覚悟とかそんなんとか
ピロリロリーン
「なんだ?」
パイスーによって大宇治を失った事により、管理人達の連絡網は別の手段に変わってしまった。桂に連絡が届いたのはそれから2時間ほどしてからである。
連絡をした相手は朴であった。
『桂さん。連絡事項です』
「うむ」
『ライラ・ドロシー、アレク・サンドリュー、春藍慶介、伊達・ネセリア・ヒルマンの回収が完了いたしました。4名ともアーライアから帰還しました』
「……………」
人間がアーライアで生存したという記録はあるが、逃れたという記録は四人が初めてであった。とはいえ、その世界に入れば誰もが全滅必死の凶悪な環境である事は理解できただろう。
「そうか…………ホントにそうなんだな」
『さすがに娘さんが心配でしたか?』
「娘ではない。ともかく、……ふぅ…………四人の意識が回復した後、"未来科学"フォーワールドに全員帰還させよ。拙者は先に向かうがな」
ライラの無謀がこの経験でどうなるかは分からない。諦めるというのはそれでいい。
『あなたもズルイお方ですよ、桂さん』
「?何のことだ?」
『私にはアーライアでの研究や対策などを実行してはならない。そしてポセイドン様もほぼ同じであるのにも関わらず、人間達に実行させようという考えをお持ちでいられる』
「………………」
『本来の管理人としての業務であれば。あなたは本当に武力で残忍な結果を作らなければいけないでしょう。ポセイドン様の傘をも利用し、可能にさせた』
朴の言葉は弱みでも握ったかのように楽しげに言っていたが、
「深く読みすぎだ、朴。拙者にはそのような気持ちは一切ない」
『それはどうでしょうかね?』
「お主に礼代わりに伝えられる事とすれば、拙者は人間がやるべき問題であると思っていただけだ。それ以外はない。拙者には何もな」
『…………本当に言っておられるとは面白くない方ですね』
朴の声は少し低くなった。
桂は四人の無事を知れただけでホッとしていた。朴の言うとおりであり、少し気持ちは違うが管理人としての行動ではなかった。ただ、桂にも一部の管理人達にも変化を感じているのは分かっていたのだ。
チュンチュンッ……………
そして、時と場所がまた動く。春藍達は意識を失った状態でやってきた。そして、帰ってきた場所。"未来科学"フォーワールドだ。
四人は今、集中治療を自動で行われるカプセル型の科学に入った状態だ。この科学はフォーワールドで作られた最新の医療型の科学である。4つのカプセルを守るように部屋で寛いでいるのはクロネアであった。
「はぁーー…………早く目覚めてくれませんかね」
こーしているのは今日で3日目である。クロネアはフォーワールドの再建をそっちのけにしてこの業務についているのはそれほどに重要な秘密を四人が持ってしまったからだ。
人類に知られてはいけない問題に触れたのだ。口封じではないが、なるべく多くは語らぬよう伝える事と目覚めた者達に状況説明を行うためだ。クロネアはアーライアに行ったことはない。業務連絡の際によく流れる世界でしかない。
「………ううぅっ…………」
「!」
最初に意識を取り戻したのはアレクであった。彼の場合、ベィスボゥラーの力によるため回復は3人よりも早かったのは当然だった。クロネアもそれに気付き、椅子を持ってきてカプセル内にいるアレクと向き合った。
「……クロ………ネアか……」
「おはよう。アレクくん……また会いましたね。心配しましたよ、一時は死ぬんじゃないかと」
「…………?……どこだここは?」
「フォーワールドですよ。軽い記憶障害が起こっているようですね」
「…………春藍は無事なのか?」
「お隣で眠っておられますよ。死ぬことはありませんが、意識が戻るまではまだかかるかと」
「……………………とんでもねぇくらい……長く嫌な物を見た」
意識を取り戻しても、言葉を出すのが苦しいほどの表情をしていたアレク。未だに脳が記憶の整理ができない。頭にこびりつくようにアーライアの記録が埋め込まれているからだ。
「しばらく、落ち着いていなさい。春藍くん達のことは私が責任を持って治療しているところですから」
「……………………」
「桂さんもいらしている。そう不審な目を出さなくて大丈夫ですよ」
「……………わかった…………」
再びアレクは目を閉じる。眠りたいほど精神が弱っているが、脳のもがきがそうさせてはくれない。口走らせそうなほど、狂騒がアレクは体験している状態だ。口を閉じ、目を閉じ。耳を塞ぐとかっこ悪いからしないが大人しくするだけだ。不眠症に近い。
ウイイィィーン
「!桂さん」
「何かあったか?」
「先ほどアレクくんが目覚めましたよ。お疲れ気味でしたけどね」
アレクが意識を取り戻したということはもうすぐ3人も回復するだろう。桂はフォーワールドを見学し終えたため、ここに戻ってきた。ライラが荒らした跡はまだ残っていた。ラッシがぶち壊したところはまだ手付かずのようだ。
桂とクロネアはしばらくここで話しながら時間を待っていた。ランクが違うとはいえ、管理人に友達がいるのは至極当然であった。派閥は持っていないが、仲間が多いのは桂。派閥を持つが仲間を持たずに孤高に貫いているのはポセイドンだった。
「ん…………んんっ…………」
「!」
次に意識を取り戻したのはライラだった。アレクとは違い、記憶障害が出ているわけではなく。淡々としていた表情を浮かべていた。映る桂とクロネアにライラは話しかけた。
「…………なんで桂がいるの」
その声は少しだけ恐れていた。
「アーライアに行った感想はどうだ?……怖かったか?」
「雪みたいなのが降ってたわ。けど、色々あった気がする」
「……………」
「ネセリアと春藍、アレクは無事なの……?」
ライラの言葉はとても低く暗かった。
「大丈夫だ。意識こそ戻っていないが生きている。アレクはもう意識を取り戻している」
「よかったぁ……」
それだけが怖かったという安堵の表情を見せてからだった。覚悟を決め、決断の顔になった。
「桂。あたし…………」
「なんだ?」
「あんなのを全世界に知られちゃいけない。起こっちゃいけないって思った」
死ぬようなダメージを喰らった後に言える台詞ではない。ライラにとっては身を持って知り、仲間を持って不安を強く抱けた。
「無理だって思ったけれど……今は無理で諦めたらずっと無理」
とんでもない暴論じゃねぇの?という顔を出しているクロネア。だが、それがライラなりのライラらしい言葉なのだ。
「あたしはアーライアを止めたい!人間は困難を乗り越えてこそでしょ!!?」
「…………………困ったな、ライラ」
半分諦めた顔を出す桂。半分は予想通りの言葉、ホントに強い。無駄に強すぎる。
「俺もそれをさせろ」
「!!」
「この声……アレク!?」
五月蝿くて寝むれやしない。しかし、それ以上に管理人が未だに解決できない巨大な問題。鬱憤にもなるし、自分の腕が試される場。ライラにも以前伝えていた。
「フォーワールドは…………全面的にアーライアの問題に取り組む。俺はここの全権を持っている。誰にも邪魔させねぇ…………」
「アレク……」
「あのー…………フォーワールドを管理しているのは私ですよ。アレクくん……」
問題が多すぎる奴だなと、小声でクロネアは呟いた。捨て身覚悟で言われたりするとこちらも対応が面倒。もとい、ポセイドンがどのように動くか読めない。それに桂が2人どころか4人を始末しなければならなくなりそうだ。
だが、そんな事情など2人には分からず目を真っ直ぐ向けていただろう。
「…………せいぜい、無事でいるようにな」
「桂!!」
「この世界は科学が発展している。あーゆう災害に手を出せるのは科学が理想だ。良い仲間を大切にすることだ、ライラ」
桂はライラの無事を確認して去る。止められそうにはない。
だが、彼女の行動が良い結果に繫がるが結果を出せるだけの状態になったのは事実。どうせ滅ぶというのなら人間に足掻きは必要だ。それに時代の流れを感じる桂。人間が立ち向かうというのなら、アレクや春藍、ネセリアの力を借りただけでは足りない。もっと多くの世界に目を向けなければならないのは必然と知っていた。
「はーー、困るよ君たち。私、ポセイドン様に怒られるじゃないか。人間にはそーゆう規則はないんだよ」
「頼む、クロネア」
「ふー…………ともかくだよ。アレク。君達が脱走とかしたもんだから、未だに修復が手付かずだったりする建物や仕事の案件も多いんだ」
「分かっている。だから、お前には色んな異世界の資源や人材を集めて欲しい」
「無茶言わないでください。私はそこまでのランクはないです。……ただ、桂さんが言っておられましたが、あなた方が行くのでしたら特に問題にしないとのことです」
「桂…………あいつ」
「カプセルから出ます?ずっと中にいると大変でしょう」




