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RELIS  作者: 孤独
”遊園海底”マリンブルー編
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ポセイドンの腹心

「さぁ、椅子に座ってゆっくりしたまえ」


春藍達はポセイドンに四階の客室へ案内され椅子に座った。最初は棘のある発言をしたポセイドンであったが、あっさりと四人を受け入れて自ら四人分のコーヒーを用意してしまう。

ライラは桂を経緯に警戒心を出して、アレクはライラを真似るようにポセイドンを鋭い目で見ていた。


「"母なる場所(グランデ・シースター)"は冷たかったかな?誰でも生存できる環境になる、我の科学の一つなのだが、適応してもらうのは生命達次第という欠点がまだあってな」


ポセイドンの質問に答えるのは春藍とネセリアの2人だけだった。


「や、やっぱりあの海は。海全体が科学でできているんですか?」

「凄い技術ですね。私達のフォーワールドでも見た事ないです!」

「フォーワールド……"未来科学"と名付けた世界か…………その世界からやってきた者か。が、1人だけ違うようだがな」

「え?」



ポセイドンは今まで視線を向けなかったライラの方に向けた。



「桂の養子だな。君達にとっての昔に我は君に会った事がある。最近でいえば、君が色々と派手に世界に穴を空けたことで名はよく聞いていたが……」

「!」

「何ゆえここにやってきた?どうやって来た?偶然とは思えん。理由を述べよ」



まさか桂が自分の嫌っている奴に会わせようとするなんて思わなかったライラ。だが、桂の事を信用してライラは正直に言った。


「桂にアーライアに行ってもいいなら、ポセイドン様(最高位なので)に会って頼めば良いと……。この手紙の入った封筒と仲間と一緒に来たの。ここにやってこれたのは桂のおかげです」

「ほぅ…………あのアホゥめ。そんなことをしたのか。さぞ、大変だったことだろう」


ライラは服から封筒を取り出して、ポセイドンに渡した。綺麗にポセイドンは開封して手紙の内容を見る。どうせロクな中身ではない事は分かっている。



"和の国"吉原より、桂。


拝啓

冷たい深海にて孤独でいられる貴殿には、春の足音が分かっていただけるでしょうか?

ポセイドン様に変わりなくお過ごしのことと存じます


拙者共も皆、元気で過ごしておりますので貴殿もそうである事を願っております。



さて、我が子。ライラがそちらにおられるかと思います。彼女は貴殿も危険と認識しておられるアーライアという異世界への訪問を求めております。拙者は"用心棒"故、決める権限はないと判断し、"最高責任者"である貴殿に選択を委ねました。


あなたも分かっておりましょう。ライラに何かの事態が起きた場合は、拙者は容赦なく。何人でこようとどんな罪になろうと貴殿を叩き斬る所存でありますし、ライラが出会った仲間達にも手を出さないで頂きたい。拙者にも、ライラ達にも、どうか寛容な選択を選んでいただきたい。



もう一つ。

ご存知かもしれませんが、"黒リリスの一団"についての新たな情報を提供いたします。

パイスーを団長とした一団でありますが、彼等は2代目であります。"RELIS"という前世からの遺産によってそう名乗っているのでしょう。

元となっているのはパイスー、ザラマ、梁河の三名の前世に存在した、幻想王国"マーティ・クロヴェル"にあったレジスタンス名からです。覚えておりますでしょうか?貴殿と共闘したことが懐かしく思います。それほどの敵でありました。

彼等が求めているのは我々の管理体制からの解放である事は承知なはず。ハーネットがこの時代に辿り着いていない事が我々にとってはラッキーでしょう。彼とパイスー等が組んだ場合、今の拙者と今の貴殿が手を組んだだけでは太刀打ちできぬかもしれません。封印している彼の者を呼ぶという選択をとるか、お互いまた血みどろの決戦を行うか…………。

ガイゲルガー・フェル、インビジブル、粕珠の三名が時間を稼ぐ間に一刻も早く決断を済ませるべきであると拙者は思っております。

また、拙者は貴殿とは戦いたくはない敵であることは胸中感じております。なぜなら貴殿は拙者が認める強者でありますのです。



良い返事を待っております。




「…………………」



貴様と共闘する気などもうまったくないが…………。

さらに強くなりおったパイスーに、ザラマ、梁河。……それに謎の人間。若。スピードならば桂よりも上のインティ。管理人、ユミサをタイマンで倒す戦闘力を誇るリア。"黒リリスの一団"にさらなる戦力が増強されると予想すれば……。前半と後半で温度差が違うのは相変わらずか……。今は前半だけを見ろということか。



「あの、何が書かれていたのですか?」

「なに。いつもの桂の文面だと思ってな」


ポセイドンはもらった手紙をビリビリと破いた。二度確認する内容ではないし、もう頭の中で覚えた。

黒リリスの一団の事は今起きている出来事を解決してからとして…………。脅迫&無事じゃなければ戦闘をも行おうとする桂の文面に恐怖は起きないが、避けたいというのはあるポセイドン。桂から思わぬ先制攻撃を喰らったものだ。


「アーライアに連れていって欲しいか。知っている管理人ならば望んで行く者など誰一人としていない世界なのだぞ」

「!そ、それでも。そこがあなたにもどんな場所か理解しているのであれば、解決するべき場所ではないのですか?」


ライラは手紙を持ってきたのに破いた事を含めて、怒り気味に言ってみた。


「百聞は一見にしかずだ。君の性格には桂が悩んでいるのも理解できるな」

「むっ」

「我は管理人を束ねる者に過ぎん。ひいては人類を管理する最高の責任者だ。君は人類という我侭と文句しか言えぬ奴らしい言葉を吐いたのだぞ」

「う、五月蝿いわね!!だって!!あたしもまだ分からないけど!!解決するべき事でしょ!!?いずれ、あたし達がこれから先。あなたも含め、消え去る事かもしれないのよ!!ねぇ!?」

「消えぬ命があるのか?潰えぬ種族があるのか?君は歴史を知っているようで知らんのだな」



ポセイドンは溜め息をついてから、全員分の飲み物を用意した。長い話になると言ってからライラ達と向き合った。



「君は知っているか?人類とは、我々が誕生する前に一度滅びかけたのだ」

「それは知っているわ!桂からも聞いているし!!」

「本来ならばそこで滅ぶのが生命の宿命なのだ。奴等は滅びを拒否し、我々を造り出し管理される事を望んだ。足掻きに過ぎん。人工物の心臓、人工物の脳みそ、人工物の両手足。それらが取り付けられた者が、私は人間ですと大きく口を出せるか?君はそいつを人間と認めるか?君の友達もそいつを人間と認めるか?」

「う……」


ライラはポセイドンの言葉に春藍の姿を少し見てしまった。だが、ポセイドンのたとえはさらに心理を突く。


「寿命でくたばりそうで寝込むしかできない爺の言葉が、まだ生きたい。それを可哀想だと思い、息子や嫁、婆が賢明に働いたり介護を行い続けて。爺が最後まで生き残る物語にとても涙が出るか?感動するかね?」



考えたくもない事だが。



「人間は死ぬしかないのだよ。結局。あそこで滅びなかった人間は、我からすれば世界中で最も罪な生き物だったのだよ。結果残したのが、アーライアの惨状だ」

「!!人の罪は人が滅ぼすわよ」

「1人の罪とは2人以上の犠牲が付き物だ。連続殺人犯の命はソイツを死刑にすれば済むと思うのかね?遺族の傷は修復されんだろう?」



ポセイドンの例えは極端かもしれないが。極端というのは異常事態を示しているサインである。そのサインが出ているアーライアは、管理している世界の中でぶっちぎりの危険な世界であるのだ。



「とにかく、我もこうして桂に脅されたとあっては慎重に考えたいものだ」



ポセイドンはまた短く深く考える。ここでライラを始末すれば桂との戦争に発展する。負ける気はしないが、こちらが痛い思いをし、なおかつ"黒リリスの一団"という厄介な組織がいるとやはり前回やったように桂とパイスーを同時に葬るのが理想だった。

だが、ライラをアーライアに行かせ、ライラが死ぬという結末になった場合。桂がポセイドンに戦争をふっかけるとは思えない。奴はそーゆうところは義を通す。あくまでこれはこの場で始末した場合の時に起こる事案だろう。厄介なのはライラではなく、2人いる。

春藍慶介とアレク・サンドリューだ。

アレクはフォーワールドを支える強力な人材。替えがいない人材故に、全世界に二十年ほど影響するだろう人物。

春藍慶介は先日のライラの行ないの主犯(名目上)と、ウェックルスを殺害したという罪で粕珠に始末させようと考えていた。


この2人をポセイドンがアーライアに行かせて死なせた場合。本来、やるべき職務を放棄したポセイドンの罪は大きい。彼は最高責任者だ。然るべき処分をするべきである。だが、その当たり前の処分はライラの希望を折る事となり、ひいては桂が本気でポセイドンを討ちに行く可能性がある。


「…………………」


特にこの場で春藍を粕珠のところに連れて行くとなれば…………。ライラは仲間を失う事となる。前半の文面通り、桂はポセイドンを殺しに行く。ポセイドンも桂との直接対決は極力避けたい。桂が後半の文面にワザと意識させるように"黒リリスの一団"の情報を書いたのは、仮にポセイドンが桂を倒したとしても残る戦力では、パイスー達は決して倒れないだろうという印象を与えるのには十分であった。ゼオンハート達を失い、桂もいない、制御不能の三名の管理人、失えない管理人達。実質まともに戦えるのはポセイドンのみでは"黒リリスの一団"を相手にするのは無理。だが、桂もまたポセイドンを倒してしまえばパイスー達には勝てない。

管理人としての職務と、管理人としての状況は必ずしも一致しない。むしろ桂が最悪か…………。奴め、玉砕覚悟で殺しにこようと伝わる。



手紙の内容はアーライアに行かせるまでだろう。その先でライラ達がくたばるとすれば、残るのはポセイドンの職務怠慢だけだ。よほどの理由がない限り、危険な世界に人間を送るのは罪となる行ないだ。そもそも異世界に人間を行かせることも罪だ。



「ふっ…………桂にまた因縁をつけるのは勘弁しておこう」

「!」

「よかろう、連れて行くくらいなら我がやってやろう。だが、それだけの覚悟は皆してほしい」



ポセイドンは桂と"黒リリスの一団"に屈する形で最良の選択をした。大事なのは規則、重要なのは状況判断。この罪は仕方なしに、桂を道連れにして心を納めるとする。

しかし、四人の無事をもポセイドンがしなくてはいけないのが非常に余計であった。



「準備には少々時間が掛かる。まぁ、君達は桂に招待された上に色々と面倒に巻き込まれたのだろう?今日はこの館でゆっくりしていくといい」

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