代替
悲劇的な人間が数多くいる。石ころのように転がっている。
時折、悲観して、誰かへの変身願望を抱く。生まれを憎み、人を憎み、己の過ちを見返さない。
「どーなのでしょう?」
わずかに込められた思いは、人が持つ。生への執着。それを敏感に春藍達がかぎつけ、それでも声を出そうとはせず。ヒュールが答える。彼が答えることに、信憑性が高まる。
生き残れると伝えたことで住民達の誤認は確かであり、かといって、タイムマシンと言った事を伝え、証明する事も信じさせてしまう事も難しい。未来の事など、分かるわけもなく。
「6人の生存。それは別の異世界に赴くと、捉えて欲しいのである」
言葉を紡ぐ。それも一世一代。自分の命ではなく、人類の命運。運ぶ。
「私達はこれまで、それを知っているであろう。ここにもおられるように、移民の皆様。苦労をしてきたわけである」
ここが優れたかどうかは、比べる事もできないが。
まったく未知の異世界に流れ着くのは確か。そこに人がいるのか。そもそも世界という形があるのかどうか。
何があるかも分からないところ。
「私達のような地盤があるかどうか、言語も苦労もあったであるな。食べ物もどれだけあるのかどうか……未知数ばかりである。だが、アレク達はそのような未知との経験には慣れている。故に強いのである」
転校、転勤、引越しとかじゃない。全部の世界が、引っくり返された状況に向かうこと。
「私達が向かったところで、生存ができるかどうか。それすら分からない事である。彼等もまた、私達と同じである」
異世界への移動。あるいは、時代の跳躍。
どちらにしろ、住民達の少数がやろうとするにはただの延命に過ぎないこと。ならないことだ。
「具体的には決まってねぇ」
「アレク」
「俺達はただそこに向かうだけだ。あとは何も知らねぇ。成り行き任せになってしまうな」
「そーね。私だって、分からない」
アレクの言葉は事実と、頷くライラ達。
いちお、アレクの技術は確かであっても。その先の未来が本当に救われているかどうかも分からない。
未来に行くという、たったそれだけのタイムマシンと言っていい。すげーこと、それでしかないことだ。
「その世界も無事かどうかなんて、分かるわけがない。俺達が助かるかもしれないというのは、眉唾もんだ」
少なくとも、平和な異世界であるということはあり得ないだろう。
この惨状が全世界に広がっており、かろうじて残っているのはここのみとされている。
助かるといっても、決して。何もかも平和だった、幸せだった。そんなところには辿り着かない。
想像が暗転に働いていく。助かりたいという、無意味な希望が枯れていく。そんな表情で終わることがらしいのか、それとも拒みたいか。
沈黙も、答えか。
「みんな、死ぬのなら。俺達のやってきたことなんか、残らないだろ、なら」
思いもある。
「みんな、死ねばいいだろ!!」
拒否反応。吐き出す者。
「どーあっても、死ぬのなら!ここで全員、助かる奴なんかおらず……死ねよ!終わっちまえよ!平等に終われ!」
ロクでもないこと。精神的な不安。無理心中の感情図。
強さでも弱さでもなく。誰かと一つになりたい。誰かと違うことを拒否する。嫌な仲間作り。
そもそもの立場が違うこともある。ここにいる人間であっても、違い過ぎるものがある。
落ち着けなんて、言葉は通じないのだから。
ヒュールは彼等を信じた声で放つ。まさに、言葉通り。
「彼等を信じるのである!!生きていると、信じるのである!」
「っ」
「これが、この答えが!私達がアレク達に託す出来事であり、一つ一つの会話である!」
何気ないことでも。不安に満ちて、心が揺れ動くこと。世界も、時代も、終わってしまうという時にいた者達が、それでも作ってきた社会の会話。その一つ一つをこうして、口をそこまで出さずに見てもらっている。
「みんなが震えること、叫ぶこと、泣くこと。でも、笑って生きてやることも、彼等は残して未来に刻んでくれるであろう。人類がまた始動した時、終わる事のないよう教訓として私達は生きるのである。恥でも、悲しみでも、不幸でも、それだって人に繋げられるものである」
ただボーっと死ねとも、不幸になって死ねとも、決して。現実を忘れて、アホに笑って幸せ偽って死ねとでも、自分達は強制しない。
これほどの災害でも、死ぬことが分かっていても、人の社会というのが存在していた事。サバイバルでもなく、殺し合いでもなく、その場凌ぎでもなく、利害の一致でもなく。人らしく、人が決めてきたこと。
運命や人生に覚悟を決められること。
少しでも、人として生きて欲しいから。
「……少し話が逸れたであるな」
ヒュールは懸命に、自分で示した。
「不安や怒りのまま、終わるも良し。このまま悲しんで、終わるも良し。笑って無茶して、終わるも良しである。私達はここでも、選択できる。人としての余裕があるのである」
まぁ、少なくなってきたからでもあるか。
それは言わないで
「ゆっくり、考えようではないか。まだ、アレク達の方も旅立てないのであるから」
人は死ぬまで、人である。
◇ ◇
『私は魔王になりたい』
彼女は言った。
『私とあなたで、世界を代えるのよ!』
彼は思った、馬鹿げてやがると。呆れる笑いだったかな?でも、本気でやろうと笑ったのかな?
けど、それくらいはあって、面白いのかもしれない。彼も彼女の言葉、誓いに、頷いて、手をとった。
一つの青春。
ここで、彼女が言った。
『世界を代える』
ぷっ……、漢字を間違えてますよ。お嬢さんって笑う人はいるだろう。
そーいう言葉は、文字起こしされなくては気付けない事だろう。
誰だって、きっと。それは『世界を変える』という、良い意味でも、現実的な意味でも捉えるだろう。歴史的記録を叩きだす事や、伝説と呼ばれることを変えること。
革新的な開発を行い、社会的な貢献を果たすものか。
しかし、彼女はそれすらを埃のように掃いた。ゴミ箱に捨てた。彼も、そー言ったと認識していた。別にそれを笑わないし、喜んで楽しんでやっている。
とっても自然体だった。波長が、イカレている同士。分かり合えたのだろうか。
同種や気が合うと、それだけでそこまでやるか。
嫌いになるまで、血を吐くまで、何かを成し遂げろという人もいるが、彼等は本当にやり遂げるまでやるのだ。迷惑?知らん。血を吐いたら、臭くても、染みができて、無駄にある時間や優良な資源の無駄もあろう。大して、変わらない。そうだね。まったくだね。できなければ価値のないこと。結果が出なきゃ無駄な努力と、蔑んで笑うもんだろう。
出来ない奴はそれでいいだろう。
だから、『世界を代える』とは、全ての出来事から始まること。
宇宙という奇跡に、星という奇跡に、地球という奇跡に、自然という奇跡に、人間という奇跡に、リバースする事をやってのける。
彼女と彼の、『世界を代える』とは、そーいうことだ。それを永遠、到達できず。誰からも確認されなくても。
彼女と彼以外が忘れても、2人強く、忘れず、死しても、なんでも、
『世界を代えるのよ!』
どれだけの時代を超えようとしても、