伊達・ネセリア・ヒルマン、登場
ガチャァッ
「アレク!なぜ通信に出ない!」
クロネアはアレクの寮室に突入した。アレクは技術開発局の運営や管理にも一役買っている。加えて、春藍とアレクはかなり仲が良い。ここに向かった可能性もあると踏んでいた。そして、連絡に一切応じない事から予感は的中している。
「ここもいないだと?」
クロネアはアレクの家を調べる。春藍とライラはそこまで大きくないが、アレクは体格が大きな男だ。隠れられる場所なんてない。いないとしたら、行き違いの可能性くらいだ。
「!春藍とライラの髪の毛、彼女の香水もわずかに残っている」
春藍とライラがつい先ほどまでここに訪れている事が分かった。
そうなれば協力者は春藍とアレク。この二名であることを理解できたクロネアはすぐさま、技術開発局全体に放送をかける。アレクの立場を利用し、呼び出しである。
『アレク主任、今井氏が呼んでおります。至急、管理人の下へ来るように』
アレクや春藍などを除けばほとんどの住人が管理人の支配下にある。アレク自身が来なくても、彼の仕事仲間は律儀にするため管理人達にアレクの居場所を教えてくれる。また、カメラなどを用いてアレクの捜索も試みる。
相手は三人もいる。とっ捕まえるのに時間は掛からないだろう。
「アレクめ。どこにいった」
広場はラッシが抑えた。そして、技術開発局内も嘘を掛けつつ捜索網を出している。
それでもなお見つからないとなると。長年、アレクが技術開発局に勤めていたおかげで、監視の目がない通路を知っているのではないかとクロネアは考えている。確かに完璧な監視は出来ない。使われていない道を監視しても意味がないと思っていたからだ。
だが、それならそれで。どうして目撃情報が少ないのだろうか?
「それは後でも良いか」
クロネアは監視の目が少ない場所の捜索に回った。その途中でいくつかの人間が見たが、特に変な素振りは見えない。
だが、クロネアが走り去っていく様子を掃除しながら見た、黒髪ポニーテールで瞳の大きいメイドは少しホッとしたような顔を出していた。
管理人を恐れていたし、唐突に言われてやった事。
「い、行きましたよ~」
腰が抜けたようにヘタれるメイド。技術開発局の製造員兼清掃員に務めている女性。女性の下で奇妙に動き回っている円盤状の科学は、周囲の物を吸い取る力があった。
「アレクさん、春藍、異世界の方」
女性は円盤を拾い上げてそれに話しかけた。彼女の声は鮮明に円盤状の、CD状の科学に良く届く。
「ビックリしたわ。なんなのよ、この空間は?」
「その説明は後で本人がしてくれるだろう」
「ネセリアが来てなかったら、僕達は終わってましたね」
CD状の中は世界とは違う別の空間。とても薄暗く、埃が酷い。グシャグシャになった要らなくなった資料などが散乱、比喩でもなくここはゴミ置き場のような場所であった。
『アレクさん、これから私はどうすれば良いんですか?それと、呼び出しされてますよ』
「それはどうでも良い。ネセリア。技術開発局の地下の行き方をしているか?ケーブルや水道、電力などを通しているところだ。そこならクロネア達も来ないだろう」
『あ、あの。そんなところあるんですか?』
「お前も知らないか。ま、無理もないか」
アレクは頭を抱えた。自分が出ればすぐに辿り着けるのだが、ネセリアも春藍も知らない場所。管理人達にとっては数百年入った事がない、技術開発局の心臓部であり、どこの場所とも繋がっている地下通路なのだ。
ここが壊されると技術開発局が回らなくなるため、一部の優秀な人間にだけは継承するように教えられている。ここはもう下手に修理ができないほど、半永久的にシステムを変えることができない。
「俺の部屋に地図があるはずだ。クロネアに見つからないように探し出してくれ」
『分かりました!"掃除媒体"で探し出しますね。大きさとか分かりますか?』
「そこまで大きくはないが、本にしている。"本棚"と"地図"で探ってくれ」
『はーい。じゃあ、持ってきますね』
ネセリアは軽い足取りでアレクの家へと戻っていった。春藍達が隠れている場所は、彼女の"掃除媒体"の中。掃除の時間のため、呼ばれたところを利用されたのである。本人は隠蔽という行為を行っており、春藍共々極刑に値する。そうなっているというのにネセリアは、知ってか知らずか協力的。管理人の事が好きではないというのは春藍やアレクと同じである。
ウィィンッ
伊達・ネセリア・ヒルマン
スタイル、科学
スタイル名、掃除媒体
CD型の科学。
収集する能力を持つ。主な用途はゴミの収集。ネセリアはこれを8つ所持している。
CDに吸われると、異空間に辿り着く。ソファやベット程度の大きさまでなら収納でき、重さと量に関しては異空間の広さもあって、相当な数と重さに耐え切れる。CDによって空間のサイズが異なるらしいが、どれも3人程度は余裕で隠せるほどのスペースを持つ。
検索しながら物を収集することもでき、ネセリアの意志で中にある物を出し入れする事もできる。
CDが外から破壊されると。中にあった物が取り出せなくなる。
ピィィッ
「!見つかったみたいです」
かなり古そうな地図本が現れる
「これを参考に向かえばいいんですね」
『ああ。地下に着いたら、俺達を出してくれ』
地図を見ながら進んでいくネセリア。
彼女は春藍と同期であり、春藍と同じ理由に近く。別の国からこの技術開発局に訪れ、製造業に励んでいた。
やってきた時。アレクには散々助けられ、春藍ほどの才覚がなかったため当初はキツイ目をされたが、清掃を兼ねる事で評価は上がっていた。
どちらも楽しい。誰かが喜んでくれたら、幸せで楽しい事だと思う。
ネセリアが春藍達をとっさに救った理由はそれくらいだろうが、十分だろう。
ビリイィッ
「うわぁ、……こんなところがあったんですね」
剥がれる床。普段、掃除をしていても気付けなかった。完全な床を演じていた扉。
はしごがすでに掛かっており、ネセリアは慎重に降りながら。床も閉じて下へとついた。
「アレクさーん、着きました。暗いですけど出しますよ」
春藍達が入ったCDを取り出したネセリア。
ポウウゥンッ
「お、出れた」
「暗い!!」
出た場所に驚いて構えてしまうライラであるが、アレクはすぐに自分のライターに火を灯した。
その火はアレクの持つライターしかないのだが、暗い地下通路をドンドンと照らしていった。余計な電気を使わずに自分の力で周りを灯す。
「行くか」
「アレクのライターも"科学"なの?」
「ああ。だが、こーゆう事より先に広場に向かおう。着いて来い」
アレク・サンドリュー
スタイル、科学
スタイル名、焔具象機器
ライター型の科学。
火を作り出す能力を持つ。とても単純な能力であるが、アレクの火は温度も明るさも、色も、形も自由自在にコントロールでき、莫大な力を持っている。
タタタタッ
少し早歩きで、アレクを先頭に進む四人。
「ネセリア、付いて来て大丈夫?」
「平気平気!アレクさんに春藍も付いて行っているんでしょ?なら私も大丈夫!」
「あ、相変わらずネセリアは楽観的だね」
春藍は成り行きで付いてくる事になったネセリアに心配したが、彼女の性格を少し見習いたいと思えた。今と戦ったり、過去と戦ったり、未来と戦ったりしようとする気持ちがまるでない。その場凌ぎで良いやという笑顔を見せてくれる。
「悪いけど、拒否する事はできないからね。あんた。ネセリアって言ったっけ?」
ライラは春藍やアレクとは違い、助けられ共謀した時点で連れて行こうと決心していた。ネセリアが今から戻りたいと言っても強引に行く。春藍とアレクが言っていた。戻れば処刑されるのだ。人の命を奪うために自分は世界を飛んでいるわけじゃないからだ。
「はい、伊達・ネセリア・ヒルマンと言います」
ネセリアは笑顔でスカートに手を掛けながらお辞儀をした。ライラはネセリアの顔より、ちょっと下を見ていた。そして、胸デカ。
「よろしくお願いします。異世界の方」
「!、ってその呼び方は違うでしょ。あたしにもネセリアと同じ名前があるんだからさ」
「あ、そうですよね。失礼しました。お名前を教えてくれませんか?」
「ライラ・ドロシー。ライラって呼んでね」
「はい、ライラ。ですね」
ライラはちょっとウンザリしてしまう顔を出した。アレク以外、2人共暗めというか主張をあまり持っていない。
聞けば答えてくれるけど、自ら人に聞くという事をしないのか。そこまで関心を持てないのか。
人としてどうなのだろうか?
にしては、春藍はネセリアに訊くし、ネセリアは春藍に訊けるんだろうけど。
「そう不快な顔を出さないでくれ」
「なによ」
アレクはライラの顔を見て、何を考えているのか当てて言ってやった。
「俺達はそーゆうもんだ。余所者にどう接すれば良いかわかんねぇんだよ」
「……そ」
にしてはアレクだけは、上だからってのもあるのか分からないけど。ライラ目線では人らしい。
「緊張する必要ねぇだろ、春藍。特にお前だ」
「え、えぇっ?」
「今はこうして進む事を優先するが、黙る必要はない。今は仕事じゃないんだ、大脱出なんだぞ」
「し、仕事ではないんですね。アレクさん」
指摘されるも、じゃあ、僕はどうすればいいんですか?という顔をする春藍。
ネセリアはボーっとしているような。とにかく、みんなに付いて行くだけと決めている顔なのだが決意しているわけではない。気楽にしている表情。
「えっと、質問を良いでしょうか?アレクさん」
「なんだ?」
ネセリアは今の状況を整理。自分だけはアレクと春藍とは違って飛び入り参加した制作業務の状態だった。質問すべき事より、何が重要か知りたかった。手順について明確に知ろうとする顔。春藍と同じ仕事人のような顔だった。
「今はどのような目的を求めているんですか?また、その先のビジョンはどのようなものですか?」
随分と機械的な質問だ。
こんな訊き方、ライラは絶対にしない。もっと砕けて明るい言い方をする。アレクはともかく、春藍とネセリアを連れて来たのは失敗だったような気がした。
そして、ネセリアの問いにアレクは
「今は世界を出るためにライラの力とベンチェルロ広場に行かなくてはならない。その先についてだが、ライラの移動方法はどこに行くか分からない。ビジョンの立てようがない。そもそも、移動が成功することが100%ではないしな」
「なるほど、では私と春藍はアレクさんのために成功率を上げるように」
返し方がとても機械のようであり、春藍とは違った忠誠をアレクに誓っているネセリアだった。
春藍と違いネセリアは、仕事に対しては熱心な面がある。(それ以外は温和かつ楽天家)
最大限の努力だけじゃなく、成功するため最大限の工夫を凝らす。脱出なんてやった事はないが、頭を回せるようにしていた。頭だけは回っていて良い物だから。
だが、
「俺のためじゃねぇよ。俺達のためだ」
「!」
「ネセリア、春藍。とにかく、外に出てみよう」
アレクは春藍やネセリアも含めていた。自分だけのためじゃないと言っていた。