表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RELIS  作者: 孤独
災害編
599/634

財産


「この先長く生き残れたとして、私達に何ができる?私は、」



"未来で生きる事を諦めたのである"



「冷静によく考えて欲しいのである。助かるのは、6人。どう助かるかも、私達では予測できないことである。ただ生きているだけで、人は何が残せようか!」


"ここが、我々、人類の終点"


"それでも、先を生き、生まれる者達に、伝えるべき事はある"


「所詮は。生きて、死んでを繰り返す。生物のことわりが生み出すものがあったのである。それの一つが管理社会であったのである」


かつての人類は滅んだ。それでも人類を再生させるための、社会を残して人々を再生させた。

先人は叶えてみせた。

今の我々は、その時の彼等のように。ここに生き残っており、やり遂げねばならない。


「死して、滅んでも、成せばならないのである」



問いは、アレクが行なった。



「何をする。ヒュール」



引き受ける形で言葉を飛ばした。

今にも終わりそうな状況でやれることなど、社会でも規則でもない。


「私達を継いで欲しいのである。この社会を、この歴史を、先に残して欲しいのである」


財産。


「それは形あるものじゃねぇな」

「そうであるな。意志という形で、お前達の中で生きていきたいのである」


形なきもの、故の提案。

ヒュールのそれは詭弁に等しいと思い立つ、それを人が口にする。でも、弱く。



「死ぬことを、ホントに受け入れるのが、怖いです」

「自殺と変わらないかもしれないです!」

「私達は助かる人を笑顔で見送れるのですか!?」

「それを知りたくはなかった!」


無数にあがる声。それにキレるも、黙らせるもなく、ヒュールは受け止めていた。

そして、ただの謝罪などではなく、非情な選択という形で住民達に伝える。私達がやるべきこと。

大切なものが途切れ、倫理に反する行いに戸惑いがあるわけがない。

無理矢理、遣り繰り。



「……私達、死ぬ者のこれからは」



顔を変えるくらい、無理矢理な笑顔。



「今の惨状を忘れ、いつも通りの生活で過ごす事である」



泣きたい時に泣けないくらい。その苦行を強いる。強いるくらいでしか、アレク達の助けになれないこと。

私達があなた方を忘れても、あなた方が私達を忘れないでいること。


「そんなこと!できるわけない!」

「どーやって!?この状況!この災害を、忘れろって!?」


当然の反応。

しかし、それに素早く。夜弧がお伝えする。


「私の"トレパネーション"の、記憶操作を用いれば。今の惨状の記憶の書き換えと、消去ができます」


ヒュールからの説明では、まだ足りないところと、誤解が生まれる。


「あなた達の記憶の全てを消したり、書き換えたりする事はありません。そのような事は一切致しません。ただ、消せるのは記憶と、それらの記録といったところです」



脳内にあるメモリを消去するのであり、肉体が覚えている経験や慣れというものを消し去るわけではない。

即効性はあっても、後々。体から出る違和感に気付いてしまいます。

幻覚でも誤魔化しきれるレベルの状況ではないため、この懸念は解決されない。



「そう長くはない記憶喪失というのを、皆さんにさせるかもしれません」



この場でヒュール自身にも伝えた。本当のところ。

住民の不安、混乱は多少。


「一時的。しかし、世界の全てが滅ぶまでには十分な時間である」


夜弧の力で、生き残った住民達の不安が飛ぶ。それを受け入れるか、それとも抗うか。

問う者もいる。


「き、記憶を消して。不安を失くして。危機から背ける。でも、笑う」


記憶操作で生きる希望を作る行為。そのものが正しいことであるのか?


「それが人の生き方なんでしょうか?私達が怖い思いをした。それこそが先に伝えるべき事じゃないですか?」


災害に背けて、笑って死ぬなど。他者から見れば、イカレているのか。あるいは、そのものの隠蔽に繫がるのではないかという事項。

繫がるものが何もないが



「………あ」

「……そうか」




気付く者は、気付く。自分達が残酷な目に遭い、仕打ちを受けること。それでも繋げた、ある物。


「彼等が生きるのである。彼等が伝えていくのである。それほどの事であると報せるのである」


人類の選択。

詰め寄る者と、詰め寄られた者。

記憶を消し去ってまで、災害に恐れ。幻であっても幸福を、望む。

死に方の問題。



「怖いを受け止めろとは言えないのである。私だって怖いのであるから。ただ、憎しんで死ねないのなら、偽りでも笑って死ぬことが人の本懐と思っておる。どうか考えて欲しいのである!強制ではないのである!」


……その上で、ヒュールは重たい。とても重たい選択をこの場で伝える。


「私は災害の記憶を消すつもりはないのである。みんなが死んでいくところ。笑っているところ。自分が死ぬ、その最後の最後の、最後まで!私は責任をとって、あなた達を見守り。大切にしていく所存である!遠慮する必要はないのである!忘れる事で救われる苦しみが、今にあるのである!」



できれば、そんなことなく。分かち合って生きたい。

けれど、その分かち合うという形骸化けいがいかが、これくらいのこと。提案し、話し合い、また、やっていくこと。人の選択をヒュールは作る。そして、その光景を生き残る者達に届けさせる。

生き残ることも残酷だってものを、伝えている。



「…………あの」



ヒュールの言葉に、表情に、諦めを匂わせる空気が作られた。

しかし、人は尋ねる。ヒュールにではなく


「生き残る方たちは、どーやって、生きるのでしょうか」



まだ、助かる人が分かっているだけ。

彼等がどのように先に行くかを、人達は知らない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ