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RELIS  作者: 孤独
”遊園海底”マリンブルー編
63/634

グッドラックボート②

完走をすればいい。そう言われて、自分の借金を帳消しできるレースに参加した。

40キロ、船で走破する。ただ真っ直ぐに進めば良いと思った。海中で生きられる事にも驚かされたが、そんな驚きよりも表情が青褪めるのは死を予感した時だった。

出遅れたというより、走破だけを考えていた選手達は思っていた事だ。



「始まりましたーーーーーーーー!!!恐怖の!!恐怖の魔物!!降臨!!」

「超大型の魔物!!始動します!!」

「あいつは強いですよ、"深海の番人"ダネッサしか勝てないでしょう。今回は彼がいませんから全員巻き込まれたら死にますね」

「その名も"インキィー・モーニィー"、このマリンブルーに生息する最強の深海の魔物だーー!!人間だろうが、船だろうが、なんだって消化しちまう化け物だーー!!」



レース開始からすぐにとてつもない固い鎖で繫がれていた魔物、"インキィー・モーニィー"がスタート地点に配備された。


【ふっ、ふっ、ふっ】

【はっ、はっ、はっ】


フォークのような三本角、六本足、口を二つ持つ超巨大な獣のような姿であるが、泳ぎがとてつもなく速く。嗅覚と水の流れを感じ取って、標的を残さず喰らい尽くす。

競技場の人間達はこいつを7頭ほど飼っている。幸いな事にこいつには知能があり、タダで飯を食えて遊べるこの立場を気に入っているらしい。腹が一杯になれば大人しく鎖に繫がれてくれる。だが、その不自由な生活で溜まったストレスを吐き出すかのようにレース中での大暴れは選手達をどん底に突き落とす。




フヒュイィィンッ



ボートのエンジンを全開にしても追いつかない。最高速も加速も深海で最速だろう。2分もすればあっという間にレースで生き延びている最後尾の選手達が発見してしまう。



「な、なんか来たーーー!!」

「うあああぁぁっ!!」



選手達は絶叫と共に"インキィー・モーニィー"の強さを思い知る。奴の持つ鋭い鉤爪と、どんな海流にも逆らう六本足から繰り出す蹴りはなんだろうとへし折ってしまう。バクバクと二つの口に選手達どころか船ごと入れてしまう。



【むじゃむじゃ……】



走破すればいい。というのがゴールの目的であるが、チンタラやっていいわけがない。何せ競技場は一日だけで3つのレースをこなさなければいけないのだ。

遅い奴は血も涙も残さない。


「くるなあぁっ!!」

【!】


"インキィー・モーニィー"に"波動砲"は通じない。なぜなら奴には水の流れを強引に変える力があり、波動砲のような攻撃を


【んぎゃあぁぁっ!!】



ドビュウウゥンッ



押し返せてしまうのだ。マリンブルーという異世界は人間のような者にとってはとてつもない不利な環境である反面、魔物にとっては好都合な狩場であったのだ。



グジャアァッッ



【ガルルルゥゥゥ】



この海中では"サンタマリア総合船"よりも強い戦闘力を有しており、おそらく残り60分以内にゴールしなければ選手達は死んでしまうだろう。強力なカードが後方に張られてしまった。

そして、選手達の前方にもやってくる強烈な魔物や障害物達。




現在一位、"AuAu"。スピードを意識したボートで一気にトップを走っているわけだが、14キロ地点でようやく姿を現す、"岩石剣山"と呼ばれる難所。ただ海底に串刺しになるような岩場があるだけなのだが、その岩には強力な磁石な役割を持っており、海中の上の方を走っても引き摺りこまれるほどの馬力なのだ。



「うあああぁぁっ、引きずり込まれる!!」

「ス、スピードよりも強力なパワーだ!」



グジャアアァァッ



"AuAu"、"岩石剣山"にぶつかって船が大破してしまう。小さなボートにとってはとてもキツイレースなのだ。スピードを意識しているボート達は"サンタマリア総合船"や"海王連合"、"ラプラス一族"よりも前を走っていったがここで脱落。

そして、"サンタマリア総合船"が一位となって"ピーチパラソル"がまさかの二位という形になっていた。"岩石剣山"まであと1キロの地点だ。



「よっ」

「大丈夫?春藍」

「頼むわよー」



"サンタマリア総合船"の後ろを取りつつ、ライラとネセリアにロープという命綱を持たせ、春藍は船底へと降りていった。海中でも使用可能になった"創意工夫"がここでは大活躍だ。

竜骨と呼ばれる部分を"創意工夫"で"岩石剣山"の磁力と反発する磁力を持つように変化させる。通常のボートならばそのまま串刺しのところをやや浮上する形に留める春藍達。


「"創意工夫"がなかったら危なかったわねー。ギリギリのタイミングで使えるようになって助かるわよ。応用が利くわ」

「ホントに凄いです!"創意工夫"」

「あの、これを使っているのは僕なんだけど」



だが、危機を乗り切ったかと思えば前方に走っていた"サンタマリア総合船"が動き始めた。海底に向かって放たれる波動砲。大型船が持つ波動砲は春藍が改造した物よりも何倍の破壊力があった。衝撃が海中に広がって鬼女丸をも揺らしてしまう。




ガゴオオオォォォッ



「うわああぁぁっ!!」

「きゃああぁぁぁっ!!」



"サンタマリア総合船"はこの"岩石剣山"を武力で破壊し突破。優勝候補にしかできないような力技だった。



「ちょちょ、とんでもない奴等じゃない!」

「どれをとっても使っている物にレベルの差があるよ!」



ライラが上手く立て直す。船が潰れちゃ即終了だ。予想外のピンチを乗り切った直後、後方からもう一つの大型船の姿を海中眼鏡を掛けたネセリアが気付いた。



「た、大変!!大型船が後ろにも来ています!!たぶん、"ラプラス一族"だよ!!」



中小規模の船の小競り合いがあれば、大型船同士の激しい戦闘もある。"ラプラス一族"はスピードを出して"サンタマリア総合船"に接近を試みた。


「こ、これはーーーー!!」

「優勝候補同士の激しい海中バトルが始まるかーーー!!?」

「前々回は"ラプラス一族"が沈められましたから。そのリベンジでしょう。それより"ピーチパラソル"は危ないですよ。巻き込まれます」

「さーーー、始まるぞ!!」



両船ともに火力を上げて放ち始める。中盤に差し掛かろうとするところで優勝候補同士の激しいバトル。春藍達はすぐさま緊急回避を使ってまで、"サンタマリア総合船"から離れる。



ガゴオオォッ



大型船故に双方は激しく被弾していた。だが、耐久力が違い過ぎる。そう簡単には止まらない。激しい戦いは見て、熱気を帯びている者にとっては危機を感じずにただ



「落とせーーー!!"サンタマリア総合船"!!俺はそっちに賭けてんだよ!!」

「リベンジしろ!!"ラプラス一族"!!ここでレースに大波乱を起こせ!!」



煽る。

当たり前を嫌う。

金を欲する。毎週見れる過激なレースに盛り上がる、クズ共。



「人間は愚かだなー。勝ちたいなら自分が参加すれば良いだろうに」

「支配人、それはちょっと……」

「I、分かっているよ。意味が違うって事だろ。ただ、MY、気持ちはそーゆうことだ。あーゆう馬鹿な連中は賭けた金が1.5倍以下しか増えない。本当の勝者はWEだけなんだ。リスクなしで参加費を毟り取るWEだけ」



観客達の応援のような期待感をガイゲルガー・フェルはアホらしーく見ている。世界のカラクリを理解できない人間がやはりゴミのように見える。




そして、レースの方ではこの大型船同士の戦いに巻き込まれないように"ラプラス一族"の後方にいた中小ボートが戦いに巻き込まれないように進路を変更。一時はピーチパラソルが一位を保っていたが、現在は8位になっている状況。だが、集団で行動をしている。

ライラがスピードを落としていた。障害物や魔物を撃退するはずの大型船がいないとなったら、先行するのは危険だ。他の船も同じだ。先ほどまで良い位置を取るために争っていた連中が不気味なほど攻撃を止めて、奇妙な連帯感をとっていた。

この8隻が防御壁であり、主砲でもあった。



「こ、このまま付いていっていいの?」

「ええ。とりあえず、巻き込まれないようにしないと」



春藍達が進んでいくと、次に待っていたのは魔物の群れであった。大型船が前を進んでいたのならこーゆうのも駆逐してくれるのだが…………。もう遅い。

操縦はライラが行ない、甲板に出てその魔物の群れと戦うのは春藍とネセリアの役目だった。



「船は頑丈だから魔物に集中しなさい」

「うん」

「わ、分かったわよ。ライラ」



8隻を囲んでいる魔物の群れは"魚堅い"と呼ばれる生まれてからずっと泳ぎ続けている魚の魔物だ。時速80キロで移動し、目の前に船だろうが岩だろうがあっても堅い身体で貫いてしまう。あまり避ける事はしない。そのため、レース中では厄介な魔物である。



8隻共に自慢の波動砲や突っ込んでくる"魚堅い"を串刺しにする防護の準備をした。不器用ながらネセリアもリアの拳銃に波動砲の機能を加えた物を握った。そして、緊張の中。"魚堅い"が8隻に群れからの突撃を行った。



「来たーーーー!!」

「迎撃だああぁぁ!!」



船に"魚堅い"が衝突するまでに迎撃。強い波動砲なら沢山倒せたり、弱い波動砲でも"魚堅い"の進行方向をずらす事ができるので対処としては大分楽なのだが、船の数の1000倍以上の群れでくるのだ。全部を打ち落とすのはほぼ不可能だ。



ドゴオオォォッ



「きゃあぁぁっ!!」

「大丈夫!!この鬼女丸はかなり硬い船よ!!この程度では止まらないわ!!」



春藍達の鬼女丸はこの中で一番の耐久力を持っていたが、他の船では散々な事になっていた。



バギイイィッ


「ぎゃああぁぁっ!!船底が!!」

「こっちからもやられてます!!」

「数が多すぎるんだよーーー!!」


波動砲の迎撃ミスや、船の耐久力が不足していたチームは瞬く間に"魚堅い"の群れに破壊された。その様子をしっかりとネセリアは見てしまった。


「うああぁっ!助けてくれ!!」

「嫌だああぁぁっ」


船が壊れ、海中に放り出された人達に泳ぎながら喰らいつく"魚堅い"。常に泳いでいないといけない魔物であるため、喰われながら引き摺られるという惨いやられ方。こぼれ落ちる肉も後方の"魚堅い"がしっかりと捕食する。


「いやぁっ」

「目を逸らさないでネセリア!!迎撃をして!!」


とてつもなく怖かった。身体が震えた。それでも。拳銃は握り締めて、あらぬところにネセリアは撃ちまくっていた。



ドパアアァァッ



この群れの数だ。撃てば魔物の一、二匹どころか10匹当たってもおかしくはなかった。改造された拳銃の威力は"魚堅い"を簡単に戦闘不能にする威力であった。

目を瞑っていたネセリアはゆっくりと目を開けて、魔物が自分の攻撃でくたばるところを見れた。



お、同じ事だよね。……私は…………その。



異世界を回ったり、見て来たことで理解するのには時間は掛からなかった。身体が震える方が異常なのだ。生き物としてあってはいけないことだ。身を守るということは当たり前。何かを壊し、何かを傷つける事は当たり前なのだ。怯えることじゃない。



「戦うのよ」



今までライラやアレク、春藍に任せきりだったネセリアが初めて戦った瞬間だった。春藍達にしか分からない事だけれど、とても大きな一歩を出していた。



ドパアアァァッ



「ぬ、ぬ、抜けたーーーーー!!」

「"魚堅い"の群れが脱出した船は4隻だーーー!!」

「やりますね」



春藍達はネセリアの奮闘もあってなんとか抜け出し、ようやく中盤を通り越した。あと関門は2つか3つほどあるらしい。



「ふーーぅ」

「あと少しだね」



先に進んでいる春藍達であったが、その後方ではとてつもない争いが起きていた。始めから手を組んでいたのか分からないが、優勝候補3チームが集まって波動砲を撃ち合っていた。




「あーー!!なんと!!"ラプラス一族"だけじゃなく、"海王連合"までもがやってきたーー!!これはキツイ"サンタマリア総合船"!!」


それも2対1という卑怯という構図をしっかりと現していた。大スポンサー同士の対決だが、1位は2位、3位とは違うのだ。全然違うのだ。ここで優勝候補大本命を叩き落し、とてつもない損害やリベンジをしようとしていた。



ドゴオオォォォッ



「"海王連合"の波動砲だーー!!さすが破壊屋チーム!!"サンタマリア総合船"が凹んだぞー!」

「やばいですねー。非常にやばいですよー。私の給料的にも」



激しく燃える海中での戦場。"サンタマリア総合船"が応戦しているも、数の不利で押され気味。優勝候補大本命がここで倒れるかと思いきや、絶対にバレることのないところからの指示が出された。



「I。"インキィー・モーニィー"をすぐに"海王連合"達の方へ走らせろ」



ガイゲルガー・フェルが指示を送り、海中の後方で燻っている選手達を屠っている"インキィー・モーニィー"はすぐに指示されたところへと泳ぎだした。これらの魔物はガイゲルガー・フェルの支配下でもあるのだ。



「賭けに興味は持つな、勝ちに興味を持て」



勝てる事ができる者のやり方だ。卑怯かどうかなど、観客達にも分からないだろう。魔物と人は会話ができないのが当然なのであるから。それに明らかに"海王連合"と"ラプラス一族"が手を組んでいる時点で彼等が悪者という認識があった。



「んっ!?」

「な、なんで!!?あの魔物がこんなところまで来ているんだ!!?」

【クッシャーー!!】


2対2であるが、すぐさま"サンタマリア総合船"は全速力で逃げに走った。巻き込まれるなんて御免だからだ。優勝候補の二チームが力を合わせても、"インキィー・モーニィー"には敵わない。海中での速度と破壊力は奴の方が上だ。



メギャアアァッ


【カーーー!!】

「げ、迎撃しろおぉっ!!たかが魔物の一頭だ!!」

「止せ!!この魔物に勝てる奴なんていない!!逃げるんだ!!」



海王連合が果敢に"インキィー・モーニィー"に立ち向かったが……わずか4分で船は木っ端微塵、乗組員も全滅。ラプラス一族も大きく損傷してしまったが、なんとかギリギリレースを続行できる状態であり、先に行ったサンタマリア総合船を追いかける。"インキィー・モーニィー"は海王連合を甚振るように全てを食い尽くす。


優勝候補ですら死ぬレース。観客にとっては想像も付かないだろう。100万人以上が優勝と信じたチームの敗北。だが、その裏には名前すら出て来ない奴の陰謀があった。


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