覚悟覚悟覚悟と言っている野郎(もしくは女)がこの世で一番吐き気がする生き物
「な、なんだろ?今、スロットが………」
「ええ。もう何かが始まっているみたいね」
「馬鹿デカイ奴が倒れているぞ。誰だありゃ……?管理人じゃねぇーな」
春藍、ライラ、アレク、ネセリア、ラッシの5人はライラの"ピサロ"の雲に乗って、"人"のコーナーの二つ手前の"建"の付近までやってきた。もうここからならば巨大化してノビている梁河の姿も見える。
「!!あ、あの人は…………」
「どっかで見た姿どころじゃねぇーな。一緒に戦った仲だ」
春藍もアレクも梁河の姿を見て、この騒ぎの発端が理解できた。だが、梁河はこの遠くからでもやられていると分かる。一方でネセリアは下に映る景色と、音声に疑問を抱いて尋ねた。
「さ、先ほどから下が騒がしいですよね…………?」
「うっ」
「ライラ、不思議に感じませんか?」
「ううううううううううううううううぅぅぅぅっ」
「!?」
空ゆえに侵食が届くまでには時間が掛かったようだが、回りさえすれば全滅必死。
「いやああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「ラ、ライラ!!?」
突如、苦しみ泣き出しながらライラは絶叫と同時に魔力を大量に放出した。それは明らかに世界全土を攻撃するつもりのやり方。ライラの異変に春藍とネセリアは竦みあがり、
「ぐおおおおおぉぉぉぉっっ!!?あああああああああああぁぁぁぁっぐぇぇぇぇっ!!」
「!!ラッシもか!!?っっ!!くくぐぐぐ」
ガシイィッ
ラッシもライラに続くように自分の保有魔力を一気に捨てるようにどんどん出し始めた。頭に何かが入ったのを取り出そうとして雲の上で転げまわるラッシ。そして、アレクも頭を抑えたくなるほどの痛みを訴えるも、太い精神力で春藍とネセリアの2人を両腕で抱えて、ライラの雲から飛び降りた。
「ア、アレクさん!!」
「お、落ちますよおおおおおおぉぉぉっっ!!」
「!!!っ」
上空と呼べる高さにいたわけではないが、雲の上から落ちるのだ。春藍とネセリアでは死んでしまう。ここが逃げ場かどうか判断できるわけもなかった。
アレクは自分の身を挺して、春藍とネセリアのクッションになるように先に地面に突っ込んだ。
ドゴオオォッッ
「ぐおおぉっ」
「っだぁっ」
「いたたた…………」
春藍もネセリアも奇跡的にかすり傷もつかずに地上へと降りれた。だが、アレクはその衝撃を1人で背負っていた。それでもなお、アレクは春藍とネセリアを自分から離れるように投げ飛ばした。
「ア、アレクさん!!?」
「来るなああぁっ!!ぐおぉっ!!春藍、ネセリア!!!」
「えっえっ!?」
春藍とネセリアには意味が理解できないこの異常現象。
ビュオオオオオオォォォォッッ
バヂイイイイィィィッ
恐怖はライラが呼び寄せようとしている台風でもない、ラッシが発しようとする雷でもない。2人は気付いた。アレクやライラ、ラッシだけではない。地上にいる人々が苦しみ始めている。
悲鳴と絶叫が、ネセリアには恐怖を抱かせた。アレクは暴走しそうな精神を堪えさせ、たった一瞬で起こった異常の原因を春藍に伝えた。
「か、覚悟や……勇気、怒気、自信、信念、意思…………」
「あ、アレクさん?」
「この異常は!!ごほおおぉっ………覚悟や勇気といったもんが、ハッキリとして、折れない奴からやってくる!!俺も、ライラも、ラッシも……もう助からん!!」
「そ、そんな!!」
「覚悟はすんな、やられちまう………だが。倒さないと、……俺達は全滅だ。げおおぉぉっ、がはあぁぁっ……いけぇぇ……春藍、ネセリア……………」
アレクは吐血した瞬間、吐き気が止まらずになんだろうが口から吐いていた。精神が持ってかれそうだった。
「殺す殺す殺す殺す!!!人間がいなくなれば全部が平和なんだ!!平和しかないないないないないないないないないない!!!」
ライラ達の頭が掻き毟られる。勇気や自信とは、それが正しいから言われる言葉だ。
勇気とは一つ間違えば悪意でしかなく、自信も怒気も、信念も、意思も。それが正しい時だけが認められる。
成功した時だけしか、勇気と自信、意思は認められない。失敗や敗北、つまりは弱いという状態はあらゆる面において何をやったとしても、ダメなのだ。何を言ってもダメだ。
だが、"THE・BRAVEⅡ・DLD"の恐ろしさはまだある。この圧倒的な強制力はアレクの推察通り、人の自信や勇気などの方向を捻じ曲げているだけであり、狂わされる間に心の底にやってくるのは謎の甘い快感と、痛烈に残る記憶。恥というものだ。
狂って死なせるというのが目的の"科学"ではない。重要なのは狂い、苦しみ、弱さを知り、それでもなお生きる事にある。死にたいなんて言わせねぇぇ。弱さから離れることは許さねぇぇ。
弱者はそれでもなお、生きているのだから。ここで死を選ぶのは軟弱ではないかな?強者の諸君。
それを実現させたのが、ガイゲルガー・フェルだ。
弱者だ。……ポンコツみてぇな風体を何度バカにされた事か。そうだとしても、彼は任務を続けている。生き続けている。人間を支配している。強者を許さない。屈辱を許さない。やり方が違うと批難され、大勢で囲まれたとしても折れる気はない。
ドザザアアアアアアアアアアアアアアァァァァ
「や、止めてよ!ライラ!!豪雨と風を止めてーー!!!いったーーーい!!」
「ネセリア!離れちゃダメだよ!!」
ライラとラッシは天候を操る魔術だ。ガイゲルガー・フェルのように広大かつ、強力な魔術はさらに"月本"を崩壊へと加速させる。
春藍とネセリアは天気がさらに悪化する前に建物の中へと批難したが……。
ゴガガガガガガガガガ
「た、建物が壊れちゃう!!」
「二人共どれだけ魔力を使っているんだ!!?」
アレクはすでに言われた通り置いて逃げている。アレクはもう突風でどこかへ吹っ飛んだだろう。春藍達、"THE・BRAVEⅡ・DLD"から逃れる事ができた連中は恐怖する。強者達の暴走がどれだけ恐ろしいか、目の当たりではなく、実際に体験した。
ゴガガガシャアアアァァァァンッッ
ライラ、ラッシの派手な暴走(梁河も含む)によって、倒壊した12つのコーナーから9つ。
"創"、"活"、"素"、"器"、"建"、"知"、"財"、"金"、"人"の9つコーナーは全て崩れ、瓦礫の山しか残らなかった…………。
暴風暴雷暴雨が過ぎ去った後、"人"コーナーのところではガイゲルガー・フェルがこの惨状を笑う事ができない顔で笑っていた。
「他人の不幸でぇ~~~」
メシウマーーーーー。
「くふふふふふ、うふふふふふ、あははははははははははは、いひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、HEEEEEYYY」
IT IS A PLEASANT FELLING(快感だね)
ガイゲルガー・フェルには管理人の中で誰よりも弱者を知っている。弱者だからだ。そして、これがたまらない。□しかない自分の体が丸くなっているんじゃないかと錯覚するほど、トロミのある恍惚感に酔いしれる。お酒じゃない、タバコじゃない、シンナーでもない、マリファナでもない。これこそが!!やはり!!絶対的な甘味物!!中毒性!!
人の不幸がこの上ない味だと知った者こそ、弱者。
「人間は欲情すると聞く。I、ロボット型の管理人故、それがない。だが、心がないと思った事は一度たりともない。こうして、弱者になっていく様、弱者が起こす問題。それらを眺めるだけで動力炉が吼えるのだ」
あああぁぁ、蕩けてしまう。この□だらけの体が蕩けるぞ。
「で?欲情を知る人間の快感はどーなのかね?」
「…………1人。お前と似たバカな女がいる。だが、そいつはお前と似ていそうだがまるっきり違う。テメェみてぇな事はくだらないと一蹴する。本当に心を持っているのはリアだけだ」
「ほぉ」
「お前のは心じゃない。ただの悪だ」
崩壊した瓦礫の上からガイゲルガー・フェルを見下ろし、答えた男。
「だが、その悪はここで終わりだ。もう捨てた名の、早川仁治が決着をつける」
"黒リリスの一団"ザラマが今、復讐を始める。