。ただ、お部屋は綺麗だべ」
月本に、粕珠の辞書にある破壊が起きる全ての言葉が満ちた時。
商業市場街"月本"は本当の終焉を迎えた……………。
このことを知った人間はいない。ここに住んでいた者達も粕珠に殺された。管理人達に見捨てられた。……語られない殺害だ。




