管理人、ベィスボゥラー登場
人の歴史…………描く者は常に勝者の常識……。
悪を滅したと書けば天使を悪魔とする事もできる。
記録に偽りはなく、記録に思想を捻られない。
「アーライアを管理していた三代分のデータをここに閉じ込めている。人間に渡す事は君が初めてじゃないかな?」
「なんだこれは…………いや、ここは…………」
カキーーーーーーンンッ
ガシャアァァンンッ
アレクは口を開けている。連れて来られた世界はアーライアを記録している場所とはとても思えない。目の前に広がる、謎の人間達による人間達の戦いにポカーンとしていて、何がなんのか分からない。
ボールが今、フェンスに激突した…………。
「いいぞ!いいぞ!!」
「二塁行けーーーーー!!!」
「センター急げーー!!」
「中継二つ!!」
屋外。泥だらけになりながらおっさん達はボールを追っていた。何か白い四角を踏んでいたりしていた。
「なんだこれは?」
「え?野球を知らないの?」
「ヤキュウ?」
「ベースボールだよ、ベースボール。私は好きだよー。無論、ここの管理人も野球好きだ」
「ベースボールも野球も分からないぞ」
頭が回るアレクであるが、何してんだという顔を出している。一生懸命な顔は分かるが、どのような戦いなのか理解ができない。っていうか、こんなところに記録しているとはこれいかに…………。
「まぁなんだい……この世界の事より知りたいのはアーライアだろう。案内するよ」
「そうか」
アレクは朴についていき、結構複雑な通路を通って謎の戦いをしているところがよく見える場所にやってきた。そこでは椅子に座ってペンを握り、本に走り書きしながら
「くうぅー……………」
机に顔を置いて眠っている器用な青年がいる。色や形は違うが、謎の戦いをしている服装と似たようなのを着ている青年に朴は話しかけた。
「ベィスボゥラー。朴だよ」
「かぁー…………」
無視。かと……思われたが、眠りながら立ち上がった。そして、無地のノートをアレク達に見せながら器用に文字を書いていく…………汚い字だ。
【おはよう】
「いや、君。寝てるよね?」
【瞑想中…………】
漢字を上手く書いている。……が、ギリギリで読める程度の字だ。
【隣にいるのはアレク・サンドリュー?大きいね】
「お前。目閉じてんのになんで分かるんだ」
不思議な奴だとアレクは思いながら器用な特技を持つベィスボゥラーに直球を投げ込んだ。
「早くアーライアのデータを貸してくれ!あんたが持ってるんだろ!!」
【いいよ。覚悟してよ】
ベィスボゥラーの方も好きに瞑想して、好きに野球を観戦している最中だ。厄介ごとは早めに終わらせていたいと思っての行動。アレクの覚悟を確かめるまでもなく始めた。朴はその迅いやり取りに忠告すべきだと思った。
グウウウィィン
ベィスボゥラーの役目は自身の誕生から、"無限牢"内で起こった出来事を全て記録する事である。桂が守っている"和の国"吉原の"遺産もない図書館"は管理人側が現れる前の歴史のため、誰もその価値と必要性を持っていない。なぜなら全世界が変わったからである。
管理人にとっては今こそが大事、管理を始めたその日からが大事なのだ。始まった世界の記録を正しく、一つも間違うことなく残すというのはとても大変な事である。あそこのように誰もが理解できるようでは危険であった。
ベィスボゥラーの"ユースフルスイング"という魔術は彼だけが記録でき、自分の任意で閲覧する事ができる魔術。記憶ではなく、記録であるからこそ完璧であり、記録に思想が存在しないため
他者に影響なく情報を伝達する事ができた。
人間ではない。だが、心がないとは言わない。それが"管理人"という奴だ。複雑であるからこそ、ベィスボゥラーの役割は非常に高い。歴史や認識をそのまま閉じ込める役目だ。
【データを脳に送る】
「!!」
【せいぜい、死なないで】
「ちょ!ベィスボゥラー!!全部をつぎ込むのはお止めなさい!!」
アレクの脳内にいきなり大量の記録を送り込む。それはポセイドンの代から始め、朴の代までのアーライアでの観測記録。拒否する事も許さずにアレクの脳に流れ、瞬間的に彼が大絶叫、阿鼻叫喚。視界には黒色明朝フォントの文字の大群の幻覚が映る。
「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
アレクの叫びを……静かにするために朴は"カスタネット・ギバン"で掻き消した。だが、声だけは消えても、アレクのもがく様は変わらない。頭を押さえ、両足をばたつかせ、ゴロゴロと転がっては壁に激突していた。
ゆっくりと時間を掛けて記録を渡すべきなのだ。
ベィスボゥラーは朴に語った(書いた)
【これを耐えられないようじゃ、人間は助からないよ】
「……ふぅ、やれやれ。あなたも私と似た性格でしたか。頭が爆発したら大変な問題ですよ」
ベィスボゥラー
管理人ナンバー:009
スタイル:魔術
スタイル名:ユースフルスイング
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