自分の人生は宝。他人にとっては物扱い
卑猥。下劣。おぉ、エロス……………。だが、残念なことに。人間とはそーゆう過程で繁栄するのである。自分が生まれたというのはそーゆうことだ。目の前に人間がいるのはそーゆうことだ。
「あ、ありがとうございます……!!」
「自由になれたわけじゃねぇーだろ。これからどうすんだ?」
自分でも何してんだと思いながら……。クソにも程があるコーナーにやってきている"黒リリスの一団"の一員である梁河は男女問わず、牢屋から釈放させた。
彼がいるコーナーは"人"。人身売買が平然と行われている場所である。ここには一度、短い期間であったがザラマが収監されていたそうだ。自分にそんな屈辱はなかったわけじゃないが、晴らす気分でやったことだ。
「な、何者だ!!」
「貴様!!覚悟はできているんだろうな!!」
十数人の管理人達が場に駆けつけたが、梁河は平然と能力を発動して応戦する。
「テメェ等雑魚には用はねぇーーーーんだよおおおぉぉぉ!!!」
梁河のスタイルは"超人"。スタイル名は"打出小槌"。運動した箇所を巨大化させることができる能力。完全な打撃特化。
グジャアアアァァァァッ
並の管理人ならば楽々と瞬殺する器量を持ち合わせる梁河。
「量産型に用はねぇーよ!」
管理人の量産型。番号は1000~決められているそうだ。管理人の量産型とは単純な人手不足が発生し、ポセイドンが必要と判断した場合に欠番から製造される。これらにはいくつもある人格データを流し込まれ、訓練と研修を通して2年後には実働されるようになっている。
ちなみに量産型の管理人達のための異世界も存在する。
商業市場街と呼ばれる名だけあって、管理人には櫛永などのような高ランクの者が何人かいるが、どいつもこいつも戦闘よりも経済のバランスを整える役割にある。この世界で問題があるとしたら思わぬ大事故、運んでいる爆破物が爆破するなどによることだ。
結論、梁河とザラマが侵攻しただけでこの世界は簡単にも壊滅する。それだけの戦力しか残っていない。管理人には……………
メギイィッ
「おぉっ?」
「ひいいぃっ」
「あ、あ、あの"超人"は……………」
しかし、不足の事態に備え。戦闘力の高い人間を配置するようにした。特に"人"のコーナーは口論ではなく、喧騒が多い。
「こいつかぁ?俺のように異世界から借り出された奴ってのは……?」
「はぁっ?なんだテメェー。強そうな登場のわりに随分と雑魚面じゃねぇか」
異世界から送られた人間達は必ず抗う。その抗いを最小の被害でトドメるという仕事をもらい、派遣された人間の"超人"は闘技島"タドマール"から連れて来られる。彼等も仕事であり、奉仕のためであり、生きるためにやっている。だが、中にはこの職を愉しんでいる快楽殺人鬼もいる。
「ヨルワルス………よく覚えとけ。これがお前を殺す名だ」
「さっさと来いよ。管理人に飼われた豚野郎」
囚人となった人間達には、人間に恐怖するところを理解させられる。管理人という異種じゃなく、人間が行うからこそ服従心が高まるのだ。人間は管理人に管理されていると理解されれば、あとは流れで売られていく。
梁河とヨルワルスの超人バトル。それは圧倒的な力の差。
ミギイイィッ
ヨルワルスの方が図体が大きく、蹴り技で梁河を吹き飛ばそうとしたが
「雑魚じゃねぇか」
「!!?」
飼われた連中。本当の戦いから遠ざかった、弱者のお守り。金と女、奉仕のための力量では梁河に敵わない。
"打出小槌"の力がなくとも、圧倒的な身体能力を持ち合わせている彼は。
ガギイイィィィッ
「ば、バカな……………タドマールの戦士の俺が……………一撃だと………?」
「雑魚なんだよ、テメェは……」
ヨルワルスなど眼中などなく、梁河は作戦通りのことを行う。
「囚人共。命はよぉ、……自分の一回っきりだ」
「は、はい」
「生きてみろ。必死に生きろ。動ける幸せ、頭が回る幸せを大切にするんだな」
囚人を扇動しつつ、自分は"打出小槌"で体を巨大化させていく。梁河の狙いはこの月本の破壊。特に吐き気のするような囚人達を解放しつつ、ゴミのようにいる管理人達を呼び寄せつつ殲滅する。
ガジャアアァァァーーーンンッ
商業市場街の"人"のコーナーは今、梁河の手によって半壊してしまった。歩くだけでガタガタと壊れ始める巨大さ。腕を振り回し子供がおもちゃの積み木を崩すように月本を破壊し始める。その音と衝撃は警報レベルから即座に警告レベルになる。
【緊急警告!!緊急警告!!】
「むっ?」
「あんだぁ?」
滅多になることのない全世界緊急放送。春藍達にも届く。
【"人"のコーナーにて暴動が発生!!強力な"超人"の出現!!至急避難せよ!!】
「ぼ、暴動って…………どーゆうことよ!!?」
「……あんまり良い事をやっている感じではないようだな」
勘の良いライラとアレクは櫛永とラッシを睨んだ。春藍はそのことに冷たい目を映し出した。櫛永は頭をかきながら
「ともかく、避難しよっか。そこから話しても大丈夫でしょ」
「なんでそー落ち着いてられるの!?」
「大丈夫。この世界に人間は少ない方だよ。やられるのは管理人達ばかりだ」
「それで良いのかよ?櫛永。俺は黙ってやられるのは好きじゃねぇよ」
櫛永の言葉通り、梁河の足止めに向かう心もとない量産型の管理人。彼等は死を恐れないが、無謀と勇猛を理解できていない。ただ向かい、そして全うするだけであった。
梁河の手で"人"のコーナーが完全に破壊された時、春藍達は用意された避難所に入ることができたのだった。避難所は地下シェルターであり、よほどの兵器が使われない限りは崩壊しない。本当ならばライラとアレク、ラッシは警報があったところに向かい、暴動を鎮める方が良いと考えていた。好戦的な3人をどう諌めようかとしている顔を出す櫛永は
「まずはそーだね。暴動ってのは異世界から連れて来た……じゃねぇーな。うん。強制連行されて、物扱いになっている人間が起こすのが大半だね」
「きょ、強制連行!!?」
「!……………」
櫛永の説明はまず、謝罪と真実を兼ね備えていた。正義感がある者ならばいかにここが重要で必要な異世界だとしても見過ごせないことだ。春藍達はちゃんと耳を櫛永にかたむけていた。
「私はそこの担当じゃないが。人間ってのは最高の労働力であり、最高の道具なんだよ。人気のある商品だ。…………とにかく、君達には知られたくない闇の部分だ」
なんか最高に嫌な台詞を吐きやがった。社蓄の上手な文句だ。
「だが、今回の暴動はちょっと違うみたいだな。強制連行された奴等が結集して暴れても、それを抑えるだけの戦力はあるはずなんだよね」
「ちょっと櫛永!!あとで問いただすわよ!!」
櫛永の言葉に少し怒りを感じつつも、ライラ達は行動をとる。
「騒ぎを止めないと人間だろうと、管理人だろうと死んじゃうじゃない!!」
「その通りだな」
「ジッとしてんのは嫌いなんだよなー。もしかすると、獲物かもしんねぇーしな」
ライラ、アレク、ラッシの3人はすぐに戦闘体勢に出る。しかし、"人"のコーナーはかなり遠く、巨大化している梁河の姿すら誰も確認していない。
「ライラちゃんの尋問は覚悟してまーす。……とにかく、君達は戦うのか…………気をつけて」
情けない顔を出し、溜め息をつく櫛永。そんな櫛永に春藍は尋ねる。
「あの」
「なんだい?」
「あなた方は、僕達を…………物のように考えているんですか?」
「…………言っただろう。人間は最高の労働力なんだ………物と者は一緒の読み方をするだろう。そんなもんだよ」
春藍は…………悔しいような顔を出して、
「あとで話したいです。ほんの少しの自分で…………」
「うん、いいよ」
春藍だけが分かっていた事がある。連れて来られた人間達の暴動ではない、別の何かの存在が。パイスーやリア、インティがいる"黒リリスの一団"であることを予感し、確信していた。
彼等は…………ライラとは違う道でも、戦うことを選んでいるのを知っているから。