弱いことは決して罪ではないが、弱いままである事は大罪である
ガシャアァァンッ
容姿はさらに歪になったが、立ち上がったガイゲルガー・フェル。
「ま、まだ早いですよ!!もう少し。修復しないと…………」
「…………」
こいつ等は弱い。意志や勇気、自信が感じられない…………。これはあれか、なんだ。
そう。
特別なものがない人間に送られる、枯れている花束を渡されるのと同じ言葉。
"優しい"とかいう。……弱者と答えるべきところをギリギリスレスレで避ける言葉だ。
「I DO NOT UNDERSTAND A MEANING」
「?」
ガイゲルガー・フェルは初めて"優しい"という言葉が似合う人間に出会った。多くの人間と出会いながら…………、初めてと認識できた。
そのことにわずかながら気がかりを抱きながら、
「2人共、どきなさい」
「え?」
「そこの男は始末しなければいけない。"黒リリスの一団"だからだ」
ガイゲルガー・フェルはネセリアを払うようにし、ザラマを治療している春藍に近づいた。
「助けるんじゃない……その男は死ぬ…………」
「!…………あ、あなたは……管理人ですか?」
「そうだ」
ガイゲルガー・フェルの言葉と震えるような声を出した春藍。緊迫した空気の中で心配という空気をかもし出して、ネセリアは彼の肩を止めるように掴んだ。
「ね、寝てください!メンテナンスをしないとあなたも危ないです!!」
「………………」
止める力はとても、とても弱かった。
それがとてもムカつくのだ。中にある狂気の快楽が悲鳴を上げる。
ガイゲルガー・フェルの行動はとてもシンプルになった。状況が理解できるかと、弱者に訴えるように
ガアアァァンッ
その鋼鉄の腕でネセリアの頭を思いっきり殴った。
冷たくて乾いた攻撃だ。
「ネセリア」
ドタアァァッ
ネセリアの頭から血が流れ出て地面へと転がった。強くないネセリアにとっては致命傷だ。意識はなくなった。春藍が渡したヘッドフォンも壊れた……。
ここで問題だ。仲間が重傷。関係のない人間が重傷。君はどちらかを助けられる。はたして、どちらを助ける?
春藍はガイゲルガー・フェルの行為に何を抱いたか、怒りか。悲哀か。
「ネセリア!!」
「…………………」
すぐさま、ネセリアの方へと春藍は飛んでいった。殴ったガイゲルガー・フェルには何も抱かなかった。危害を加える奴を見ていなかった。
「大丈夫!?すぐに治療するよ!!」
「………………なんなのだ、お前は………、お前等は…………」
弱さにズレがある。なんなのか、分からない。一つ分かっていることはザラマにトドメを刺すことを邪魔する奴がいなくなったこと。
「お、お前!!ネセリアもその人も攻撃はするな!!」
「………………」
言葉とは弱い…………。弱いものだ。治療しながら声を出し続ける春藍……。今まで聴いていた弱者達の声ではない。なんなのだ。
ともかく、ザラマの頭を踏み潰せばこの戦闘は決着となる。
「止めてくれ!!」
「…………」
バヂイィッ
あとホンノ少しというところでガイゲルガー・フェルは左足を掴まれた。
「!!?」
ジュバアアアアアアァァァァッ
せっかくネセリアが修復してくれたというのにまた破壊しやがった。掴まれた左足が一気に蒸発し、ガイゲルガー・フェルは転倒した。代わりに立ち上がったのはこの男だ。
「俺は……………死ぬ気はねぇ…………」
「!……ザラマ。お前も立ち上がるとは……」
ガイゲルガー・フェルにとってはさらに厄介な状態だった。
「毒でも、テメェにも…………殺される気はねぇ」
多大なる勘違いは勇気とは程遠い。ザラマは今、勇気や怒りなどを振り絞って体を起き上がらせた。毒で体が蝕まれていると脳が錯覚していることで死ぬ覚悟はできているが、身体はもう春藍のおかげで毒ですぐにくたばるという状態ではなくなった。
この勘違いが"THE・BRAVEⅡ・DLD"の盲点を突いた。
楽に死ねる薬を飲んだら、睡眠薬だった的な話だ。(大量に服用すると危険だが)
"THE・BRAVEⅡ・DLD"は起動しているが、すでに毒で死に掛けているため効果がない。とザラマは認識している。その毒のリスクはもうない。
「あ、危ないよ!!その身体で……2人共!!」
戦々恐々としつつ、春藍は2人の死闘を聞くしかない。ネセリアに顔と腕を向けなければ彼女が助からない。
「小僧。こいつは俺がぶっ殺す…………邪魔はさせん……毒にもだ!!」
「ぐっ………しぶとい人間め…………」
立っているザラマと地に這っているガイゲルガー・フェルとは、有利不利がハッキリとしている。ザラマの魔力はほぼスッカラカンだが、微量でも強力な熱は繰り出せるだけの技術力がある。(ようは燃費が良い)
楽には殺せない。それがガイゲルガー・フェルにとってはどれだけ苦しいか……………。
ガジイィッ
「ぐおおぉっ、止めろ!!手を、手を……ME、つけるな!!熱いぃぃぃっ!!」
「"王子の高熱な両手"」
ザラマの手に触れた物の熱を上げる技。
瞬殺するほどの威力はないが、死を与えるには十分な威力でもある。