グッドラックボート①
「それではああああああああぁぁぁっ!!!これより毎週恒例!!!マリンブルー競技大会を開催致します!!!」
「野郎共ぉぉぉっ!!!アマ共ぉぉぉっ!!キッチリ見ているかあぁぁーーー!!」
マリンブルー競技大会はついに始まろうとしていた。豪快な実況者2人と冷静な解説者が1人。そして、客席に座る大勢の観客。モニターに映るレース参加者達の船。
海中だというのに異様な熱気がそこにはあった。
「ふぁーっ……すっごい数の船が並んでますねー!!」
「あーぁっ。ちょっと弄くり過ぎて眠いな」
「アレクさん。遅くまで自分の"波動砲"の改造をしてましたよね」
「本番だってのになんで体調を崩してまで熱中するのよ!しかも年長者が!!」
春藍達も鬼女丸に乗ってスタートラインに並んだ。四人共しっかりと食事と睡眠(アレクを除く)をとっており、緊張こそしているものの気負い過ぎてはいない。危険なレースというのだが、それがまだ春藍もネセリアも想像ができていないという事が救いだろう。そして、自分達もできる限りの準備はしたんだ。
「俺は船内で寝ているからな」
「アレクさん、本当に寝るんですか?」
「心配するな、春藍。俺は第2レース用の温存だ。第1レースならお前達だけでも切り抜けられるだろう。そこの、ライラの作戦だからな」
「あたしは夜更かしをしろなんて言ってないわよ!!」
ライラに指をさして寝る理由を伝えたアレク。鬼女丸の船内に置いた椅子に座って眠り始まる。海中でも水の流れで不規則に揺れるというのに寝れる当たり凄いことだ。アレクには立ったままどころか、作業しながら寝るという荒業があると言われたのを思い出す春藍。
「ま。あれだけこのレースには対策をしたのよ。少し先を見なきゃいけない事を考えたら、誰かに余力を残させるべきってあたしは思った。アレクも同じ事を考えていたみたいだけど」
「第二レースってウォータースライダー?みたいな名前の競技だったよね?」
「そ。第二レースは誰が速くゴールするかがポイントになっている奴。アレクにはそこで、突破できるタイムを叩きだしてもらわないと困るわ。じゃあ、準備をしましょうか」
アレクも睡眠という形で、このレースには実質不参加。
それでも練習では3人でこの船を操縦する事を想定した訓練ばかりしていた。少し不安ではあるけれど、船内にはいてくれるのだ。
そして、レートの上位10チームの紹介を熱く語り終わった実況者達。次に簡単なルール説明を解説者がお客様にも分かるように伝え、ついに始まろうとしていた。
「いいかぁぁぁ!!選手達!!全員がグッドラックに帰還する事を願う!!!」
「それではあーーぁぁっ!!スタートだあぁぁっ!!」
第一レース:グッドラックボート。開始!!
それと同時に船がスタートしただけではなく、優勝候補潰しや主催者側からの派手な挨拶が行われたのは言うまでもなく、
ドブウウウゥゥッッ
バギイイィィッ
波動砲や海中爆弾などの科学兵器がいきなり使われた。スタートでいきなり小さい船が壊れるのも当然だった。
「うあああぁぁっ!!いきなり総攻撃が始まった!!早くも10隻は沈んだぞ!!」
脆い船の序盤の定石としては固まった集団からいち早く、向かうべき進路を外れても抜け出すことである。大型の船はスタートで起こる爆発程度では足止めくらいにしかならない。
「今の攻撃は誰からだーー!?っていうか、最初から船を爆破させる気だったように見えました!!」
「例の如く、参加者潰しでしょうね。このレースの過酷さをいつも教えてくれます」
こんなことが当たり前のレース。だからこそ、経験者達の手は速い。
ブウウゥゥンンンッ
「あーーーっと!!まずいきなり飛び出したのは、レート7位!!"俺達スピードモーターズ"だあああぁぁっ!!」
「怒涛のエンジン!!加速から最高速までぶっちぎるが信条のチーム!!!」
「相変わらず速いですねー。4大会前はそのスピードを活かして1位になっただけはありますよ」
ど熱いに実況者2人と冷静な解説者が伝えるレース模様。
爆発が起きた後、"俺達スピードモーターズ"を筆頭にスピードを重視した船が一気に抜けていった。その数20隻。
「わーはははは!!これが俺達のスピードよ!!爆弾や魔物も追いつけぬ速度じゃわい!!」
「兄者!!今日は勝って酒を飲もうぜ!!」
先頭を突っ走る2人組。二人席で海中でのスピードを追い求めた男達の後ろから
「速くてビックリした。現在一位じゃない」
「ははは!!そうだろ!!」
「分かってるじゃねぇーか!!お姉ちゃんよーー!!」
「この速度!!たまんねぇだろー!!…………って?」
二人の背後から襲うライラ。スタート直前に泳いで一番に抜け出すだろうチームの船に乗り込んでいた。姑息だが、有効な一手だ。
「ぎゃあああぁぁ!!」
船から叩き落とされる"俺達スピードモーターズ"。そして、失速。まずは優勝候補の一角が潰れた。ライラはこの船を操作できないため、止まるまで待っている状態である。
だが、続行不可能の状況だろうが船が無事な限り。選手達は船を潰そうと狙った。
「波動砲用意!!」
完走をする事で次のステージにいける条件であるが、敵だという事もあるし、撃墜数もギャンブラーの賭けに入っているのだ。ライラが乗り込んでいる船にドンドン攻撃が向けられた。
「ちょっちょっ!マジで撃つ気なの!?」
ライラも飛び降りて、通る船のさらに下に潜る形で波動砲を避けきる。だが、"俺達スピードモーターズ"の船は完全に大破してしまった。ライラの上をガンガンと船は突っ走る。
「ま、スタートダッシュには丁度良いでしょ」
ライラが取り出したのはCD。丁度、船に隠れる状態になってCDから取り出す。ネセリアから使い方を教えてもらったわけではない。一定時間、CDに収納するという機能をネセリアが施したのだ。
ポウウゥンッ
"掃除媒体"に収納していた鬼女丸と乗っていた春藍達が出てくる。
スタートの爆発を無傷でやり過ごし、さらには一位の船に乗りこんだことで上位をキープ。
ドルルルゥゥゥン
エンジンがかかり、徐々に加速していく"鬼女丸"
「絶好のポジをとったんじゃない?」
「前(上でもある)に走っている大きな船が、レート第一位の"サンタマリア総合船"なんだね?」
中小以下の船がこのレースを完走する秘訣は、大スポンサーや優勝候補の後ろをとる事であった。何ゆえか?っと訊かれると、単純に彼等の持っている主砲となる波動砲が常にこのレース中で使わなくては先に進めないエリアがある事と、障害物や魔物を彼等が追い払ってくれるからである。
とはいえ、その位置はどんな船でも狙う絶好のポジション。中小以下の船はここで力を合わせる事もなく、蹴落とそうとして手持ちの波動砲でどんどん周囲の船を攻撃してくる。
ドウウウゥゥンンッ
「あーーーっと!!!ご覧になれますでしょうか!!?」
「"サンタマリア総合船"と"ラプラス一族"の後方で!!今日も小競り合いが起こったーー!!熾烈なポジション争いだーー!!」
「今回の大型船はその二チームだけですからね」
「ここで、"サンタマリア総合船"からの映像に切り替えましょう!!」
大スポンサーならではの営業。カメラ担当の船からではその小競り合いはやや遠すぎて迫力がまだ少ない。だが、後方や下方に取り付けられている"サンタマリア総合船"のカメラはしっかりとリアリティに熾烈なポジション争いを映していた。
このようなスペシャルイメージを提供する事もお金になるのだ。
「"ピーチパラソル"、"ダックスフントスイマー"、"山井さん"、"H4SUMMER"、"足立さん大好き!これが終わったら結婚してくれ!!by生野"、"如如"、"ゴールゴーン"、"マイトマイト"」
「などなど!!計26隻が熾烈な争い繰り広げております!!」
「今回は大型船が少ないですからこれほどの争いになりましたかー。しかし、まだ後方にいる"ラプラス一族"はもっと凄い争いでしょうね。カメラありますか?」
「今回は残念ながらないんですよおーー!!」
実況者達が言うようにここでのバトルがまず春藍達にとっての第一関門。いきなり良いポジションをとったは良いが、速すぎるかもしれない。なぜなら"波動砲"の主砲というの前方に付けられている事が多いのだ。後方にいる敵を打ち落とすには向いておらず、回避の選択をとるしかできないのだ。
だが、しかし。
「おや!?なんでしょうかこれは!?」
「春藍選手でしょうか?何か準備しておりますが、これは波動砲、にしては小さいですね。しかし、どうやら船のどこでも移動が可能な模様」
鬼女丸の後ろで春藍は波動砲を小型し、車輪などもつけて自由自在に配置ができる物を一台用意していた。兵器としての役目は分かっているが
「ごめんなさい、みなさん」
自分達の後方にいる船に狙われるまでに春藍は口火を切って発射。フォーワールドの科学力とチヨダで手に入れた素材を組み合わせて改造した波動砲は明らかに主砲レベルであった。
ドゴオオオオォォォッッ
「な、な、な、なんとおぉぉ!!とんでもない兵器が出てきた!!」
「"ピーチパラソル"からの波動砲が一気に7隻の船を潰したーーーー!!まるで大型船の波動砲のようだったぞ!!」
「しかも、これがどこからでも発射可能でしたら脅威ですね。今の一撃だけでほとんどのチームがポジションから降りましたよ」
春藍の作り出した波動砲で一気に良いポジションを保つ。"サンタマリア総合船"の背に張り付いて、少しの休憩をとる。
グッドラックボート、現在5km地点を通過した。




