僕達の帰還、春藍の一歩目
アーライアに行き、……アーライアから帰還して…………2週間ほどが経った。意識を取り戻してから翌日にはアレクは現場に復帰し、主に改修工事などを精力的に取り組んでいた。彼が不在であったフォーワールドはずーっと停止状態。圧倒的なカリスマが戻ってきた事に全土は沸きあがって瞬く間に修繕が進んだ。
ライラは異世界人故、あまり表立って出る事は許されなかったが、フォーワールドの景色を空から眺めていた。只者じゃないとは分かっていたが、これほどの奴が仲間であった事には感謝しかない。人材や設備もろとも彼一人で動いてしまうのだ。
「春藍達が尊敬するのも分かるわ」
科学の力がないライラがするべき事は情報収集やアレク達が望んでいる資源の入手だろう。近々であるが、アレク自身が"SDQ"対策本部や未来対策施設などといったこれから先の全世界の問題について取り組むチームを作るそうだ。
科学の取り組みもいいが、アレクもまた多くの異世界に行きたいという気持ちがあり、学びたいと語っていた。
フォーワールドには優れた科学使いは何人もいる。人材においては宝の山と言えるだろう。ライラは雲を操作して管理人達の施設へと帰っていった。そして、またやってきた。
「凄いスピードで再建してるわよ。アレクって凄いわね」
「そうですよ、アレクさんはそれほどの方です!」
「…………うん。アレクさんが無事で良かったなぁ」
意識を戻した春藍とネセリア。2人は大事をとって、カプセルからベッドになって点滴を打っていた。旅は終わったかとも思われたが、……まだ続けられる。そんな気持ちよりも打たれたところがある。喜びを少し出したネセリアであるが、少し震えていた。感情を込めてライラに顔は見せずとも、メッセージを飛ばしていたのは明らかであった。
「平和って大事ですよね。今こうして復興しつつある街並みを眺めることができるだけで、平和だというのに…………」
「……………」
「アーライアの惨状が広がったら、誰も立て直すこともできないんじゃないかなって……ちょっと思うの」
今までのネセリアには平和という価値は平和でしかないと。考えていただろう。言葉だけでの理解しかしていなかった。ただ現実に今、アレク達がやっているような再建を行えることこそが平和であると現実で見れた。
教科書や学び舎で知ることと、現実は違う。そして、現実の方が重く真実であるのだ。
「あたしはさせない」
「!」
「何ができるか分からないけど、あたしは求めている事が可能な人達を集める。何でも集める。用意する。大切な仲間を…………!あたしは作るから!」
自分が強く主張するものがないライラにとって、意志や魂という目に見えない、耳に聞こえないその物よりも役割と可能なことをネセリアに伝えたのは自分が無力であると自覚していたからだ。今度は無鉄砲ではない。
「ネセリアも、春藍も、アレクも。あたしの大切な仲間なの。本当に心の底から思っている」
「ライラ……………」
励ましなのか。それとも、頼りにしているからか。ネセリアにはライラと比べたら覚悟や意志は弱い。あんな惨状だったのに真っ直ぐに歩こうとするライラはステキだと思えた。
「なんとかなるのかな?」
春藍はライラの言葉に弱気なところを見せたが、
「今すぐ死ぬわけじゃないよ。今すぐ、やるべきこと。あたし達が命尽きても次に繫がればいい。多くの仲間と生存する未来に届けるだけ」
捨て石になろうとしてもいい。守りたいという強い気持ちと言葉を春藍に向けるライラ。敵わないなぁと、春藍はライラが眩しくて凄くて直視できなかった。少し悔しかった。
春藍は窓の向こう側の景色を不意に見た。こんな病室から見るのはあまりなかったけれど、このフォーワールドと技術開発局が自分にとっての家であり、家族であった。その大切さを教えてくれたのはきっと、ライラと出会って一時だけ離れたからだ。
異世界が良かった……という気持ちもあるし、それぞれで辛い部分も見えていた。自分が痛い傷を負い、辛くて過酷な場所もあった。
色々とあったことを含めて、…………
「ずーっと」
「!」
「自由ってなんなのかなーって思っていたんだ。けど、そんなことを考えている僕が一番不自由だと気付けたんだ」
何を迷って、何を恐れて、………。行動を考えるのは大切だが、曖昧な定義を考えるのは意味がない。極めて意味がない。歩き始める足を右にするか、左にするかのレベル。
「ライラのおかげで色々と学べたと思う。アレクさんやネセリアと一緒に旅をして、パイスーやリア、インティに会って、桂さんやポセイドン様達のような管理人とも出会えて嬉しかった」
春藍はたったの一歩。それでも価値ある一歩目を出しただろう。
「僕はまだまだみんなといたい。やるよ、僕のできる限りで世界を救おうよ!」
全世界に起きるだろう災害、"SDQ"。そして、まだ多くの問題や謎を含めた人類問題、管理人問題に春藍慶介はライラ達と一緒に向かい合う一歩を踏み出した。遙か先、その先に自分が到達できるのか分からない。
まだ遠い未来のビジョンは確立していない。それでも、不確かな未来でも自由のような素晴らしい何かを作ろうとしていた。




