最高責任者としての……………
ライラの話が終わりを迎えた頃、
「僕の気になる事を訊いていいですか?」
「構わんぞ。何を訊きたい」
今度は春藍のターン。ここまで来るのに合計5つの異世界を回った事で疑問に思えたこと。両足の義足が少しだけ滾っていた。
「か、管理人には色々いるって思うんです。僕の、その。この両足を消してしまった管理人や、マリンブルーでやっている危ないレースを行っている管理人(?)に対しては。ポセイドン様はどう思っているのかなって…………桂さんよりも上の方なんですよね」
管理人の最高責任者であるポセイドンを目の前にして、おどおどしているがちゃんと訊いてみた春藍。
フォーワールドから彼は彼なりに"管理人"に対する不満のような物があった。桂やモームストなどの管理人や世界は確かに良いものだと理解できるが、ウェックルスのような独善的のような事には何もしなかったのかと、……本当はそこまで行きたかった。
「まずは勘違いしないで欲しいことがある。マリンブルーのレースについては、ガイゲルガー・フェルという者が行っている。我は場所を貸しているだけに過ぎない」
「は、はい」
「そうだな。先ほどの話と繫がるかもしれんが……我は管理人の最高責任者として造られた。だが、それは全ての管理人を正しく導く事ではない。管理人は管理人独自のやり方で世界を壊さなければ良いという線引きの判断をするのが、我の役目だ」
感情というのはないと思っているが。……それなりの派閥がある事から似たような何かがあるのは確かである。ポセイドンも桂も思っている事だ。
「管理人というのは人間を管理し、保護するのが目的なのだ。一個人のための幸せは我等に訴えるのではなく、自分に訴えるべきであろう」
幸福を知っている者が言いそうなことをポセイドンは春藍に説いた。けれども、春藍は反旗を掲げる。
「か、環境が重要なんじゃないですか…………。その……やっぱり、管理という言い方が僕には少し」
「なら自由が良いのか?本当に良いと思うかね?君はあまりにも単純で純粋な目をしている」
世界とはそれぞれのルールというのがある。世界にある国にも細かいルールがあり、国にある街にも細かいルールがある。そして、世界にいながら国とは独立している会社というのもある。君が働いていた技術開発局がそうだ。
「君には技術者や科学者としての器量はあるだろうが、世界に適応できない」
「う」
「そんな君の腕だけをとった、"管理人"やアレクくんがいてこそ価値があるんだ。自分にしか価値にならない道具や技術、努力というのは無駄というのだ。分かるな?自分の好きで力をつける者は環境に適応にできん」
かなりバッサリと言うポセイドン。
だが、春藍の言い分は自分が幸せじゃない事はみんなが幸せじゃないといっているような。極論であり、自分が本当に幸せであって、相手が不幸だと思ったら賛同するだろうか?相手の不幸を譲る覚悟はあると思うか?
誰も、人間にも、誰にもありえないことだ。みんなの幸せが、自分の幸せというのはこの世にあってはいけない理不尽である。絶対にねぇーんだよって達筆で書いて貼り付けたい。
「ポセイドン様は人間を………あまり大事にされてないんですか?」
「問題なのは1人の人間ではないのだ。1人1人の人間が重なり合って作り出す世界が、我々にとって重要なのだ。我々が生まれる前もそうだが、とてつもない大きな一つの世界が壊れたことで滅亡するのが人類だ。我々は世界と人間の中間に入り、齟齬がないよう調整するだけに過ぎんのだよ」
1人の人間が幸せについて、考えるのではなく。一つの世界が幸せに回るようにする。できるだけ多くの管理人なり、人間が思うべきことだ。だが、世界が回るというのは苦労が多いものだ。
「春藍くん。勉強になったかね?世界の回り方は自分の幸せだけでは動かないのだよ。苦しむ者、負ける者がいてこそ、勝利が生まれ、それらを拒むように努力もするんだ。また、その努力を吸う虫のような人間もいる事を忘れてはいけない」
春藍は強く。…………どこか負けたかのような。悔しい気持ちが沸いた。何をどう言えば良かったか。不幸せになる人や、死んでしまう人がいて…………。それを正論と認めるわけにはいかないはず。ダメだって……
「死ぬことも役目なのだ。君達がこれから向かうだろう、アーライアは安全な場所ではない」
「!」
「行くのだろう?我はそのために準備しておるのだ」
少しだけ空気が重たくなったところでポセイドンは立ち上がり、アーライアの管理人に連絡する事を春藍達に告げた。
もうまもなく。春藍達は知るのである。




