アーライアの惨状
ガジャアァァンッ
正式名:Space Decay Quark(空間崩壊因子)
略称:"SDQ"
アーライア全土を覆っている白い存在。ライラが言っていた、魔力などの力を失う事ができなくなった存在である。どこから降ってくるか分からないし、どこから発生するかも四人には分からない。目に映るのはただ白くシンシンと降って舞うだけの粉のようなもの…………。不思議と積もったりもしない。こんなのが本当に恐れられているものなのだろうか?
「実際、触ったらどうなるんでしょうか?」
「や、止めなさいよ!!ネセリア!!桂達が危険って言っているんだから!!」
「アレクさんが操作を握ってますから開かないよ、ライラ」
しばらく歩いているが……見える景色の中で見えないのは自分達以外の生命達だった。動物はもちろん、虫もいない。魔物もいない。人間もいない。
「この方向を歩けば本当に大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫なはずだとポセイドンは言っていたが」
「はず……って」
「ポセイドンの腕を持ってしても、この装備が壊れる可能性があると言っていた。方角をしっかり認知する科学がもう壊れたら終わりだ」
「そ、そんなに破壊力があるの!!?大雪で積もって潰れるのは分かるけど、降り方があたしの魔術より弱いわよ!!」
「そーですよ!」
「ポセイドン様はあの海を造り出したのなら、相当な技術力のはずです」
あまりに拍子抜けと感じるアーライアの世界にライラ達はアレクに言葉を出したが………。
「それでもなんだ。むしろ持っているんじゃねぇか?」
「え?」
次の瞬間から皆がアーライアの恐ろしさを知る。ポセイドンという管理人の最高責任者にして、"無限牢"内で最強の科学使いがいたとしてもこの世界は狂っている。
バギイイィッッ ボギイィッ
唐突にアレクとネセリアのロボットが緊急停止し、アレクのは左腕が。ネセリアのは右足が折れるような現象を起こした。無論、2人共唐突の行動不能状態になった。
「ちょっ!?ネセリア!!」
「アレクさん!!」
ボギイィッ
待たぬと伝えるように春藍もライラのロボットも機能停止になる。まだ歩いて5分ほどしか経たずに全員が行動不能の事態に陥った。何が原因で止まったのかは四人共しっかりと理解できるが、理由がついてこない。
「動かねぇ……完全に止まったか。おいおい、こいつはやばいぞ」
「と、止まったって!!ええぇっ!!?」
「僕の"創意工夫"で動けるようにやってみます!!」
「わ、私も頑張って動けるようにする!」
春藍とネセリアはポセイドンの科学を操作し始めるが、……テキトーに動かしてもまったく機能しない。完全に停止状態。その上から襲い掛かってくる"SDQ"
バギイイィッ
「い、今!これが大きく凹んだわよ!!」
「凄く硬そうな素材ですよ!なんでこんなことが!?」
「か、考えたくないけど……僕達がこれに触れたらどうなるんだ」
「ある意味助かるかもな。恐怖を忘れそうだ」
バゴオオォォッ
「!!」
春藍達はマリンブルーで体験した魔物に囲まれた時よりも恐怖を感じた。それは、やはり生き延びたから和らげられた。だが、今回は事前に危険と分かっていてなおも準備してあったというのに。ほぼ無意味であった事。想定する恐怖よりも、現実に起こった恐怖は全員が震えることとなる。備えで守られる恐怖は脅威ではない。
ガギイィッ
「あぁっ」
まずは春藍のロボットの外殻が剥がれ落ち、"SDQ"が春藍に降ってくる。淡く優しく落ちながら、春藍の左肩に当たった。瞬間に強烈な痛みと変型を起こした。
「!!うあぁぁぁっ!!?」
メギィメギィと左肩が変わっていき、そこから何かが生まれてくる。体の栄養分がドンドン奪われている。だが、それを待たずにどんどん降りかかる。次に髪に当たった"SDQ"は水を宿し、髪全体はもちろん。体中がビジャビジャになったかと思えば、マリンブルーにやってきた時に起こった呼吸困難。本当の呼吸困難。春藍の体は水のベールに包まれた状態になったのは2秒も経たなかった。その水のベールに包まれていても貫通してくる"SDQ"は、容赦なく春藍を襲っていった。今度は身体が切り刻まれた。次に当たったのは自分の体を4つ折りにさせた。次に当たったのは耳元で罵詈荘厳が。次に当たったのは自分の体に文字が書かれた。次に当たったのは身体を溶かせた…………。
そして、ライラ達にも"SDQ"がどんどんと降りかかる。
焼かれたり、凍えたり、骨を折られたり、幻覚を見たり、急激な老いや急激な幼児化、突然に現れた槍に刺されたり、毒をもらったり、心が怒りや愛しか感じられなくなったり、体が耀きだしたり、殴られるような痛みも、血が爆発したり……一撃を浴びた瞬間に誰も自分以外の事も考えられないし、痛いと苦しいといった言葉しか出なかった。そして、全員がその次の段階まで跳んだ。
四人は初めて、本当の恐怖を体験した。そして、恐怖が消えた瞬間に自分達は生きる事をもなくした。




