ボロボロに蝕む
時間が辿り着いた時。春藍とネセリアを一瞬で"SDQ"によって体が朽ちていった。
何を思い、何を考え、何ができ、何が……………何が思えたのかな?気付かぬ内に死んだ。即死とは本人達には理解できない状態。
その状態からしばらくした。
風が起こる。白い粉が降り積もっている"SDQ"を全て巻き上げる、ライラが発生させた巨大な竜巻が現れた。あまりに巨大でそれを制御するライラも、"SDQ"とは関係なしに大きなダメージを抱えていた。左目から出血し、二度か三度は全ての要である脳に深刻なダメージが入り、おでことこめかみの部分からは打撃でも浴びた跡ができていた。
「げふうぅっ」
ビジャアァッと……紅い液体を口から吐くライラ。
「ぐぅ……」
意志の強さ。それは必ず窮地に発揮される。決して倒れない、潰れない、負けない。
「春藍!!!ネセリア!!!っ!ごほぉっ……」
叫んだと同時に体の中から全てが出そうだった。
ライラは目を抉じ開けて、視界の全てを見た。白に包まれていない、2人とも綺麗な人間を。この状態でも貝状に包んでいる雲を操作している。意地の強さが維持を生んでいた。
「!」
全てを巻き上げた竜巻の中で体が引き千切れそうな姿が見えた。春藍と……ネセリアがいる。二人共、"SDQ"に少し包まれていただけに酷くボロボロだった。そこへ飛びつくようにライラは雲を走らせた。自分が作った竜巻で思うように進まないし、春藍とネセリアは旋回しながら昇っていくからとても遠かった。
必死に追い、必死に伸ばした右腕で……まずは。
ガシイィッ
「ネセリア………」
意識を失っているけど、息は合った。……かろうじで、彼女は生きている。ライラはネセリアを引っ張り出しただけですぐに"SDQ"が当たらない貝状の雲の奥に投げるようにしてしまった。まだ春藍がいる。
「春藍!!」
再びライラは右手を伸ばした。届きそうで届かない距離かもしれない…………。
「っ!」
ライラは勢いのあまり、自分の雲から離れそうになるまで春藍を掴んでいた。出会った時と同じ、胸倉をなんだか上手く掴んでいた。とにかく掴んだ。だが、彼につけられている両足の義足があまりに重く片腕だけでは支えきれない。
契れそうだ。春藍が落ちそうだ。(自分も落ちる)
「行かないで!!」
必死に何かを出そうとするも…………。ライラからは血を出す以外なさそうだった。落ちる。
「………………行かないよ」
「!」
意識が朦朧としているが、春藍には何かが支えている事は分かっていた。苦しそうな声があって、自分も必要とされていた。
春藍は自分の両足の義足を瞬時に外すスイッチを押した。ガヂャアァンッと……両足だけは落下していき、急激に軽くなった春藍をライラは抱くように引き上げながら、自分の雲へと春藍と共に入った。
普通に……無我夢中でライラは春藍を抱いていて、
「良かった。春藍……ネセリアも生きていて良かった」
「あ、………あ、……ラ、ライラ……?」
香りと優しい温もりでそれがライラだと気付いた春藍。ライラは血以外にも、出せたものがあった。透明で希望を潤す涙だった。一粒が春藍に落ちていた。
バギイイィッ
そして、春藍達が乗っている雲が"SDQ"に蝕れる形で崩れようとしていた。
「………………」
「……ライラ…………」
「……………………………」
春藍とネセリアが死に掛けから蘇られたのはライラが、2人に纏わりついていた"SDQ"をぶっ飛ばしたからである。だが、ライラは2人を救うためにあまりにも大きな負担をかけていた。ボーーーっと……して、今度はライラが意識を失っていた。それを合図にライラが放出していた雲の制御が不安定になる。
「ライラ!!」
「……………」
春藍には状況がハッキリとは分からない。雲の上に乗っている事も分からない。隣にネセリアもいる事も分からない。春藍は手をライラの顔付近に向けて叩いた。彼女を頼った。
パチンッ
「ライラ!ライラ!……ライラ!」
「……!……あ……?……そ、……そっか」
春藍に起こされる形でライラも意識を取り戻した。助けられたという事で心が急激に冷えてしまったし、ホッとしてしまったが……。まだやるべき事があった。どうやるんだったか……。あいつが教えてくれたはずだが、あいつってそもそも誰だっけ状態。
分かるのは春藍が自分を抱いていたことだけだった。(実際はライラです)
ライラはもらった物を春藍に差し出した。余力があるなら、春藍が使って欲しい。
「か、傘…………?」
「…………ん…………」
もう少しだけこうされていたいと思いながら、ライラは再び意識を失った。春藍はライラから渡された傘を触れた瞬間。これが異世界を移動できる道具だと理解した。急いで広げた。