時間漂流
"時間漂流"
仮想空間がなんらかの影響で崩壊した場合、空間に中にいた物体が起こる現象の一つ。現実世界と仮想空間の時間差が異なる事で、現実世界には物体が辿り着いても時間が辿り着いてない。時間が辿りつくまで物体は物体以外は存在や現象が現れることがない。
半分、幽霊のような状態と考えると理解できると思われる。時間が辿り着けば何事もなく、現実世界にいる事となれるのだ。
"SDQ"で満ちているこのアーライアでは何が起こるかは予測不能。本来の"時間漂流"もせいぜい1,2時間だ。それも1,2分で現実世界に起こる程度の現象だ。だが、春藍達は過去にまで、それも大昔まで戻ってしまうほどの強力な"時間漂流"が起こったのはそのせいだ。
「どこまで来たのかな…………」
「わ、わかんないよ」
春藍とネセリアは"SDQ"の上を歩いていた。こんなことを言ったら、潰れてしまった世界には申し訳ないが…………
「綺麗だよね、春藍」
「う、うん…………」
2人は離れずに歩いていく。こんなにも積もってきたということはきっと、もうすぐアレクやライラがいるところまで来るかもしれない。
ネセリアは天を見た。こんな綺麗な有害な存在はどこから降ってくるのだろうか?雪とは違うと思う。春藍は地を見た。崩れたらどうすればいいだろうか。とりあえず、離れないようにしっかりとネセリアと手を握るくらいにしか思えなかった。
こんな時間が長かった。
そして、定期的に起こるこの世界の揺れと地割れに巻き込まれる二人。しかし、埋まるようなことはなく、ただのエレベーターが下へ落ちるような現象で済んでいた。
トタァットタァッ
「!あれ…………」
「?」
誰もいないと思われたアーライアになんと1人の人物が見えてきた。過去の人物であり、時間の流れも速いとあって何百年間もこの世界と戦っていた男。
「ポセイドン様じゃないかな?」
「た、たぶんそうだね」
マリンブルーで出会ったポセイドンとは目の耀きが少し違った。真剣というか、立ち向かう男という印象が強かった。色々な"科学"を持ち出し、研究していた。
『人類に害する物は我が許さん』
その光景が春藍達にとっては1時間ほど、およそ百何年分の出来事
「この世界を救おうとしていたんだね」
「凄い管理人なんだ……………」
だが、やがてポセイドンは何かを知ったかのような顔となり、目の耀きが消え始めた。そして、それから無人となり……………。また別の人物がこの地にやってきた。
「朴さん?」
「ううん、違うと思うわ。誰なんだろう?」
横髪を紐で縛り、牡丹柄のパーカーと白っぽいチノパン姿。ゆる~そうな恰好であった。ポケットに手を突っ込んで瞳の色は綺麗なエメラルドグリーンではあるが、先ほどのポセイドンのような耀きはなかった。ボーっとして、ただ、何かを待っているような人物。
「男の人だよね?」
「うん。中性的な顔立ちだけれど」
ポセイドンは色々な行動をとっていたが、この人物はまったく逆。ただただ……大人しくしていた。しかし、それでも生き長らえる。平然と……………。それだけで春藍達にはこの人物がどれだけ凄いかは理解した。
「何者なんだろう…………」
「声も出してくれないね……」
そして、またそこから経って…………この人物の次に来た人物。春藍達にとっては先ほど出会った管理人、朴の姿が見え始めた。彼が纏っている鈴の音が良く聞こえていた。
「あ、朴さんだ!」
「じゃあもうすぐライラ達と出会えるかな!?」
朴の行動はポセイドンのように活発ではないが、先ほどの人物と違い静観しているわけでもなかった。適量の仕事をこなしていた。しっかりと観測を続け、調査を行っていた…………。それからしばらくして、時間の加速が段々弱まってくることに気付き、自分達の体が"SDQ"に埋もれようとしていたのにも気付いた。
「あ!!」
「もうすぐ、私達のいた時間に戻ってこられる!?」
春藍とネセリアは焦りを出した。そして、ついにアレクやライラどころか。過去の自分達もこの目で見てしまった。
「あーーーー!!私がいるーーー!!」
「僕もだ!!ポセイドン様の"科学"を捨てた時の時間だよ!もうすぐだよ!!」
声は出るが、足が"SDQ"で埋まり始める。行動できる範囲も狭くなっている。
「ライラーーー!!」
「アレクさーーん!!」
「ここでーーす!!」
「助けてください!!」
賢明に声を出す。遭難者からのSOS。しかし、どんどんとライラ達がどこかへ向かっていく。声は届かないし、触れることもできないだろう。
「!!あっ!そうだ!!」
「たしか、この後」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
"SDQ"が溜まりまくり、世界が少し沈むのだ。それに自分達は巻き込まれて、それから…………
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「うあああああぁぁぁぁっ」
「きゃああああああああ」
春藍とネセリアは落ちる。真っ逆さまに落ちる。そして、埋まる。……………二人の時間がようやく辿り着いたのであった。
それは嬉しいようで地獄であると理解できる。自分達の体は今、"SDQ"に包まれてしまった。