フレン・バリン
第二レースを春藍達、"ピーチパラソル"だけが唯一クリアを成し遂げた。
春藍やネセリアもスライダーを降りて水の流れに乗りながら、参加者達の無残な姿を見てやってきた。
「何があったってより。このレースは何をあたし達にさせるのよ?」
「ま、魔物が人を襲っていたんですよね。アレクさんは無事かな?」
「でも、アレクさんの死体がなくてホッとしますね」
「変な見方をするわね、ネセリア」
ライラは通りすがりに襲った魔物らしき死体を発見した。おそらく、というか。絶対にアレクが倒した魔物なのだろう。この世界に来た時から思ったが、ここの環境は明らかに人間に向いていない。イビリィアと同じ、魔物のための世界なのだと思った。
そんな世界で人間を遊ぶようなレースというの名の殺人ゲーム(それよりも悪意あり)を企画して、実行している奴はどう考えても、ここの"管理人"だけではない規模で動いている事が分かった。
桂とは間逆にいる"管理人"だ。
流れる事、10分ほどして。最終地点に辿り着いて、そこには左腕を負傷して待っていたアレクの姿があった。
「アレクさん!!大丈夫ですか!!?腕が!!」
「お怪我がありますよ!!」
「心配いらん。修復はあとで良い」
春藍とネセリアがアレクの負傷を強く心配していたが、ライラとアレクはこの空間に異様さを感じ取った。流れて辿り着いたところは檻のような頑丈な何かに囲まれており、ライラ達がやってきた場所にも檻が現れて完全に閉じ込められた状態に。
そして、自分達が囚われた向こう側には見た事はないがどいつこいつも凶暴そうな大型の海中の魔物達が腹を空かせて待機していた。
ピンパンポーン
「!」
『これから最終レースを始めます』
声の主はガイゲルガー・フェルであった。異世界から特別なマイクを通して、ライラ達に届くようにしていた。
『最終レースの競技名は"フレン・バリン"。よく考えて、よく選んでくれ』
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
「これから何をさせる気だ!!」
ライラとアレクがほぼ同時にガイゲルガー・フェルに文句を出した。この状況を警戒しない方がオカシイ。だが、ガイゲルガー・フェルは聞く事もなく喋り続ける。
『君達の檻の向こう側にいるのは選りすぐりの100頭はいる超凶暴な深海の魔物がいる。この100頭からどれだけ長く生き延びられるかというレースだ!もっとも長く生きのびたチームが優勝だから頑張ってくれたまえ!!ちなみに1チームだけだと、消えるまで続けるのでご注意ください』
「だから!!ちょっと待ちなさいよ!!」
それはもうレースじゃねぇ!!完全に運営側が殺しに来ている。たとえ、複数のチームがここにやってきても全滅するしかない仕掛け。
あまりにも理不尽過ぎることと、撮影が難しいために好んでいるユーザーが少ないが。ガイゲルガー・フェルは好んでいる。この圧倒的な理不尽さに人間はいるべきなのだ。
「一方的に話すあんたは何者!!?」
『さぁー。スタートだ』
「ライラ!!止せ!!戦うしか道はない!!」
「こ、こんな大型で……」
「沢山いますよーー!!」
四人は互いに背を合わせるように構えた。同時に自分達を守り、逃がさないようにしていた檻が外れて猛烈な勢いで魔物達が襲いかかってきた。
「か、桂のバカーーーー!!なんなのよ!!この世界は!!?"ピサロ"なしで勝てるわけないでしょ!!」
「と、とんでもない事に巻き込まれてましたね!!」
「…………100頭という事は1人で25頭を潰さないといけねぇな」
「そんなの無理です!!」
こんな叫びだ。強い絶望に向けられる瞬間に、吼える言葉ほど無意味なものはない。あとはなんとか足掻いて、必死に。望むなら1人1人生きて欲しい。助けてやれないんだって、気持ちを抱きながら自分のためだけに奮戦して欲しい。見捨てるの良し、盾にするのも良しだ。ガイゲルガー・フェルは人間の感情から言わせてもらえば
「性根が腐ってる奴ね!!」
ライラが激昂して言うほどのゲス野郎。桂などが勝手に思っている、管理人ゲス野郎3人衆の1人に入るだけはある。
「失敬な。ME、インビジブルや粕珠と同列に並べて欲しくはないな(奴等がゲス野郎ツートップ)。MY、行いは人間が活動するためには当然あるべき事なのだ」
ただ、人で遊ぶことが愉しみなんだよ。
「何秒持つと思う?一番近い者には何かをプレゼントしよう。私は1分半だ」
「支配人、私めは40秒と思います」
「私は30秒」
「私は粘って2分かと」
部下達に生き残るタイムを聞いてちゃんと計っているガイゲルガー・フェル。止める気なし。そんなただの楽しみやワクワク感しかない賭け事の話をしている間にも、春藍達の必死な奮闘があった。
恐怖や怒り、絶望の中で生きようと懸命に離れず、傷を負いながら。持てる武器で襲ってくる魔物に抵抗した。
他人に賭けている者達と、自分に賭けている者達は違う。本当の必死さがない。いけない事だろとガイゲルガー・フェルは思っている。前者のような奴は自分で自分を変えようとしない。生きている価値はなし。でも、人間だ。チクショーが、どクズのくせにして。あぁ?あぁ?なんでこんな奴を管理しなきゃならねぇんだ。アホかってんだ?
そんな奴等の管理を任されているガイゲルガー・フェルはいつの日から、理不尽や賭けに人間を追い込むようになった。好きになった。努力も才能でもない。自分で今を生きようと、変えようとする人間の底力に。
だが、その底力にちゃんと現実を見せる。日々の行ないが大切かを教えるのには、理不尽のようで当たり前だろと言いたいものがある。魔物から逃げ延びようとしても、毎日ダッシュや走り込みをしていない肥満体型の輩には無理だろう?それこそできたら理不尽ではないか?
ガジャアアァァッ
「ぐうぅっ」
「痛……………」
アレクとライラが集中して攻撃を受けていた。ネセリアには周りを見ている余裕がなかったが、春藍は少しの成長からか、2人が自分達に来るべきダメージを負っている戦いが分かった。二人とも、強みが生かせないというのにとんでもない事をしている。
けれど、分かっているけれど。このままじゃ全員、殺される。
なんとか四人で1分を過ぎたが、全員が傷だらけになっている。平等な傷を負っているわけではないが、もうすぐ終わりそうな状態になった。
「どうやら、MY、勝ちのようだな」
ガイゲルガー・フェルの賭けた、1分半にさしかろうと瞬間だ。待ったをかけるように理不尽というものがやってきた。
「!!」
何かの気配を察したアレクは3人を両腕で掴んでさらに下へと潜った。突然に出来事に全員が、何をしているんだと思ったが、その答えはすぐにやってきた。海中にも関わらず、ただ白く耀く光の太い線がアレク達を襲っていた魔物達だけを狙うように屈折して貫いた。
ズバァァァッ
【ぶぎゃあぁっ】
【んごおぉっ】
貫かれた魔物には穴が空いた。謎の強烈な白い光を発している謎の円盤の形をしている小さな科学が、嘘のように100頭はいた魔物達を一方的に消し飛ばしていく。とてつもない攻撃力を持った科学の力は、アレクも春藍なども見た事はなかった。
「な、なによアレは!?」
「わからんが……」
「も、も、もしかして助かったんですか!!?誰の"科学"なんですか!?」
「あの科学はなんでしょうか?」
アレクは3人を離した。全員がその科学を警戒と、不思議を抱いて見ていた。そして、異世界にいるガイゲルガー・フェルにもその仕業が分かって溜め息をついてしまった。
「これは"お主様"の仕業か?あと一歩だというところで邪魔をするとは」
だが、1分以上。なんとか粘った四人の勝ちとも言えるか。
「支配人、いかがいたしますか?」
「…………今日はもう止めよう。残念なことに"今"は奴の方が位も実力も上だ。I、マリンブルーを貸してもらっているだけに過ぎない。今後の楽しみを考えると、退くしかあるまい」
「では、後始末の処理を我々が行います」
「よろしく。I、寝るよ」
ガイゲルガー・フェルも手を退かざるおえないほどの奴。"お主様"。ここの管理人と推測されている者が操っている"科学"は、春藍達を誘うようなスピードでどこかへ案内しようとしていた。
「つ、ついていく?」
「他に行くところはないだろ」
「み、みんな大丈夫ですか?」
「ライラとアレクさんが酷い怪我してる」
「…………迷っていたら、痛いだけだわ。とにかく行ってみましょうか」
四人共、大きなダメージを負いながらも円盤の科学についていく。どこに案内されるのか分からなかったが、付いていく最中に出会う魔物までも退治するこの"科学"はどうやら、春藍達を助けようとしているのは分かった。そして30分もついていくことになったが、見えてきたのは大きな大きな館だった。
人の気配は一切ない真っ暗な館だ。