アレク VS クロネア
タタタタタッ
「!」
「あんっ」
もうすぐ、地下通路でベンチェルロ広場の真下に辿り着こうとしていた。
だが、猛烈なスピードで追いかけてくる1人分の足音を、ライラとアレクは聴いた。
管理人である事は一瞬で理解できた。そして、その管理人は1人であること。
こっちは四人だ。だが、
「春藍、俺のライターを持て」
「え!?アレクさん!?」
「ええっ!?」
突然、アレクは春藍に自分の"科学"であるライターを渡したが、すぐさまポケットから同じのを取り出す。
「心配するな、ライターとタバコをいつでも持っている。先に行け、命令だ」
「は、はい!気をつけて」
「先に行きますね」
アレク先導から春藍先導に変わった。早足で春藍とネセリアは進むも、ライラは
「まさか、あんた。1人で足止めする気?」
「足止め?ちげぇな」
タバコを加え、火をつけ。煙を吐いた。
「管理人を焼いてやろうと思っている。春藍達を任せるぞ、ライラ。できるなら俺を待ってくれ」
「!あんた、やっぱり戦えるのね?」
「ほどほどにな」
春藍達はライラを完全に忘れて置いて行っている。彼等にとってもちょっとしたパニックなのかもしれない。
「分かったわ。あたしとしては足止めの方が助かるから」
「少しは待てよ」
頼りになるのか、ならないのか。お荷物のような気がする2人だけど、一緒に連れて行く事をここでもしっかりと決めるライラ。アレクを置いて春藍達を追った。
それから数分後だった。
「追いついたというのに、アレク1人か」
「随分走ったようだな、クロネア管理人」
やってきたのはクロネアである。彼も直感的に地下通路を通って向かっているのではないかと、推測して降りてきた。
そして、アレクの科学で明るくなっている地下通路を見て確信。
ベンチェルロ広場に到達する位置まで走り、現在。アレクと出会ったわけである。
「そこを退け。そして、仕事に戻れ。アレク・サンドリュー。管理人の命令だぞ」
「悪いが俺はお前等に教育された覚えはねぇんだ」
「ふっ。その癖、優秀とは困ったもんだよ。ホント」
アレクは春藍やネセリアとはどこか違う。そのことは管理人であるクロネアはよく知っている。
「ではどうするか?決まっている。君を倒さなくてはいけないな」
「ほぅ」
「君は偉そうにできるかもしれないが、それは"科学"を作っている時だけだよ。命を賭けられる場を体験した事はあるかい?」
クロネアはアレクに揺さぶりを掛けたが
「お前こそ、"科学"を馬鹿にしてんじゃねぇぞ?」
「!」
「製造ってのはな魂を賭けてんだ。命を捨てる覚悟を持って作っている。だから、死んでいる人間もいる。テメェ等はその魂すら排除したいようだが、無理な話だぜ」
作りたいって思った瞬間、魂は懸かっている。
「?物作りの理論は私には分からないけど、戦闘では私の方がよく知っているよ。勝った方が正しいんだ」
「まだ甘いな。俺達は作った時点で勝ちなんだよ。使ってみろよ、テメェの"クロツグ"って魔術をな」
シュボォッ
アレクのライター、"焔具象機器"はメラメラと大きく燃え上がる。アレクと同じくらいの高さの火柱が上がっていた。あれに触れれば一気に焼かれる。だが、触れなければどうという事はない。
"クロツグ"を止められる力ではない。
クロネア
スタイル、魔術
スタイル名、クロツグ
一定範囲の空間の時間を止める能力。
時間を止められた空間内は誰も干渉する事ができない。空気も、その中にある雨も、人間も、誰一人も動けず時間が止まった事すらも理解できない。
"クロツグ"の優秀なところは完璧な捕獲とチームワークを大きく活かせるということ。ライラを倒した時のような連携にはとても有効である。
時間を止めた空間以外では、当然自由に動く事が可能であるため、迎撃や追い討ち、態勢の立て直しなどにも非常に優秀だった。
"クロツグ"の有効範囲はクロネアからおよそ20~30mほど、視認できる距離まで。
さらに結論。
ピィィッ
静かに瞬間的に発動できる"クロツグ"は、単純なタイマンでも超優秀。アレクがいかに戦おうと見せても、"焔具象機器"を発動していても時間を止められていれば何もない。
「君には今、何が起きているか理解できないだろう?これから何が飛んで来るかな」
クロネアは懐から取り出したのは、針が紫色という毒々しいダーツ型の科学、"鏃穏"。
当然針には毒が仕込まれており、刺されば相手の意識を徐々に奪っていく。
"鏃穏"を周囲からアレクに目掛けて飛ばす、"クロツグ"が発動している空間に侵入した"鏃穏"はそこまで時が止まって、動かなくなるが。"クロツグ"が切れた瞬間にアレクに飛んでいく。これを全て防ぐ事はアレクでなくても不可能。
クロネアの攻撃のセットは完了した。
「終わりだ」
"クロツグ"の魔術が解ける瞬間だ。わずかに速かった攻撃がやってきた。アレクにもクロネアにもそれは理解できていない。だが、アレクだけは予感がしていた。時が止まった頭の中では成功をイメージしていた。
チィッ
発火時刻が迫る。
"クロツグ"は捕獲対象を捕まえるには優秀であるが、それ以外の対象がいるとやや不向き。時を止められる空間は常に一箇所が限界。アレクも、アレクの使う"焔具象機器"も時は止まっているが、すでに設置していた罠は何事もなく、時間が動いていてその発動条件を満たした。
「!」
クロネアは"クロツグ"を任意で解除すると思っていたが、
ドオオォォンッ
アレクからの予想外の攻撃。クロネアの下から、それを含めて合計5箇所の地点で巨大な業火が現れた。一瞬でクロネアの身体は黒焦げとなり、炎に包まれ倒れ、転がり回った。
「かうぅっ」
炎の大ダメージによって"クロツグ"が解けた。アレクの時間が動き出す。動き出す、ライターの業火。セットしたダーツはアレクに纏わり着く火が、焼き落とした。
「"炎獄爾来"、これでお前はくたばる……っと、決め台詞を言う前に倒れちゃ困るな、クロネア。俺がかっこ悪いだろ」
"クロツグ"を攻略した割に、カッコイイ感じではない。もう少し、発動前に喋らせてくれたら良かったものの。というか、アレクさん。ダンディかつクール、ワイルドなおっさんの癖に中二やないですかい。
「ぐうぅっ。こ、こんな炎に」
"管理人"は人間じゃないため、これほどの事でも死ぬ事はない。だが、一撃でしばらくは再起不能の状態に追いやった。
次に攻撃を浴びれば、死ぬ。身体を消し炭にされる。人間に殺される管理人など恥でしかない。こうしてやられる事すら、精神的に痛む。
「元気でな、クロネア。二度と俺の前に姿を現すなよ」
「!?」
しかし、アレクのとった行動はサヨナラだった。
「テメェを殺したらここを誰が支配する?俺もいなくなるこの世界は大分荒れるだろう。今以上に死に掛けて守ってみろよ」
"管理人"は黒焦げ程度なら生き延びるし、再生する装置もある。
アレクはこの世界の無事を考えて、クロネアにトドメを刺さずに春藍達の方へ向かった。