準備とか泳ぎとか
「こちらになりまーす!!」
ネセリアのサイズに合うだろう水着が倉庫から見つかってさっそく試着するネセリア。サイズ的には合っているのだが、
「まだ、ちょっときついかな。少し大きくなったかも」
「その台詞はあたしが言いたい」
ややきついと胸が言うも、無事つけることができたネセリア。ネセリア、ライラ、春藍、アレクの服は収納しか機能していない"掃除媒体"に入れて、四人共水着姿になっていた。
「お待たせー!」
「うーん……」
ネセリアはその大きさ故にとてもシンプルな赤一色で、逆に派手な姿になっていた。膨張色を使っている。水着にリアからもらった拳銃をくくりつけている。可愛いとか綺麗が似合うネセリアにカッコイイという成分も入った姿をしていた。
一方、ライラは花柄ショートパンツをつけて胸への面積がやや少ないワイヤー水着を選んでみたが、どう考えてもしっかりと覆っているネセリアに完敗している。だけれど、可愛いとか
「2人共可愛いねー」
春藍は平坦に言ってしまった。
春藍も春藍で、"HK"とカッコよく刻まれた白色のショートパンツをつけ、腹筋とかは割れていないけれど、綺麗なお腹を出していた。義足もちゃんと人間の足のようになっているようにデザインした事で結構マシに見える。
「春藍も似合ってるよー。泳ぎが速そー」
「ありがとう。随分と軽く感じるよね」
ネセリアと春藍が楽しそうにお互いの姿を話している間にライラはアレクに何を訊いていたのか確認をとってみて、すぐにアレクは答えてくれた。
「マリンブルーの競技大会というのがあるらしい。それに優勝すると、ここの"お主様"とやらと会えるらしい。この海を造ったり、競技大会を用意しているところを感じると」
「"管理人"で間違いなさそうね」
「ああ。ついでに偉い人と話して、俺達が着けている水着を買うなら選手として競技大会に出て欲しいそうだ。どうも危険なレースらしいが」
「"お主様"に会うにはそれがやっぱり参加する方が良いかもね」
「危険らしいがな、どうする?春藍とネセリアも参加させるか?海中用の道具も借してくれるそうだがな」
アレクとライラはお互いに確認をしなくても参加するつもりでいた。問題は春藍とネセリアだ。2人を参加させて良いのだろうかと、2人の上司らしい悩みだ。
「参加させるしかないでしょ。あたしは"ピサロ"が使えない。アレクもライターが使えない。ネセリアには拳銃があるし、春藍にも参加して欲しいわ。……それでも本人達の意思は聞きたいわね」
「だな」
そして、レースの内容をライラに説明するためにもらったパンフレットを渡したアレク。ライラも目を通して分かった事だが、最終レースを除くとチームで行動する方が良い成績を収められそうなのが分かる。ネセリアも春藍も数だけでなく、力として計算することもできそうだ。
さっそくライラは2人に訊いてみた。
「ねぇ、春藍。ネセリア。これからこの世界の"お主様"って奴に会う予定でいるけれど、こいつに会うにはこの競技大会に出ないとダメみたいなの」
「競技大会?」
「なんだか面白そうですね」
中身を見ていない春藍達にとっては楽しい行事だと思ってパンフレットを見た。
「き、危険なレース」
「死者も出てるんですね」
「ちなみにあたし達が着ているこの水着を買うなら、このレースに参加する事が注文みたい。店の偉い人が。あたしとアレクはこの料金分出ようと思うけど」
ライラが軽口で言うもんだから、春藍は少し大きな声で
「危ないよ!ライラ。そんなレースに参加するなんて!ライラが参加するなら、僕も出るよ」
なんだかまた最近。春藍が少し変わったなーってライラは思った。
春藍も春藍で、ライラの育て親である桂に色々と言われた事がそうさせていた。
「みんなが出るなら私も。……足手まといになるかもしれないけれど、頑張ります!」
春藍に続いてネセリアも出場を決めてくれた。ライラは少し嬉しかったけど、同時に警告も出した。
「まずは命を守ってよ。このレースは一週間に一度は開催されるみたいだから、脱落するくらい平気だからね」
「うん、分かった」
全員が参加を表明した事でアレクがみんなに指示を出した。丁度、偉い人もやってきて地図と紹介状も持っていた。
「ボート屋の"第三鬼丸造船所"と、海中兵器屋の"C,Z"に連絡を入れたところOKが出ましたよ。これが紹介状とそれぞれの地図です。ご参加されるんですよね?」
「おう。何から何までありがとう」
「いえ、こちらこそ。こんなに良いチャンスはありませんから。ご健闘を願っていますよ」
そう言って偉い人は下がり、
「俺と春藍は海中兵器屋に行く。ライラとネセリアはボート屋に行ってくれ。なるべく、部品も持ってきてくれ。俺と春藍、ネセリアの3人なら改造ができるかもしれない」
「頼りにしてるわよ、3人共」
「海中で使える科学なんて初めて弄るかもしれませんね」
「なんだか楽しく感じますね。けど、明後日じゃ時間がそこまで……」
「善は急げだ」
四人は決められた組同士、それぞれのお店へと足を運んだ。というより思い切って泳いでみた。海中の中でなぜクロールができるのか不思議に思ったが、これが意外とスイスイ進む。回りにいる住人達は平泳ぎをしていたり、バタフライという疲れるだけとしか思えない動きまでやってのけている。
ライラは意外と思ってネセリアを見ていたが、春藍とネセリアの泳ぎが上手なのはアレクから教えてもらったからだという。アレクがプールというのを作り、そこで泳ぎの練習をしていたとか。
春藍とアレク。"C,Z"にて。
「いらっしゃい!"C,Z"へよく来たな!!」
中に入るとふんどしのマッチョな大男が……いや、1人だけじゃない。奥に1人、レジのところにも1人。やってきて思う。ライラとネセリアはこっちじゃなくて良かったね。
水温は心地よいがちょっと寒気がした春藍。ふんどしは、ダメだと思うんだって心の中で思った。体型の良いアレクさんだって自分と同じタイプの物を着込んでいる。
「"ピーチパラソル"から紹介された者だが、海中兵器というのを見せてくれないか?」
「良かろう!!しかし、旦那!!中々良い筋肉をしているな!!どうだ、ふんどしも買っていくかい!?お買い得だぞ!!」
「それは却下だ」
カッコイイ、アレクさんって目を出してしまう春藍。そんなアレクさんなんて想像したくはなかったし、見たくは無かったのだ。マッチョな店員はアレクと春藍にアドバイスをする。
「んじゃあ、第一レースに勝つためにまずは波動砲を勧めるぞ!!ここは実験場もあるし、好きに使って構わない!!だが、俺達の厚い筋肉を伝えてくれよな!!」
ならお前達が参加しろよ。
「波動砲か」
「なんだか凄そうですね」
波動砲とは、
海中に強力な振動を与え、魔物を一掃するだけでなく固い岩盤なども破壊してしまう強力な科学兵器である。巨大な物ほど威力も範囲も違うのだ。だが、巨大な物は自分の船にも影響が出るので強すぎるのもダメなのである。40km走破する、"グッドラックボード"だが、魔物に襲われる事は必死であり、強力な武器がなければ沈没してしまう。また、波動砲を用いてライバルが攻撃してくる事もある。ちなみに波動砲は人が持てるほど小型の物がある。
「次に勧めるのは槍土石だな!防御力や魔物避けには優れている!!」
槍土石とは、
槍が大量に付けられたブロックの事である。ボードにとりつけて襲い掛かってくる魔物を一刺し。近づいてくるライバルのボードも破壊できる。防衛のための科学兵器の一つだ。
「随分これまた原始的な(科学じゃないだろ、これ)」
「でも、毒を塗ったりできるなんて怖いですね」
「あとは索敵用の海中眼鏡も良いな!!レース中は視界が悪いところが良くあるからな!!ないと障害物の破壊や回避はできないぞ」
海中眼鏡とは、
付けると海中の濁りがとれて視界がよくなる。ただし、視界がレンズの範囲までなので広範囲を見るには適さない。ここのお店のはそれなりに良い物である。
「ふーむ…………良いのがあるな」
「なるほど、使えそうですね」
「わはははは!!どうだ!!お前達!!中々に装備が揃って、って何を見ているんだお前等ーー!!レースに賭ける男達の商品を紹介してたんだぞ!!!なんで商品を見ない!!」
店員がビックリするほど、アレクと春藍が観察していたのは海中で使える科学の元となる素材だった。魔物のそれや、海でしか取れない資源ばかりがそこにはあった。
「海中でも"科学"を使える部分をお前の"創意工夫"やネセリアの"掃除媒体"に組み込めば、レース中でも使えるかもしれんな。"焔具象機器"と"Rio"は使えんが」
「海中科学を改造するのも楽しそうですね。ネセリアの拳銃も少しは射程が増すかも……」
「お、お前等ーー!!人の話を聞いていたかーー!!?」
春藍とアレクはオススメの商品よりも、ここの科学を作り出している素材を頂いた。店の人達にとってはガラクタ同然であったためありがたい事だったと思うが
ともかく春藍達もそれなりの道具を用意した。
ライラとネセリア。"第三鬼丸造船所"にて
「ようこそ、第三鬼丸造船所へ。話は聞いているよ!」
法被姿で白ハチマキをつけ、パイプもしゃぶった女提督がそこにはいた。刺青までつけられたちょっと、怖そうなお姉さんだった。
「はっはっはっ、女性の競技参加者は応援したくなるよ。あたしも昔はバリバリの参加者だったからね」
「そ、そうなんですか」
「それは頼りになるわね」
「第二レースまで行ったことがあるよ、だけどそこからは無理だった。次女と三女を亡くして以来辞めちゃったけど。あんた達にはそーならないように最高の船を提供するよ」
「ありがとう」
レース経験者で造船技術を持っている女提督。
"鬼丸造船所"は1番~5番まであり、3番というのはとても中途半端というか普通の造船所みたいなところだ。1,2番の造船技術や人材には勝てないかもしれないけど。それでも負けるような船は提供しないのがモットー。実際、第一レースを突破しているボートをよく輩出している。
「あたしは女しか雇わない主義でさ。男がいると、頼りたいと思っちゃうじゃん?でも、あたしは女なりに男に負けない事をしたいのよ」
「とてもカッコイイです!」
「ありがと。じゃあ、サービスにその立派なお乳を少しあたしにも揉ませてよー」
「へ?」
女だが、中身はおっさんみたいな奴とライラは思った。豪気な人でこーゆうところを除けば本当に信頼できる相手だと分かる。
女提督はネセリアに興味を示したらしく、肩を組みながら案内した。
「この船をオススメするよ。第一レースの"グッドラックボード"ってのは走破が目的でスピードはそんなに大事じゃない」
「け、結構大きな船ね」
「これ海中で動くんですねー!」
第三鬼丸造船所作、"鬼女丸"
中型の船であり、最高速度は70キロであるが高い防御力と持久力を兼ね備えたタフな船。波動砲の衝撃も楽々防ぐ。現在6連続で"グッドラックボード"を走破している船でもある。
「自信作を贈ったから必ず勝ってよ!」




