問合
シンシン…………
"SDQ"が降り続いている。
アンリマンユの屋根もいくつも崩壊している状態に、眠れるもんじゃない。
しかし、不思議なことが起こっていた。
妙に静かで、想定以上に被害が少ないこと。特に積み込まれるように来て、残ってしまう"SDQ"という災害には、人々は不眠不休かつ交代制で対応するのが、時間稼ぎとしては当たり前のこと。
人を多く失った今の状況では、生存環境を保てる状態にはなれないはずだった。
その事を感じている者は何人かいる。理由までは誰も分かってない。
人が眠ったり、活動を停止させているとされる休息時。その時に災害というのが、ほぼほぼ止まっていた。人に合わせるようにだ。
それが人々に与えた思考の休憩に役立っていた。
「夜弧殿」
「はい」
翌日のこと、夜弧はヒュールに声をかけられる。
自分も寝て、食べて、それから考えた。
その上で問題となりそうな、不安の面を解消できるとしたら、彼女しかいなかった。
「これから私は、人々を苦しませるかもしれないのである。そんなことであろうとも、協力していただけるかな?」
「………私にできる事ですか」
想像はつくかもしれない。
精神操作、記憶操作。
言葉を濁しても、純粋な悪という手段か。幸福な光ともなるか。
ヒュールの出している答えは、もうすぐ分かること。
「おーっしゃ!飯食って、アレクのとこ行くぞーー!」
「昨日、ライラ達が戻って来なかったけど、大丈夫かな?」
「春藍のことだ。アレクに付き合って、ライラも残っているってところだろ」
「ロイは分かってるんだね」
ロイと水羽も休息、睡眠によって、声に明るさがある。特にロイは大きかった。
「ヒュール、負傷者や子供達はどうする?ホントに全員で向かうのか?」
「全員で行くのである。辿り着くまででも良いのである」
「ロイさん。私達が足を引っ張ってしまいますが、一緒に行動させてください」
「僕もその方が良いと思うよ!僕達も固まっていた方がいい」
「……そうか。ちっと、歩くし。歩き辛いからよ」
人を心配してのことである。
しかし、全部の荷物を抱えて、町ごと移動ってところだ。犠牲は出るか。不意も怖い。
「みんなの歩幅はヒュールと夜弧が合わせろ。水羽はちっと前に出て、瓦礫とかの障害物をどかして、道を作れ。場所は分かるよな?俺は後方でなんかあった時の対応をする。藺兆紗が出てくるかもしれねぇ。戦いや護衛は俺に任せろ」
「……ロイって、こんなに優しかった?」
「優しいぞ、俺!なんか変なこと言ったか!?」
危機を目の前に突如零れるような、変化。
ハッキリと分かるもんが。見えてくるってもんが、元気に繫がるわけだ。
「俺は細かいことは気にしねぇ、好きにやれよ。ヒュール」
「……ありがとうである」
こーいうサバサバとして、自由にできる。ロイの生き方や前向きなところを見て、ヒュールが少しホッとした。
アレクへの報告なしに向かうというのだから、とんでもないことである。
何を言われても、構わないとしている。そう見得を作っている。
全員の支度が整って、
「行くのである!」
ヒュール達は春藍達がいる場所に向かうのである。
◇ ◇
ガシャァンッ
「ここの修復を頼む」
「はい!」
アレクも、春藍も、協力しあっているところ。
「仲良いね」
ライラは一睡してから目覚めても、変わらない二人の姿勢に羨む。
このまま順調ならば、残り6日。
「アレク。あんた、春藍に少し任せて休みなさい。戦ってもいるんでしょ?」
「あ?」
「順調なんでしょ。私には分からないけれど」
「アレクさん!少し休んでください。僕も、アレクさんが休んだ後から休みます」
少し邪魔されてイラッとした。しかし、その顔がすぐに引いて、
「任せるぞ、春藍。1時間は寝る」
「はい!!」
そう言って、ライラの近くまで来てアレクだった。春藍は彼の力になれると、キラキラした眼で改造に取り掛かっていた。一方で、アレクの眼は別の視点からの、ギラつく眼。
「何もねぇよ」
「でしょうね」
ホントに時間の問題。それがアレクの答えである。
確かに。まだアレク達は知らないが、これから来るヒュール達が来たとしても、改造という面においては問題なくやり通せる。
藺兆紗、"SDQ"、
「お前の言う、よく分からない赤子も、脅威にならねぇ」
乗り切れるかどうかが、鍵だ。
「得体の知れない不安を感じているのか」
「そうね。でも、焦らなくて良いでしょ?1時間も、2時間も、違いはなく。6日後に完成で」
「この状況が保てば、分かっているんだろ?」
考えても、仕方なく。
力の温存。蓄え。
「俺は寝る。腹も減った」
「はいはい」
アレクは寝る。その後に春藍も休みに入る。
3人の状態も、これから来るロイ達の事も含めて(3人は分かってないが)、決して悪くはないだろう。
順調に日を消化することだ。
しかし、春藍を除く、実力者達はほぼほぼ分かりかけていた。
「………………」
ナニカクル……。
◇ ◇
ビジィッ
「っん……んん……」
動かず、動けぬ事が、幸いしているだろう。
ガシイィィッ
「ふふふっ」
”黄金人海”の空間内に、バードレイは幽閉されていた。そこにある人材を育成するプログラムを受けている。頭に様々な怪しい機械を差し込まれ、差し込んだ本人にも問われる。
「……ホントに、可能なのか?」
藺兆紗の問い掛けも当然である。
バードレイが求めた能力は、至極シンプルであり、発想ですら凡庸であった。しかし、辿り着いた者は誰一人いない。純粋なる力と言って良く、全ての能力の終着地点とも言えるものか。
宝石の価値が分からぬ、子供に与えること。お札を口に入れてしまう赤ちゃんのような、願い。
「朽ちる、果てる」
「?こっちは壊れてるけど」
「なら、何も言わない」
知識がなければ使えず、力がなければ使えない。
どれにも満たさない。ぶっ壊れぶっ飛んだ意志に反して、とても普通な素体。その素体の教育、強化に藺兆紗の”黄金人海”で補おうとしていた。
能力を宿す前にその反動で体が崩壊すると、藺兆紗は諭そうとするが、バードレイには通じない。
バヂイイィィッ
いきなしのスタート。バードレイの能力開発が始まった。
「……んんっ!!いっ!」
それと同時に、バードレイの肉体は一瞬にして四散した。
不釣合いとなった藺兆紗が、”黄金人海”に一度裏切られたように、バードレイがその能力を宿すには不十分や不適合では済まされない。天と地が開いた、上下関係がある。