死場
ドゴオオォォッ
「よっ!」
瓦礫の蹴散らしが、文字通りのやること。水羽が派手に物理で殴り飛ばし、蹴り飛ばす。比較的、平らな道を進んでいく住民達。
先頭を進む水羽に、30mほど離れて、夜弧とヒュール。それに謡歌。続いて住民達。
最後尾にロイ。
「杞憂であるか」
不安があれば、この移動中だった。
ヒュールも気付くほど、穏やかな"SDQ"の様子に不安が飛びそうだった。
そして、夜弧に尋ねる。
「今朝伝えた事ができるのであるか?」
「可能です」
それはできるか、どうか。答えることくらいはできる。問題はやるか、やらないか。こんなもんを訊くほどであった。
「ホントにやるのですか?」
「私の決断である。それを、人々に教えるのが私の役目である」
残る生存は託す事に費やす。
「償いは、私がそのまま生きることである」
「!わ、私も。そのままで大丈夫です!夜弧さん!」
「謡歌!君は知らなくて良いのである」
「でも、私は……そんな。逃げる事なんて、できません!!ヒュールさん1人に、したくもありません!」
意見は纏まらない。また、話しの全てはアレク達がいるところに着いてからとしていた。
休息を挟みながら、半日とちょっとで見えてくる。
また先行していく水羽が先に、
「ライラーーー!春藍ーーー!アレクーーー!」
「水羽!?どーいうこと?」
3人と合流した。ライラ達もその向こうで、住民達がこちらに移動してくる事に気付き、驚きがあった。
「ヒュールがあとで話しがあるって。特にアレクにさ」
「っていうか、よく全員で来たわね。何事もなかったの?」
「うん!何もなかった!」
ホッとした水羽の顔は、もう終わったものとしていた。先頭ということで
「道を間違えたら大変だったよ」
「あんた、そこが大変だったの?襲撃されるとしたら、あんたが一番大変だと思うけど」
「だって、道がもう何にもないって感じじゃん!護衛は大丈夫だけど、誘導って慣れてないし」
水羽とライラが話し、それから程なくして、夜弧とヒュールなどの住民達が入ってくる。
「春藍。少し頼む」
「はい!」
さすがのアレクも、この状況を好ましくないと思い。ひとまず、春藍に任せてヒュールの方へと向かっていった。怒りの顔ではなく、
「これがお前の判断か?」
「否定であるか?」
2人はそそくさと、辿り着いて疲れたばかりの住民達には見つからないよう、隠れながら話し合った。
「住民が全員来たのか。それで間違いないか?」
「うむ」
「ここにはタイムマシンがある。どうするつもりだ?」
「あるから私達が来たのである」
言葉がすぐに止まったのは、アレクの方で
「お前ができなかった事。私がそれを補うことに、アレクは認めてくれるであろう?」
「……助けられない事実は知っているのか?」
「それをちゃんと伝えたいのだから、来たのである」
「暴動もんだ。どーなるってんだ?分かってるだろ」
「分かっておる。ただ、アレク達がこれから先を生きるというのなら、私達の意志を見守って欲しいのである。私個人として、アレク個人に託すことである」
ヒュールはアレクの白衣の内ポケットに入っているだろう、ライターと……
「?」
「重たいもん、背負わせるな」
ヒュールの行儀知らずの手を振り払って、話しを続ける。結構、驚いているヒュールがアレクを目を丸くして見ていた。
「これ以上、ふざけたもんをな」
「……それと同列であるか?」
「同列だな。俺にとっちゃ、同列」
「私と、私達の意志がそれくらいであるか?」
「それくらいだからだ!ふざけたもんって言ったが、俺に抱えられるもんだ」
訊いておきたい事がまた一つ増えて、こうなんか。死なせる気を、削いでくれるなぁ。
「助けられねぇ。でも、お前を殺せねぇ。それだよ」
「……ありがとうである」
◇ ◇
パリッ パリッ
チョコの食い方が、タバコを味わっているみたいに長く。口だけは堪能中だった。
アレクはお手並み拝見中。
「ライラ、ライラ……」
「なに?でも、分かってる」
春藍がライラをこそこそと呼びながら、分かっている事を聞いてあげる。
「アレクさんが改造そっちのけで、みんなの動向を見守っているよ!」
「というより、ヒュールの事を気にかけているだけよ。あなたはアレクの言われた事をやってなさい」
住民達が歩き疲れ、休息に入っているところからだ。
ヒュールはその全ての人に語りかける。それがこれから生きてくれる人達のために届ける、意志。
「長い旅であったである」
タイミング的には、考えるという余地を与えなかったのが、良い。
意志に乱れを生じさせないためである。
「先日、話した通りである。私達は死ぬことになるのである。そう長くはないはずである」
改まっての事だ。何度言うねんかんもある。そこに来て、住民達にとってはとんでもない例外が入る。
「ただ、アレク、春藍くん、ライラちゃん、夜弧ちゃん、ロイさん、水羽ちゃん。あなた達、6人には生き残れる道があるのである。そこにある、代物が助けてくれるのである」
ヒュールはここで、住民達にタイムマシンという代物とは説明せず。この絶対滅亡状態からの脱出がある、装置だというのを伝えた。
確かに今も、春藍が整備を行なっており、アレクが研究と称してどこかにいたのも住民達の中では知られていた。
唐突も唐突で。声を挙げようとするも、
「それは、6人乗りである」
それよりも早く。そして、嘘として。ヒュールは住民達に伝えた。
一手。遅れる。
「ど、どーいうことだ!?」
「助からないと言われたり、助かると言ったり!!」
「私達は助からないのですか!?」
理由を聞いても、納得がいかないという状態。当たり前とも言える。
こんな事実で暴動をしないのはおかしい方だ。万が一、あり得ないが。ここの誰かに使われたり、壊されでもしたら意味もない事だ。アレクは見守り続ける事だけに徹する。
「静粛に」
ヒュールの一声で、場は静まりそうになるかと思ったが、
「なんでその6人なんだ!」
「私達の命をなんだと思っているんですか!?」
止まることはない。不幸が、それだけ強いと示す反応。数も大きくなる。
「静粛に!!」
その分だけ、ヒュールの声も大きくなった。そして、動揺のある声が止んだ。
咳払いを一つし、
「私達がなぜここまで歩いたかを、考えて欲しいのである」
それはヒュールの言葉、指示に従ったからだ。
「私達に歩くという意味はなかったである。それでも歩いて頂いたのには理由があるのである」
もっとちゃんとした意味で答えるのならば、ヒュールとして
「ここが私達。人類の死に場所なのである」
残酷な伝え方にして、
「そして、彼等6人こそ。私達が見送る、ここの人類達なのである」
決定してしまう。決断させてしまう声。
「私達が生きていられる事が奇跡であった。彼等があって、今の命がある。今の言葉が届くのである。感謝の意義があるのである」
納得してくれ。
認めてくれ。
そんな気持ち、本当は作りたくない。
こんな覚悟なんて、受け入れなんてさせたくない。声も出したくはない。
覚悟を固めなくては見送れない。きっと、全員死ぬ。
なぁ、なぁ、なぁ。私からこうして、言わないとならないのであるよ。
「ふ」
ヒュールは微笑んでいた。吹っ切れても、言葉通りに優しい笑顔。向けていたのはアレクの方。
「だから私達は優しく、彼等を見送ってやろうである」